序
迷い夜行―紅牢夢―は『迷い夜行』、『迷い夜話』の続編となります。未読ですと不明な点が多くあると思いますので出来れば前作、前前作を読了後にお読みください。
御方様はわたくしには赤が一番似合うと仰って下さいました。
御自分も赤が最も好きな色なのだ、とよく仰っておられました。
ですからわたくしは御方様の選んで下さる、御方様の愛する赤い衣がとてもとても好きだったので御座います。
御方様がわたくしのために特別にあつらえて下さった、真っ赤な椿の縮緬細工の髪飾り。
わたくしの肌によく映えると、真っ赤な紅をお取り寄せ下さいました。
そして赤紅、真朱、緋色、猩々緋、京緋色……。御方様は様々な赤の衣を仕立てて下さいました。
ですがわたくしに最も似合うのは純然たる赤だと御方様は仰いました。
赤は太古の昔より生命の色。
その色こそがわたくしに似合う、と。
お部屋には他にもたくさんの赤いお道具が溢れておりました。御方様とわたくしはそこで赤というこの世で最も美しい色に囲まれ、幸せな時を過ごしたのでございます。
けれど下賎な輩は御方様の愛する赤で溢れる部屋を見ては悪趣味だと罵り、繊細な御方様を傷つけたのでございます。
お可哀そうな御方様。
ああ、どうかそんなお顔をなさらないで下さい。
貴方様にはわたくしが居ります。
貴方様の憂いを取り除くためでしたら、何でも致します。
だからどうかどうか、笑って下さいまし――。