-1-
「LOVE SICK」という大学生BLのキャラが少しだけ出ますが
知らなくても本作品は読めます。
興味がある方は是非読んでくださいね
【おれを身代わりにすれば良いよ】
そう告げた
【あいつの名前呼びながら、おれを抱けば良いよ】
------それはまるで悪魔の契約
高校一年の夏、おれ達は見えない鎖で縛られた
*****
「よぉ祐也」
「砂月さん、今日遅出っすか?」
「そ。祐也は上がり?」
「いや、延長っす」
「じゃ、一緒か」
砂月と呼ばれた青年は笑いながらバックルームへ向かう。
三宅砂月----現在大学四年の22歳
一見すると、美女に見える容姿からは予想がつかない位口が悪く、女だと思われ告白してきた男を汚い言葉で罵倒したことも数知れず。
背も高く、178cmのモデル並の容姿から女からも告白はされるようだが、今のところは彼女を作らずにいる
「変わりまーす」
バックルームから、店のエプロンを付けた砂月がカウンターに戻ってくる。
「砂月か、後よろしく。じゃあ上がります」
砂月と入れ替えに祐也の隣にいた男がバックルームへ消えていった。
それを見送ると、祐也は自分の隣に来た砂月を見る。
「砂月さん、戻りのブツ…」
「あ〜、いい。おれ行くわ。祐也カウンター頼む」
「はい」
砂月は祐也をカウンターに残し、戻ってきたレンタルDVDを棚に戻しに行く。
深夜二時
24時間openのこの店には、僅かながらも客がいる。
砂月は映画の棚にDVDを入れ終わると、残りを奥のカーテンに仕切られた場所へ戻しに行った。
AVコーナー
今は誰もいない場所で砂月はDVDを戻し終わると物色し始める。
(借りてくったってなぁ…)
あまり好みの新作もない。
(呼び出すかな…)
頭を掻きながら、砂月はそのコーナーを後にし、カウンターに戻る。
相変わらず、暇な時間帯だ
「祐也」
「なんスか?」
「彼女、元気?なんつったっけ?ミユちゃん?」
「別れました」
「あらま、早いな。もうすぐクリスマスなのに…」
「好きでもない相手と付き合うの、無意味になったんで…」
そう言った祐也の脳裏に浮かぶのは、最近気持ちが通じ合った同居人
自然と顔が緩んでいたのだろう。
砂月が察する。
「本命?」
「まぁ…いちお。砂月さんこそ、相変わらずフリーですか?」
「体だけの相手ならいるよ」
笑いながら言う砂月を今度は祐也が見る。
祐也より少し背が低い砂月は、形容するなら可憐な美女なのに…
(言うこと、過激だな)
祐也は苦笑した。
「体だけって、随分割り切った女っすね」
「女じゃないから」
「はぁ?」
「男。抱かれてんの、おれ」
何事でもないように言う
「男…」
「そ。気持ち悪い?」
「いや…それは無いんですけど」
気持ち悪いもなにも、祐也の相手も男だ
嫌悪は無いが…
「体だけって…まさかウリじゃないっすよね?」
「さすがにね。でもそれよりもタチ悪いかもなぁ」
喉の奥で笑うように、砂月は笑顔を浮かべる
「あいつの気持ち利用して、襲ったんだよね〜」
「……?」
「ホモで強姦。ついでに脅迫して、今も一緒にいんの。最悪でしょ、おれ」
そう言って、砂月は祐也を見上げた。
「それでも、あいつと一緒にいたかったからって免罪符にならね?」
「…と、言われても…」
祐也には何と答えて良いかは分からない
「無理だよな〜。おれ、最低最悪だから…」
それきり、砂月はこの話を持ち出すことなく仕事をこなした。
******
砂月がバイトを上がったのは朝6時。
臨時で延長していた祐也は既に上がっていた。
「おつかれっした」
砂月がコートにマフラーと防寒して外へ出ると、朝焼けと共に冷たい風が身を切るように吹く。
12月の頭ともなれば、この寒さが普通なのだろうが…。
「さむっ」
思わずマフラーを口元まで上げた。
その後ろ頭をいきなり小突かれる。
「って!」
「寒いのはこっちだ」
不機嫌を全面に押し出したような表情を浮かべるのは身長2mはある長身の男。
黒のダウンのポケットに両手を突っ込み、眉間に深い皺を寄せ、砂月を見下ろす。
「蒼太」
「深夜に連絡してきて『上がりに迎えに来い』と言うから来てやったのに、寒いはないだろ」
低音のよく通る声を更に低くして蒼太は唸る。
一見すると、裏社会の若かと思う風貌の桜川蒼太はこれでも砂月と同じ大学四年。
砂月とは違う大学に自宅から通っている。
「わりぃな」
全く悪いと思っていない口調で砂月が言うと、蒼太もそれ以上何も言わない。
「コンビニで朝飯買ってから行こう。蒼太はなんか食った?」
「食うわけ無いだろう。こんな時間に迎えに来たんだから」
「だよなぁ」
「家に着いたら何か作ってやる。行くぞ」
そう言うと、蒼太はコンビニには寄らずに砂月のマンションに向かう。
砂月のマンションは大学からすぐ近く。
実家から通っても大した距離ではないが、それでも大学に入学が決まってからは家を出た。
理由は……実家にある。
元々、砂月の家と蒼太の家とは隣同士。
生まれてからずっと一緒だった。
三人が…いつも一緒
砂月には姉がいる。双子の姉だ
二卵生ではあるが、砂月も女顔のため、一卵性かと間違えられるのもしばしば
それでも仲の良い姉弟だった。
その中に混じって蒼太も常に一緒。
高校まで地元の公立に共に通った。
決して壊れない関係だと思っていた歯車が狂い始めたのは高校が決まったあたり…
思春期の男女が何もなく仲良く過ごすには近くにいすぎた。
蒼太の砂月への一言で、三人の関係が微妙に変わり始めたのだった
『砂雪のこと…好きかもしれない』
砂雪…双子の姉が好きだと蒼太は言った。
今まで、そんな素振り見せたこと無かったのに
いきなりの告白に砂月はびっくりしたように蒼太を見つめた。
『…告白…しても良いと思うか?』
告白したら、今まで通りの三人ではいられなくなる
それを覚悟してまで、蒼太は思いを告げようとしていた。
話を聞いた瞬間、砂月の中で黒い何かが心を支配するのを感じた。
それが何なのか、はっきりしなかったが…次に蒼太に告げた砂月の言葉は言ってはいけない言葉だった
『砂雪……好きな奴、いるよ』
その言葉を聞いた傷ついたような蒼太の表情が忘れられない。
-----嘘をついた
砂雪に好きな相手がいるかなんて知らなかった。
でも、こう言えば蒼太は砂雪に気持ちを伝えることはしないだろうと思った
ぶっきらぼうに見えて、人の気持ちをちゃんと考える人間
だから、蒼太は砂雪に相手がいると思えば、告白も出来ないだろうと思った。
案の定、蒼太は何も言わず今までと同じ三人だった。
しかし、間もなく砂月の言葉が真実になった。
砂雪に相手が出来た。同じ中学のクラスメート。
高校進学を機につきあい始めたらしい。
それを聞いて、砂月はほっとした。
蒼太に告げた事は真実だったと…
嘘ではなかったと…
砂雪に彼氏が出来れば自然と三人の時間は減る。
それが淋しかったのだろうか
蒼太にも元気が無くなっていた
だから…高校一年の夏…砂月は蒼太に言った
『おれを身代わりにすれば良いよ』
驚いたような蒼太の顔をまっすぐ見つめながら砂月はゆっくりと言った。
『あいつの名前呼びながら、抱けば良いよ。砂雪って呼べばいい…』
その言葉は、砂月の見えない鎖になる。
雁字搦めになって、砂月を縛る。
二度と戻れない
砂雪にも蒼太にも…真実を打ち明けることが出来ない
それでも、耐えられた。
蒼太は大学が決まってからもずっと砂月のそばにいた。
時々『砂雪に…このこと言う?』と尋ねれば『言う必要ない』という返答。
まるで脅迫のようなこの言葉を、砂月は時折口にした。
だから、きっと…蒼太は砂月から離れられない。
***
「目玉焼きで構わないだろ?」
砂月の部屋に来ると、勝手知ったるで蒼太はキッチンへ立つ。
一人暮らし用のコンロで手際良く朝食を作る。
完璧な男だと、砂月は思う
料理も出来る、弓道部だったその姿勢はピンと伸びていて無駄のない筋肉がその体を覆う
もう少し愛想があれば、モデルでも通用すると思う。
「蒼太、目玉焼きはケチャップが良い」
「それ位は自分で用意しろ」
「ケチ」
砂月はふてくされたように冷蔵庫に向かう。
中からケチャップを取り出すと、上手に目玉焼きを皿に移す蒼太の隣に並ぶ。
「さすが手際よし!」
「誰かさんが毎日のように腹空かせて呼び出すからな」
「そりゃ大変」
ケラケラと笑いながら砂月はローテーブルにケチャップと二人分のマグカップを並べる。
それに続いて蒼太が目玉焼きの乗った二枚の皿を運んでくる。
皿をテーブルに置くのを見計らい、砂月は蒼太の腕を取りそのまま、後ろのベッドに押し倒す。
「砂月」
不意をつかれた蒼太はベッドに倒れ込むと、自分の体の上に乗ってくる砂月を諫める
「メシは?」
「後にする」
「朝から盛るな」
「ほんとさは、独りでヤルかなとは思ったんだけど…適当なDVDもなくってさ」
クスクスと笑い、砂月は蒼太の首筋に顔を埋める。
「しようぜ、蒼太」
「最初からそのつもりで呼び出したのか?」
「半分はね」
そう言って、砂月は体を起こすとベッド脇の遮光カーテンを閉める。
朝だと言うのに、部屋は暗くなる。
まるでそれが合図かのように、蒼太は砂月の体を引き寄せると反転させ、今度は砂月の体をベッドに埋めた。
そのまま、砂月に口付けると衣服を剥がす。
「んっ…」
砂月はこれから来る快楽の波に期待しながら体中にキスを落とす蒼太の髪に、指を絡め小さく呟いた。
「蒼ちゃん…」
それは、切ないような呟きだった…