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4.代償と要請

魔法労働安全監督庁のフロアは、朝から慌ただしかった。


台風22号。

進路はやや逸れたものの、局地的な豪雨が予測されている。

問題視されているのは、山間部の小規模集落だった。


「物質形成系、Bランク以上……」


画面上の出勤要請として表示された名前の中に、見覚えのある名があった。


――土井司。


ステータス欄には、赤字が並ぶ。


《出勤停止(医師判断)》《労災認定手続き中》


「……外れてないか」


川上が肩越しに画面を覗く。


「ああこの辺人数が足りないんだよね。道路も崩れてて、重機も入らない。ただでさえ、この辺は物質形成系が少ない」


入鹿は思い出す。

どんな魔法を使えるかは、個人の適性次第だ。

現場に必要な魔法使いが、近くにいるとは限らない。


以前、積雪地帯の被害対応に、雪を操作できる魔法使いが見つからず

はるか南の離島から派遣された例もあった。


「でも、彼は今――」

「分かってる。だから“要請”だ。強制じゃない」


制度上止めることができない。

出勤停止中であっても、本人の同意があれば出動は可能だ。前例も、ある。


「……リスク説明は」

「お前がやれ。話、聞いてるだろ」


押し付けられた形だと、入鹿は理解した。


連絡先を開く。

発信ボタンを押すまで、ほんの数秒、指が止まった。


――仕事をしただけ。


その言葉が、胸の奥に引っかかる。

入鹿は、静かに通話を開いた。



台風22号接近のニュースが流れる それと同時に派遣要請の通知が土井の元にも届いた。

休業期間中ではあるものの労災判定を受けたためか使用時間は30分厳守となっており、使用範囲も孤立地域にある数件の家屋の修復のみ

前回よりは幾分楽な依頼である。


行きたいのか 断りたいのか 行けるのか 土井の中で答えは出ていなかった。

眠れるようにはなりギプスは来週外せると保健師からも言われている。

それでもまだ


痛みは感じない。


スマホが震えた。それだけで、土井の心臓が跳ねる。

「……はい」

『魔法労働安全監督庁の入鹿です』

声を聞いた瞬間、現実が押し寄せた。


『お身体の具合はいかがでしょうか』


「……普通、です」

本当でも、嘘でもある言葉。


『本日は、再出動要請についてのご相談でして』


相談。その言葉が、やけに重い。


『台風22号の影響で、山間部の集落が孤立する可能性があります』

『物質形成系の魔法使いが必要で――』


「俺、今……出勤停止ですよね」


沈黙。


『はい。医師判断では、安静が望ましい状態です』


「じゃあ……」


『ただし、強制ではありませんご本人の判断になります』


判断。


行かない理由は、いくらでもある。

腕は治っていない。

眠れてはいるがまた眠れなくなるかもしれない。

集中できる気もしない。


「……行かなかったら、どうなりますか」


『別の要員を手配します』

『到着まで、時間はかかります』


時間。


その間に起きることを、土井は想像してしまう。


「……少し、考えてもいいですか」

『もちろんです』

通話が切れた。


スマホを置いても、胸のざわつきは消えなかった。


断ることはできる。制度は、そうなっている。


それでも。


右腕のギプスを見つめる。

何も起きない日々と、

何かが壊れるかもしれない現場。


どちらも、怖い。


「すごい」

「英雄だ」


いつか目にしたニュースのコメントが、

まだ頭の奥で反芻していた。

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