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テルール=テルミドールの傲慢革命  作者: らのあお
アウステルリッツ二帝一統決戦
98/121

今が一番わくわくしているよ

 両皇帝とその従者たちを乗せ、馬車の列は戦後会議の場であるウィンネスに向けて走る。そして私はその列の中盤にある馬車に乗っている。


 「大統領閣下も仰っていましたが、貴方は本当に何を考えているかわからない人だ、オーレン公」


 目の前の男。精力的に活動して玉座を狙っているかと思えば、いざその時となれば国を逃亡して、この戦争ではただの置物に徹した。訳がわからない。


 「私にあった人は何故かみんなそう言ってくるよ。もっと純粋に考えればいいのに」


 単純に考える為に奴のやってきた事ではなく、奴自身を見る。私は奴の瞳を覗いて理解した。オーレン公、この男は生きる目をしていない。長らく戦場で戦ってきた中、何度も何度も見てきた目。どことなく冷めていて、全てがどうでもいいと思っている人間の目だ。


 「…サン=ベルナール・ロベスピエールは貴方についてこう言っていた。平和なユーロの為に凡ゆる全てを度外視したに尋常ならざる構図を描き切った男と。しかし、私の目の前にいる男は自分の人生に対して、当事者意識すらないような世捨て人に見える」


 「そうか、彼はそう見ていたか。そう思うと彼には悪いな。私はその額面通りの人間でしかないのにな」


 額面通りの人間でしかない、つまり尋常ならざる策を描いただけの男でしかないという訳であり、尋常ならざる策を描く、その行為の裏には慈しむ心も正義も復讐も、およそ熱と呼べるものがなかったのである。


 「親の教育が良かったのだな、オーレン公。あんたはかくあるべしと定められた王像を淡々と組み立ていただけに過ぎなかったという事ですか?」


 なるほど、通りでサン=ベルナール・ロベスピエールがこいつを読み切れなかったわけだ。なにせあの男は常に言葉を言葉通りで受け取らない。その言葉の裏の感情と意図を推察しようとするから、こういう言葉と熱量が噛み合っていない、完璧に仕立てられた張子の虎のような男を読み切れないのだ。


 「ある種、そうとも言えるね。ただ、私自身、その王像を組み立てることについて、単なる作業と考えていたかは一考の余地があるだろう」


 「つまり、本心で平和なユーロ、あるいはラソレイユを望んでいたと?」


 「戦争なんて、私はごめんだよ」


 その言葉を言った時、目に熱が宿った。先ほどまでの虚無が消えて、迸るような熱が見えた。野心に焼かれて夢を見ている男の目だ。


 「やはりわからない、だがあんたは負けている、ここだけは確かだ。」


 こいつ、自分の感情にすら嘘をついているというのか?しかもそれを真実だと信じ切っている。何故こんな芸当ができるんだ?


 「そうだね、でも私が最初に描きたかった構図は完成した。この点においては私の勝利だよ」


 「あんた死ぬんだぞ?自分が描いた構図を見ることなく死んでいくんだぞ」


 「私にはそこがわからないんだ。だって私が思うに、世界を変えるってことはできない、あくまで世界が変わっていくだけで。だから、自分の功績で無いものを誇る事に意味があるのか?と、考えてしまうよ」


 「何を言っている?アウステルリッツで勝ったのは私の能力故だ。私でなければあの作戦は取れなかった。それを功績では無いと?自然現象として片付けると言うのか?」


 「あの作戦を取れたのは革命が起きたからだろう?みんながみんな、英雄になりたいと願った結果だろう?全ては個々人の欲の方向が偶然一方の事象に向かっていった結末に過ぎない。だから個人が成した功績というものは歴史、つまりはある種の自然現象の中に置いて存在しない、そうは思わないか?」


 「それを当事者意識の欠如って言うんだ、オーレン公。全ての人間の功績が自然現象と言うのなら、誰かの罪はどうなる?お前の家族が誰かに殺された時、それを自然現象と切り捨てるのか?お前のその理論というものには、凡ゆるものに対して責任というものが存在しないんだ」


 「でもそれは悪いことじゃないだろう?凡ゆるものに責任がなければ苦しさを自然現象として処理できる。多くの人間が救われるんだ、それは悪いことだと思えないけどな」


 今わかった。こいつ、嫌いだ。私が一番嫌いな人間だ。


 「いいや、悪だ。絶対に悪い事だ。己の功罪全てを自然現象で処理する世界、その世界には、ある種の醜さが存在しない。だからこそ、絶対的に美しいものの価値が無くなる。熱も火も、愛も、空の美しさ、風景ですら価値を失う。世界全ての価値が均一となって、美しさその意味がなくなるんだ。それを断じて善とは言わない」


 「いいじゃないか、それで。全ての価値が均一となれば、それは平等だ。みんな苦しまないで済む。諦観と共に、一定の幸福が保障されているから、この世界の誰も発狂しない」


 一度顎に手を当てて考える。もちろん、この思想の是非ではない。

 よく考えてみろ、私。奴がこの思考、自然現象を運命や神として置き換えても成立する。ならば奴はアウステルリッツで積極的に動くべきだった。にも関わらず彼はお着物に徹した。


 「押し問答で本質を逸らしたな、オーレン公」


 奴は不敵にも笑った。負け犬のくせに私に笑ったんだ。つまり"この点においては私の勝利だよ"これは真実だったんだ。


 「あの男は言っていた。ラソレイユが勝てば平和なユーロが、お前が勝てば平和なラソレイユが訪れると、オーレン公はその構図を描いたと。これはお前と喋っていた限り真実だと私は考える。しかし、それが全てではない。つまり、だ。オーレン公。あるんだろう?この続きが」


 彼は馬車の天井を眺め、そして応え始めた。


 「王権は神より授けられた権利である。この言葉は王を正当化する言葉だけど、それと同時に王の失敗の責任を神が被る言葉でもある。つまり神という存在が度重なる王の失敗によって信頼を失いかけていたんだ、私はこれをなんとかしたかった」


 神の信頼の回復。それを果たすにはこの地上に神が降臨するか、あるいは正しき神の代理人が正しい政治をする必要がある。つまり、そう言うことか。


 「その為のサン=ベルナール・ロベスピエールの神格化か」


 「そうだ。彼はユーロを荒らしまわって王を廃し、身分制度を破壊する。そしてその果てに先の短い彼は殉教者として死ぬ事になるだろう。つまり現代に預言者ア=ステラ再現するんだ。そうすれば神は信頼を取り戻し、人々の行動の指針、拠り所が神になる」


 彼はもう一度私の過去を見て、そして指をさした。


 「そこで君が必要だったんだ、ラパイヨーネ君。君が英雄たらんとすれば、彼は権力を維持するために英雄よりも上の位を目指さなくてはならない。それが、現代の預言者ア=ステラだ」


 驚くべき事に彼は私の存在をも自分の構図に入れていた。


 「こじつけだ。そんな構図を描いていたなら、あんたは未来予知の力を持っているとしか言えない」


 「どうだろうね、試してみるかい?」


 この男、やはりやり難い。だが、冷静に話を聞いてみればこいつの言葉は私を乱すものでしかない事がわかる。だって私のこの感情は、人の世界を望む感情は私のものだ。だからオーレン公の構図に私が描かれていたとしても、やるべき事は変わらない。


 「いい、無意味だ」


 「それと言わせてもらうがな、オーレン公。私はこれからもあんたの掌の上で踊ってやるよ」


 「それは嬉しい限りだね」


 「だが代償としてあの男の命は私に捧げてもらうし、何よりあの男が預言者として成る前に私は英雄となる。何よりだ、オーレン公。あんたの計算は狂っている」


 自分の中で一度オーレン公の構図を描いてみんだが、私の計算ではこれは破綻する。


 「それは何故かな?ラパイヨーネ」


 「サン=ベルナール・ロベスピエールは肺結核ではない。私が思うに、奴の病名は転移性腫瘍病(長老殺し)だ」


 流石のオーレン公といえど、私のこの言葉には驚き隠せなかった。何故なら転移性腫瘍病(長老殺し)はその名の通り老人に多く、若者がかかるのは本当に稀も稀な病だからだ。


 「…ダールトンは肺結核と私に報告したんだが、流石のダールトンでも見抜けなかったか。いや、まさかな。まさかそうだとは思わなかった。それは本当かい?ラパイヨーネ」


 「あぁ、私の見立てでは間違いなくな。だってあの男が性格が変わったようにリールを焼いてウィンネスを攻めるなんてそうとしか考えられないだろう」


 彼は顎に手を当ててしばらく黙った。そしてこう語った。


 「まさか私がこんな賭けをやる日が来るなんてな」


 「完全に読み違えた気分はどうだ?オーレン公」


 「むしろワクワクしているよ。これは賭けだな、君と私の。でも私は勝つよ、彼は必ず奇跡を起こしてその預言者たる地位を絶対の物とする」


 敗者は純粋な笑みを浮かべていた。

全知全能レベルのキャラが最後の最後に賭けになってワクワクするってのが結構好きだったりするので、それがオーレン公の根源です。

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