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テルール=テルミドールの傲慢革命  作者: らのあお
アウステルリッツ二帝一統決戦
97/121

脱兎

 ラパイヨーネ視点


 登山中の敵を山頂と麓で包囲する。この構図が描けた時点でほぼ勝ちが決まったようなものだが、あと一つ、あと一つ何が欲しい。その何かさえあればアウステルリッツは完璧で美しい、史上最高の戦争芸術となる。


 「ラパイヨーネ元帥」


 将軍は雨で泥濘となった地面を走り、私に吉報を伝えにきた。


 「わかっている。当然、私にも見えている」


 両皇帝の座す敵本陣、そこから巨大な煙が上がっていた。


 「敵本陣は落ちてない。手前で煙を焚きつつ敵本陣からの連絡兵、及び皇帝の脱出を阻止することに注力している」


 敵からしたらたまったものではないだろう。本陣で煙が起きて、それでいて連絡が届かないとなれば本陣が落ちたと見做すのが普通だ。と言うよりも、そうとしか思えない。


 「敵陣が落ちたから解放すると言って捕虜を返してやれ。私は右翼、中央から1万5000引き抜いてあっちに行く」


 作戦の成功、それとは裏腹に現実として今一番辛いのは煙を焚いているあっちだ。何故なら本陣が落ちたとなれば右翼が急行するだろうし、見せ掛けてるだけで本陣は落ちてない。つまりフラットな状態であれば5万対1万5000だ。そこで私が中央、左翼から1万5000を引き抜けば5万対3万、敵本陣が混乱していて機能しないとなれば4万対3万、本陣陥落で指揮が落ちてることも加味すれば十分にやれる。何よりこの4万という数字は敵右翼が全軍で向かった場合の数値であるし、その時となればもっと少なくなる事は明白だ。


 「喜べ、勝ちが確定した」


 すぐさまその山の戦場を後にする。引き抜いた歩兵師団達を纏め上げる将軍に指示を渡し、私と精鋭騎兵は先行して別働隊1万5000の軍に合流した。

 雨が降っていると言うのに煙ったい中、佇んでいた別働隊の将軍に声をかける。


 「欲を言えば全軍で来てほしかったが、サン=ベルナルール・ロベスピエールは何処だ?」


 大方期待通りに動いてくれた主を探す。戦後交渉について話がしたかったのだ。


 「ウィンネスです」


 将軍の言葉に私は驚きを隠せなかった。

 ウィンネスだと?何故ウィンネス?どうして?今ウィンネスを責めることに何の利点が?どう考えても時期を置いてから攻めた方が得だ。


 「教えてくれ、何でウィンネスへ?」


 「政治屋の考える事は自分にはわかりかねます、元帥」


 「ウィンネスでの損害を報告してくれ」


 私の中に沸いた疑念、それを確かめる為にこの質問をした。


 「はい、歩兵3674名、騎兵1100、学者隊214名になります」


 1万5000のうち5000が死んだ!?ウィンネスで!?だって攻めるなら攻めるで包囲して食糧攻めと交渉で勝っていたじゃないか。しかも学者214名が死んだ!?むしろこれじゃ戦勝の報酬よりも損なった国益の方が遥かに大きいではないか。何を考えているんだ、サン=ベルナルール・ロベスピエール。


 「認めざるを得ない。奴の能力は落ちている、それも致命的に」


 その時、降っていた雨が上がった。雲の垣根から月が見えた。


 「そうか、そうか」


 遂に、遂にだ。でもなんだ、この気持ちは。奴が落ち目になって、それで私の勝利が確約されたなのにだ。なのに私は心のどこか奴に対して寂しさを感じている。私に成り上がろうぜと言ってくれたあの男はもう居ない、その事実がどうしても心痛いんだ。


 「次は私だ」


 しかしその複雑な私の心情とは裏腹、奴が落ち目になって喜んでいる私もいる。だって国王、オーレン公と並んで遂にあの男だ。あの男が死んで、やっと革命は終わるのだ。そして人の時代が訪れて、私が人の皇帝となれる。それはとても、偉大なことだと思うから。


 「だが後だ。今は目の前の問題を片付けるぞ」


 適当な地図を地面に書いて、目の前に広がる敵を書き込む。書いてて思ったが、本当に勝ちって感じだ。何せ山の殲滅が終われば戦力差はひっくり返るからな。ならば私の考えるべきは勝ち方。できるだけ味方の犠牲を作らず、尚且つ戦後有利に立てる勝ち方。それは…


 「テントの下で上質な木炭を使って煙を作ってる、って認識でいいんだよな」


 「はい、事前にそう指示されていましたので、間違いありません」


 「じゃあ騎兵を中心として、2万の兵士を敵本陣に対して横に広く配置する。襲撃と同時にテントを破壊して、煙を消せ。そこから短期的かつ迅速に攻めて、両皇帝を人質に取る。残り1万は後ろを見つつ、連絡兵及び両皇帝の脱出を阻止することに注力してほしい」


 最後の作戦が決まる。もう考える事はないので、その時を座して待つだけである。

 一時間が経ち、予定通り一万の兵士が到着する。彼らを指揮する師団長及び将軍に指示をだし、最適な陣形に並べつつ、その間にテントの取り壊しも命令した。


 「さて諸君!諸君らも理解しているだろうが、この煙の先にはオルストリカの皇帝とルーシーの皇帝、そしてオーレン公が居る。つまり我々の最終目標がそこに居ると言う事であり、またこれを拘束したならば我々のこの戦争における我々の勝利が確定し、晴れて君達は世界に冠たるラソレイユの英雄となるという訳だ!」


 アウステルリッツにおける最後の演説を行う。だが最後だから何か特別、というわけでもない。むしろ勝ち戦であるから、最後の演説は余程のことを言わない限り勝手に火がついて士気が上がる。その証拠にこんな短いセリフだけ、というよりも私の姿だけで雄叫びが上がっている。


 「進め!」


 号令を出し、焼け跡ととなった平原を進む。太鼓が真夜中に鳴り響き、馬が嘶く。


 「騎兵隊突撃!皇帝の首にナイフを突き刺す!」


 いつものように馬を走らせる。敵まで残り、70、60…


 「敵が整っていない!突っ込め!」


 煙の外から突っ込んでくることを想定した配置だったんだろう、だからこそ正面が薄く、両皇帝の座す心臓部までの距離も近い。


 50、40。

 高い音と敵の太鼓が聞こえる。しかし陣形が陣形なので朝の突撃よりも弾幕が薄い。


 「抜刀用意!」


 サーベルを抜き、その一団の中に飛び込む。白兵戦の始まりだ。


 「皇帝万歳(ウラ・ツァーリ)!!」


 さすがは皇帝のお膝元、負けが確定した戦場だというのに士気が果てしなく高い。


 「来いよ、クマ野郎」


 大男は大きく振りかぶって私の脳天にサーベルを振る。私の小柄が幸いし、その剣は私には当たらない。


 「道を開けろ!!」


 サーベルの突きは喉仏に突き刺さり、その大男を跪かせた。


 「進め!歩兵の奴らに手柄を取らせるな!」


 後ろを見ると歩兵連中がもう上がってきている。


 「前へ!」


 本心の心臓部がさっきよりも後ろにある。逃げているという事は皇帝が脱出していないことの裏返しだ。ならば、足早に進んで捉えるだけだ。

 死体を乗り越えて走る。遥か東の大地より屈強に鍛えられた男たちの肉体を足蹴にして皇帝の首まで走る。


 「初めまして、ルーシー、オルストリカ。それと、ラソレイユ王国」


 本陣にたどり着いた時、そこには三人の男がいた。

 美男子の青年、ルーシー帝国の皇帝(ツァーリ)、ラスパブロフ・アレクサンダー。

 中肉中背の壮年、オルストリカ及び神聖帝国の皇帝(カイザー)、ロートリンゲン・フォン=オルストリカ。

 不敵な笑みを浮かべる、虚無の男、オーレン平等公(エガリテ)、ロイス=フィリップ・ヴァロワ・オルレアン。


 「私の勝ちと、言わせていただく」


 夜が深まろうとするその時、アウステルリッツにおける戦いはラソレイユの勝利で終わった。

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