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テルール=テルミドールの傲慢革命  作者: らのあお
アウステルリッツ二帝一統決戦
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異世界転生

 陥落から1日経ってウィンネスに入城する。

 あの美しき古都は灰を被り、歴史あるシューテーンファーン大聖堂は跡形もなく焼けて消えてしまった。聞く所によれば立て篭もる民衆ごと火で炙って八八式を全方位から撃ったらしい。


 「ライヒスブルグ宮殿は残ってるんだよな?」


 「はい。占領後の行政施設として残せとの命でしたので」


 「そうか、なら今すぐ宮殿入りする。せっかくアウステルリッツを蹴ってウィンネスを落としたんだ。有効活用しなければならない」


 馬車で宮殿に向かう。

 ライヒスブルグ宮殿、それはオルストリカの皇宮だ。かつてのヴァルサイエーズ程では無いにせよ、優雅絢爛な宮殿である。僕はその宮殿に入り、さっそく風呂に向かった。

 さすがは皇帝の使う風呂だ。脱衣所ですら僕の部屋よりも広い。服を脱ぎ捨て、裸になった自分の肉体を大きな姿見で見る。


 「なんて顔してやがる」


 裸になるという事は特別だ。何も着ないという事はその人間のフラットな状態であるのだから。つまり、だ。今の僕はラソレイユ唯一教会共和国の第一代大統領、サン=ベルナール・ロベスピエールではなく、ただのテルールなのだ。

 その事実を改めて認識して思う。テルールという男は余程虚弱に見える。だってこの肉体は前よりも痩せていて隈も酷く、肌はシャルロのように白くなっている。まるで死人だ。

 脱衣所から風呂場へ。肝心の風呂場は神殿のような作りであり、まるで神話を元とした絵画に描かれるような感じだ。大理石の柱に浴槽の底の模様、余程の腕の職人に造らせたことが伺える。

 桶でお湯を掛け、石鹸で泡立てたタオルで身体を拭く。再びお湯を掛ける。お湯が泡が混じって排水溝に流れていく。

 それを眺めていた時、僕は泣いていた。


 「何を泣くことがある」


 浴槽に入り、行儀は悪いが湯の上に浮かんだ。そして右手を掲げ、水面におろし、水を掻く。次に左手を掲げて水面におろして水を掻いた。その動作を3回ほどした時、その行為に何ら意味がなく、そして品がないことだと悟り、辞めてしまった。


 「風呂場で泳ぐなんて」


 しばしの入浴を終え、バスローブに着替えた。皇帝が使っていた部屋を使う、というのは何らかの政治的な生じかねないので皇太子の部屋を使う。


 「余程の重大事項でない限り、私を起こすな。今日はゆっくりと眠りたいんだ」


 衛兵に命令し、皇太子の部屋に入る。相変わらず部屋は広いが、皇太子の年齢が年齢だからか、はっきり言って子供部屋だ。天井には鳥の模型が吊るされていて、怪獣のぬいぐるみや絵本、積み木が散乱している。

 床に座り、散乱した積み木を片付け用とした時、僕はその積み木を床に立てていた。床に立てて、街を作った。


 「がおー」


 怪獣を中心に置いて、街を襲わせる。家屋を三個倒壊させた時、僕は飽きた。だから蝋を消して、ふかふかのベッドに身を沈めて、暖かい毛布を頭まで被る。そして溺れるように眠った。


 ただ白いだけの空間。夢という自覚はあるが、何だか懐かしく感じる。

 僕は何も思う事なく、その白の空間を歩いた。そしてしばらく歩いた時、二つ向かい合った椅子が見える。そして片方には痩身の男が座っていた。


 「よぉ、テルール」


 その男を見た瞬間、僕の記憶に僕のものじゃない記憶、僕が持っていて、そして忘れてしまった記憶が蘇った。


 「そういや異世界転生って奴だったな。僕としては、実感ないけど。それで、今更出てきて何が言いたい?」


 顔はモヤがかかってよく見えない。しかしムカつく顔をしているのは確かだと思う。


 「別に何がどうこうって訳じゃねぇよ。ただ、お前が馬鹿すぎて笑えてくるって話だ」


 椅子に座って向かい合ってわかる。この男を見ていると無性に腹が立つ。


 「笑えるだと?お前、お前が16歳の時お前は何してた?僕は大学を卒業していた。お前が20歳の時何してた?僕はこの国の大統領になったんだぞ。何も成せなかったお前が僕を笑うなよ」


 「別に俺がさ、何も成せなかったさなんて関係ないだろ。だって俺が如何に役立たずの無能だとして、それがお前の問題の所在が解決する訳じゃない」


 こいつ、言わせておけば。他人を不愉快にすることしかできないのか?


 「問題の所在だと?お前程度の解像度で僕の人生に対して問題を提起するのか?それ自体が烏滸がましいとわからないのかよ」


 「……まぁいいや。で、テルール。お前はこれからどうする予定なんだ?」


 「どうする?それは何に対してだ?」


 「全てだよ、これからの」


 こんな間抜けで何にもならない、生きるだけ無駄なゴミ人間に何かを理解できるとは思えないが、まぁ話してやろう。


 「ウィンネスを足かがりとしてオルストリカを支配する。同時にラパイヨーネに任せてローマニア、イベリアを征服して、ローマニアからア=ステラの代理人たる星王の地位を簒奪して僕が戴く。最後にラパイヨーネを傀儡に落として終わりだ」


 それを聞いて彼は笑った。僕を指差して笑ったんだ。


 「能力が落ちてるお前にできるのかよ」


 「できないからやらないで、その結果何にもならなかったお前が言うことか?」


 「俺は現実的な実現可能性の話をしてるんだよ。やるべきとかどうだとかの話じゃなくて」


 「実現可能だ。僕の中ではラストのラストまで予想ついてる」


 「それがこの世界の型にハマる保証なんてないだろ。それにお前のそのボロボロの身体で間に合うのか?気付いてんだろ、お前。本当は肺結核じゃなくて肺癌なんじゃないかって」


 頭痛、思考のモヤ、耳鳴り、関節痛。冷静に考えて肺結核ではない。どちらかと言うと肺癌が脳に転移して脳癌になったって方が正しい。でもそれが何だ。


 「だからなんだ。僕の病が肺結核でなく肺癌だとしても、どうせ不治の病だ。タイムリミットもゴールも何も変わらない。僕はただ、やるだけだぞ」


 視界がぼやけて消えていく。目の前の男と共に、僕の中にあったあの記憶も再び眠っていく。

 再び目を開けた時、朝の光が差した。眠い目を擦って上体を起こす。

 予想通り脳はすっきりとしている。モヤも耳鳴りも頭痛もない。だからこそ、ウィンネスを焼いたことによりメリットとデメリットが瞬時に浮かんだ。


 「とんでもないことをした。しかし、やるべきことが見えてきた」


 仕事を始めよう。

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