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テルール=テルミドールの傲慢革命  作者: らのあお
アウステルリッツ二帝一統決戦
92/121

ハイリスク・ハイリターン

 予想通り敵の左翼は進撃を仕掛けて来た。しかもそれに加え、斥候によると敵中央も動こうとしているらしい。

 つまりこの戦いの勝ち負けが見えて来たってわけだ。

 敵中央がこちらの中央に接敵するよりも先に敵の左翼を砕ければ、敵左翼に空いた巨大な空間を使って敵中央を側面から叩ける。こうなれば確実に勝ちだ。

 しかしその逆、敵左翼が壊滅するよりも先に敵中央がこちらの中央に接敵すれば、敵左翼を壊滅させる機会を逃してジリ貧で負けだ。

 つまりここにおいての最も最適策、敵の左翼を一撃で破壊する方法、それは味方中央と味方右翼を使っての圧倒的で迅速な殲滅戦だ。


 「気が変わった。敵左翼を深く入らせた後、高台にいる中央軍を使って敵左翼を迅速に破壊する。だから事前立案した作戦は全部無かったことにする」


 将軍たちは私の発言に困惑する。腹心のタヴーですらそうだ。当然である、だってこの戦いは数的劣勢の戦い。だから地形的有利を取り続けなくては負ける。にも関わらず私は中央軍が居座る高地を捨てると言ったのだ。正気の沙汰では無い。


 「お、お言葉ですがラパイヨーネ元帥。私には自殺行為に見えます」


 「君はこの高地をどう登った?君の軍はこの高地をどう登ったんだ?」


 「…道が狭かったので三つに分けて…まさか、それはリスクが大きすぎます。分単位で正確に動けなければ大敗しますよ!」


 この高地は複雑な地形であり、登ろうとすればどうしても軍を分けなくてはならない。つまり、登る途中においては軍が小さくなるのだ。そのくせして道が細くて正面が小さくなるから、戦闘規模も小さくなる。こうなれば数的有利など関係ない。先ほどの乱戦と同じ、純粋な精神の戦いになる。

 だがこれは敵が高地に登りきれていないという前提の話だ。敵が高地に登りきれば敵だけが軍を広く使えることになってこちらが負ける。


 「我々ならできる。まず味方左翼を山にあげて右翼と中央で敵左翼を殲滅、その後味方右翼と中央で山に登らんとする敵中央を後ろから破壊する。味方左翼には悪いが、君らは死んでも高地を守れ」


 この策の第二のデメリット、それは味方左翼の多大なる負担だ。何せ味方左翼は味方中央と右翼が敵左翼の殲滅を終え、高地に登る敵をケツから叩き落としてる間、敵三軍からの攻撃を受ける。如何に守りやすい地形での防衛戦といえど、数が数だから熾烈なものとなるはずだ。


 「で、元帥。その役は誰がやるんですか?」


 「お前だよタヴー」


 奴は珍しく俯き、こう語った。


 「前回立案した策、あれは生き残れると踏んだから了承しました。しかし今回は違う。この策では敵左翼と中央を砕けても、敵右翼は無傷のままだ。それでいて包囲もされているから、離脱兵として逃げることもできない。端的に言って生き残る可能性がゼロ。誰がやるんです?」


 「もしもサン=ベルナール・ロベスピエールが軍人だったら間違いなくやると言っていた。奴は私の策を読み切れるからな」


 つまり奴は必ず来る。そして戦場の様子を一見して両皇帝の座する本陣を即時攻撃すべしと確信する。奴は軍事的知識を持たないが私に匹敵する才能を持っているのだから。


 「本当にあの男こと信じてるんですね。わかりました、やってみます。しかし絶対に死ぬって思ったら降伏しますからね」


 「いいだろう、そうするといい」


 全員が全員私の想定通り動いてくれれば勝利は硬い。だが少しでもずれればそれだけで敗北に繋がる。


 「将軍各位心せよ。この戦争は30分もずれれば大敗する。しかし各々が無私に動けば戦史に残る偉大なる勝利となるだろう。私は諸君の奮闘健闘を期待する」


 各将軍を持ち場に着かせる。そして私も敵左翼を粉砕する為、中央軍を率いて下山した。

 下山してからすぐ、袖を捲って金色の自動巻き時計を見る。この時計は隣国シェヴィーツ公国きっての職人に作らせた特注品であり、銘をペルペチュエルと呼ぶ。

 さて、時刻は午後3時。兵士諸君は夕食を済ませているから力を発揮できる。しかしそれは敵も同じで敵左翼はあと半刻もしたら攻めてくるだろう。と、なると敵が我々の下山を知り中央軍を高地に登らせる時刻は18時過ぎとなるはずだ。それまでに攻めて来た敵左翼を粉砕しなければならない。


 「兵士諸君!今から半刻の後、敵左翼が全面攻勢を仕掛けてくる!諸君らはこれを打ち砕かねばならない!」


 中央と右翼の軍、計五万人に叫ぶ。

 やはり戦場は楽だ。普通、火を起こすには熱を作らなければならないのだが、その熱を作るには食事時だとか情勢だとか、そう言うのを考慮しなくちゃならない。しかし戦場は別だ。戦場では冷たい死が可視化されている。だからこそ死なないために自動的に熱が生まれる。よって火を起こすのは本当に容易なんだ。


 「銃を運んで撃つ!諸君らの仕事はそれだけだ!しかし!それだけで勝てる!何故なら敵はすでにこのラパイヨーネとユーロ最強の軍隊の術中に嵌っているからだ!だからこそ諸君!故郷に帰ったならばこう言うといい!僕はアウステルリッツに居たと!」


 「さすれば諸君は英雄である!銃を運んで撃つ!それだけの仕事で英雄となれる!こんなに幸運なことはないぞ!」


 英雄。戦場において絶対的な言葉。男である以上、その言葉の甘美さには誰もが惹かれる、誰もが焦がれる。皆、英雄に成りたがっている。だから私はその欲求を刺激する。そうすれば自然と私の望む方向に向かって行き、それらの作用が私を英雄にしてくれる。

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