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テルール=テルミドールの傲慢革命  作者: らのあお
アウステルリッツ二帝一統決戦
86/121

延焼

 「…サン・レミ、ブリッソー・ピエール・ブリッツ、アルセーヌ・フランソワ、ナターシャ・ハルフ・ケイス、イワン・アレクセイ、以上32名だね」


 朝5時、首相官邸の一室にて処刑者リストを確認しながらコーヒーをお供に昨日の残りの執務を終わらせる。


 「ルナ、追加でアントニオ・ラヴァージェも入れておけ。奴は知りすぎる」


 「それはやりすぎじゃない?」


 「そうか、そうかもな」


 ルナにやりすぎと言われるか。少しバランスが崩れているかもしれない。その証拠にコーヒーに波が立っている。


 「ありがとう、ルナ。僕は少しその、パラノイア気味かもしれない」


 その原因は僅かな、ほんの僅かな恐怖だ。僕は人間について、多少の例外はあれど、ほとんどの人は互いの利益を上手く調整すれば争いを辞めて競争をし、そして前に進めると考えている。でも革命はどうだっただろうか?もう利益も何もなく、そこにあるのは破壊だけだった。扇動した僕が言うのも違うかもしれないが、雰囲気というものはあまりにも強く、皆それに踊らされる。扇動した本人も含め。

 まったく馬鹿だよ。世の暗君が何故人を殺すのか、非効率的じゃないかと軽蔑してきた癖に、いざ自分が頂点になってみて沢山の人間を殺してる。怖いからと言いながら、まだ何もしていない人を踏み潰している。


 「もう私以外信じれなくなっちゃたね」


 誰のせいでこうなったと思っている。君がいなければ僕は人を信じれる自分のまま究極的な方法で責任逃れができたのに。


 「そうだな、僕が心から信頼を置けるのはもう君だけになってしまった」


 この回答を彼女は訝しんだ。


 「てっきりシャルロさんもでてくると思ったんだけど」


 「彼女にはもう会わせる顔がない」


 処刑を嫌う彼女を処刑人から解放する。それには身分制度の解体が必要であり、身分制度の解体には沢山の処刑が必要だ。だからシャルロを処刑人から解放するにはシャルロに沢山処刑をさせるしかない。当然彼女はこれを嫌がるし、それによって僕を酷く憎むかもしれない。故に僕は彼女に会わせる顔がないんだ。


 「じゃ先生は完全に私のだね、嬉しいよ」


 僕の中に最後に残ったのは君だった。でもこれは僕が完全に君のものであるという事を証明する物ではない。何故ならまだひとつ、僕の中に残ったものがある。それは罪と責任だ。


 「君は昔君が言った事を忘れたのか?僕の存在の半分は公共そのものの為にある」


 「そうだったね、そういえば。まぁそれでも嬉しいよ。だって皆に先生って人間がどんなに素晴らしい人なのか知って貰えるから」


 「もしかして最初からそれを?」


 「まぁね」


 オーレン公を思い出す。だってこのやり口はまるで奴みたいだ。


 「でも本当にこうなっちゃうとは思ってなかったよ」


 「だろうな。多分、とてつもなく君は運がいいんだと思う」


 「それは嫌かな。それだと私が先生を不幸にしたことになる」


 「なら僕はとてつもない悪運だ。これでいいだろ」


 そんなこんなで朝食と執務をこなし、馬車でコンコード広場に向かう。そこには僕の声を聞く為に何千人もの人間が並んでいた。そして彼らは仮設ステージに設置された布を被った石板を眺めている。

 馬車から降りてすぐわかるこの熱気。火は今か今かと起こる時を待っている。


 「気張れよ」


 自分に言い聞かせ、人々の前に立つ。かつてこれほどの人間の顔を同時に見たことはない。これほどの瞳を見たことがない。

 少し手が震える。この国の頂点に登る前はこの光景を見ても恐怖なんて感じなかっただろう。だが今は感じている。


 「皆様に私から伝えねばならぬことがあります」


 恐るな、肺に空気を入れろ。両手を広げろ。


 「まずはこちらをご覧下さい」


 純白の布を掴み、石板から剥がす。

 その石板にはこう記されている。


 地上唯一の教会たるラソレイユによる人間の権利の宣言。


 文字の読める人は記された言葉に歓喜し叫ぶ。そして文盲の人もそれに呼応して歓喜し、火は起こった。あとはやり切るだけだ。さすればこの日は歴史に刻まれる。


 「皆様、これが我々の国の形、国の意思で御座います!我々は生まれながらにして平等であり自由である権利を有しており、またこれを害す者について、抵抗する権利を持っているのです!」


 歓喜は止まらない。彼らはもう誰も王から取り上げられないと、不平等で不条理な時代は終わったと考えている。だからあえて僕はここで彼らに現実を伝える。


 「自由!平等!それがこの国で御座います!しかし!!」


 ここで30秒ほどの沈黙。困惑を作って一度熱を沈める。そうしないとこれから先の事実についてうまく伝わらなくなってしまう。


 「王という簒奪者を戴く国々とそれを肯定する各教会は我々の自由と平等をよしとしない!彼らは今もこのラソレイユの領土に忍び寄り、貴方の自由と平等を損なわんとしている!!」


 ここで再び10秒沈黙。今の言葉の意味を考えさせる。


 「これを許してなるものか!!我々は抵抗する権利に従い諸国に対して抵抗しなければならない!」


 そしてここで言葉を与え、困惑と思考を怒りで塗り潰す。

 そうだそうだ許せないと怒りの声がよく聞こえる。だからここでは沈黙せず、火に油を注ぐ。


 「そうでなければこの革命で死んだ市民が!飢えて死んだこれまでの人々の命が無為になる!何より、各教会と諸国による歪んだ体制にを良しとする、これは歪められた星教を認める不道徳な行為である!!」


 熱気で空気が揺れている。ある人はその熱に浮かされ両腕を天に掲げて叫び、ある人は叫びすぎて倒れる。怨嗟の大火が巻き起こった。

 さて、次に必要な言葉はこの大火を外に向ける言葉だ。


 「よって!我々は宣言する!我々は暴力に抵抗する権利を用いて簒奪者の軍を砕き!星教的道徳の下、地上唯一の正当なる教会として各教会の解体と星遺物の拝領を行う!!」


 人々が熱に浮かされている今、僕はこれを行う。正式な手続きを下に僕が貰い受けたこの星遺物を、オリーブの冠を被る。すると熱はさらに盛り上がる。ここだ、最後に言葉を言わば、この火は最高潮に達して暴走する。


 「人々よ!私に続け!貴方を自由で平等かつ幸福たる場所に導くと約束する!」


 ラソレイユ万歳の声よりもサン=ベルナール・ロベスピエール万歳の声の方が大きい。

 この世界を焼き尽くす大火は導き手を僕と定めた。


 「全ての徳を世界へ!」


 さぁ、オーレン公。これがあんたの望んだ結果だ。アウステルリッツで待っていろ。僕とお前の最後の戦いを始めよう。

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