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テルール=テルミドールの傲慢革命  作者: らのあお
アウステルリッツ二帝一統決戦
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下準備


 ここはどこだかわからない。ただ、暗い山のように思える。木はなく、草はなく、不安定な岩肌を歩いている。じめっとしている、なんだか不愉快な甘ったるい匂いも感じる。


 「久しぶり、テルール」


 男が立っている。金髪碧眼の青年だ。私は彼を知っている。何故なら彼を処刑台に送ったのは僕だからだ。


 「喋るな。お前は死んだんだぞ、オーギュスト・カペー」


 「寂しいな、私を喋らせているのは君だろうが」


 「僕が喋らせている?そんな訳ないだろ、僕はお前になんの思い入れもない」


 「嘘だな、これを見ろよ」


 一面は明るくなり、自分が何を踏み潰していたかがわかる。死体、死体、死体の山だった、ここは。その中にはダールトンやコトデー、シャルロットも居た。


 「これは君が無理やり押し付けてきた罪悪感だ。どうしようもなく肥大化した罪悪感だ」


 「罪悪感だと?違う、これは、この死体はトロフィーだ。僕が負かした負け犬共が地に伏せて腐っていく、その証拠だ」


 「嘘を吐くな。私は君だから、君がネクロフィリアでないことくらい知っている。君は私の前だから否定したんだ。もし、私がシャルロだったら同じ事を言えないだろ?」


 男の顔の皮と肉が剥がれ、骨が変形する。そして肉が形成され、皮が張り付く。その顔は、シャルロの顔だった。


 「言うの?私の前でもそうやって強がってられる?」


 「僕の負けだ」


 再び先ほどの工程が繰り返される。愛する人の顔が剥がれて行く様子を見て、僕は吐いた。鮮血の吐瀉物が死体の顔を赤く染めた。


 「やっぱりそうだったな」


 「それで、お前は、お前は何か言いたい」


 「何か言いたい?それは間違っている。君が私に何を言わせたいか、だろ?」


 「僕がお前に何を言わせたいか、そうだとしても僕の目の前にいるのはお前だ、だから早くお前が僕に何を言いにきたのか、それを早く言え」


 「せっかちだな、そんなんだから私を処刑しなくてはいけなくなったんだ」


 「もう一度殺してやろうか、早く言え」


 はいはいと飄々とした態度のまま奴は答えた。


 「こんだけ頑張ったんだから救われたいって、心の底で思ってるだろ。この死体の山を築いたんだからその権利はないと知りながらね」


 「そんなわかりきったことを言いにきたのか?」


 「勿論違う、私が言いたいのはね、いや君が君自信を救う為の言葉だ。」


 「せめて全てを成してから死ね。これがその言葉だよ」


 わかりきってる言葉だ。それを今、僕の夢の中で奴が形とって僕に伝えたということは僕が無意識的にこう思っている証拠だろう。せめて全てを成してから死ねば、それはささやかな僕の救いになるかもしれないと。でもこんなもの、前々から思っていたことだ。だからこれはただのつまらない悪夢だ。なんの価値もない、いつものような悪い夢。ただ唯一意外性があるとすれば、僕の罪の形はオーギュスト・カペーの形をしているということである。


 「その言葉はっきりと理解した。その上でつまらんと言っておく。だから僕の中で死んでいろ、オーギュスト・カペー」


 足場が崩れて奈落に落ちる。世界が壊れて、僕は起きた。ベッドから起き上がり、コップの水を飲み干す。夢のことは、考える意味がない。いつものことだ。何より今日は朝っぱらから行かねばならないことがある。陸軍参謀本部こと旧パリス・ロイヤルだ。


 「馬車をだせ、陸軍参謀本部までだ」


 馬車を用意させ、陸軍参謀本部まで向かう。車窓から眺めるパリスは今日も熱を持っている。私刑が正義となり、少しでも富める物、あるいはパンを隠すものには革命的精神の名の下正義のリンチ行われる。はっきり言ってここは地獄だ。革命の熱に浮かされているから、皆まだ気付いてないだけでここは地獄なのだ。

 しばらくして馬車は陸軍参謀本部に付き、案内されてあの劇場に向かう。今度は観客席ではなく舞台である。


 「捗ってるか?ラパイヨーネ」


 舞台には巨大な地図が敷かれていた。それは細部まで描かれた中央ユーロの地図である。並ぶ青の凸型の駒はラソレイユ軍を表し、赤色は敵軍を表す。赤色はラソレイユを囲い、青はそれに対峙しているが赤より数は少なく赤の8割程しかない。


 「はい、程々です」


 「そうかでは教えてくれ、当初の作戦でいけそうか?」


 「はっきりと言わせていただきますね、無理です。貴方の考案した作戦では攻め切るよりも先に経済が崩壊します」


 「そうか、では君の策ではどうだ?」


 彼は顎に手を当てながら歩く。そして神聖帝国とラソイユの国境部で足を止めた。


 「2000戦分の1843勝、勝てます。私の策ならば」


 「そうか、じゃあ聞かせて貰おう」


 彼は歩きながら語りだす。


 「最初、貴方が仰っていたようにこの戦争は世界政策A号、つまり衝撃の段階です。ですから我々が列強各国を短期間かつ無傷で屈服させたという事実が必要です。要は一撃で敵たる対革命大同盟の主たる軍を破壊し、その首謀者たるオーレン公を斬首しなければならない」


 「そしてその為の条件とは敵の足並みが揃わぬ内に敵の合流地に飛び込んでそれを殲滅することです」


 劇場に立つ演出のように、大仰に振る舞いながら彼は作戦を説明する。


 「この条件を満たすにはまず速さが必要だ。だから補給物質は現地からの徹底的な略奪とします」


 「次に意外性。本隊は正面から国境を越え、街を略奪しながら敵の集合地まで向かいますが、別動体にはアルペンを越えて側面から攻撃をさせます。そしてそれを担うのは貴方だ」


 「引き受けよう。で、その主たる軍の集合場所ってのはやはりあそこか?」


 神聖帝国のとある場所を彼は指差した。


 「はい。補給の結節点や各国の軍の移動速度を鑑みるとここになります」


 「神聖帝国領、アウステルリッツです」


 決戦の場所は定められた。ここで負ければ全てが無駄になる。だがここで勝てば世界政策A号、衝撃の段階は達成され、次の世界政策B号、実行の段階に進める。


 「流石は僕の戦士だ」


 全てを成してから死ね、ならばこの戦、死んでも勝たなければならない。

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