水晶の雨月(プリュヴィオーズ)16日
1789年、雨月16日
ラソレイユ北部、ニーダーランデ王国との国境部の街、リルー市。そこに住んでいた少女の視点
朝起きて、櫛を濡らして寝癖を整える。服を着替え、家を出て学校へと向かった。
「おはよ、エリカ」
サナちゃんがこんなに早く教室に居るなんて珍しい。
「どうしたの?こんなに早く」
「なんか早く目覚めちゃった」
「そうなんだ、いつもお寝坊さんなのに」
「だよねやだよね。だって私が早起きするといつも嫌なこと起きるし」
それは事実だ。何故なら2ヶ月前、彼女が早起きした丁度の日に革命が起きたのである。
「革命とかね」
「そういや王様死んじゃったらしいね」
「そうだね、そう思うと金貨以外で王様見れなかったね」
この国の王様が死んだ。でもそれは正直言って私にとってどうでもいいことだ。今日の夕飯よりも。だって革命が起きても私たちの生活は何一つ変わらなかった。パリスから遠すぎるってのが理由なのかもしれない。
「でもさ、王様死んじゃったら誰が次の王様になるんだろうね」
確かこの前帰った兄はサン=ベルナール・ロベスピエールって人が次のトップになるだとか言ってた気がする。
「お兄ちゃんはサン=ベルナール・ロベスピエールって人って言ってた。元お医者様で背の高いすらっとしたイケメンらしいよ。しかも未婚みたい」
「何その絵本の王子様みたいなの。頭良くて背高くてイケメンで未婚で、それで権力だってあるって、ズルじゃん」
正直未婚とか元医者とか、この辺はアピールだと思う。だって元コメディ・ソレイユズのユゲル・マクシマだって童貞童貞って言ってた癖に浮気で色々言われてたしね。
「だよね、なんか弱点あって欲しいよね」
「すごい性癖持ってるとかね」
「どうだろ、そういうタイプなのかな」
「英雄色を好むって言うじゃん。絶対やばい性癖持ってるよ」
「そういうもんなの?」
「そういうものだよ」
どうでもいい会話をしている内に時間は過ぎ、授業が始まる。別に覚える必要のない授業だったと思う。そして次に休み時間、ここでもまた何気ない会話、たとえば誰が付き合ったとか誰が別れたとかそんな話だ。次の授業もほぼ聞いてなかったし、昼休みもまた無駄話をして、次の授業は寝た。
断っておくが、私は勉強を無駄と思っている訳じゃない。むしろ人生において大切な要素だとおもっている。しかし同時に私にはこれらの勉学が意味がないんだ。何故なら私は貴族であるシュヴァース家に嫁ぐ事になっているからだ。だから私には基本的な算術と教養以外はいらない。科学も神学も覚えたとして意味がない。私が望もうと望むまいと私はそのようにしか生きれないと決められているからだ。
「ねぇなんか焦げ臭くない?」
帰りの支度をしている途中、彼女はそう呟いた。
「そう?確かにそうかも」
ふと窓の外を見た時、三軒先の家が燃えていた。そして次にその隣が、次は少し離れた場所が。連続的に燃やされいく。
「待って待ってどうなってんの」
叫び声と銃声が聞こえる。火は次々と立ち上り、誰も消化しない。
「エリカ、逃げるよ!革命なんだ!」
彼女は私の手を引いて廊下に駆け出す。放課後といってもまだ4時であり、学校には結構な人数の生徒が残っていた。
「校庭へ!校庭へ!」
教師は生徒を校庭まで誘導し、私たちもそれに従った。
校庭には既に百名程の人間が待機しており、私たちもそこの中に加わった。うずくまり、怖い外界をみんなで拒絶した。
「革命?なんで革命なんてここで?」
彼女の身体は小刻みに震えていた。いや、彼女の身体だけではない、私も震えていた。
「誰も困ってないのに…」
大勢の足音が聞こえる。顔を見上げた時、銃を持った多くの兵士がその数百人の集団を見ていた。
「構え!」
数多の穴が私たちに向いている。
「撃て!」
左の脇腹に冷たい感覚。その後に鼓膜を破るような音が響いた。
数日前、サン=ベルナール・ロベスピエール視点
王を処刑した。貴族も殺した。マリア・アントワールも殺した。元ガロンヌ派も殺した。内側の目立つ敵は全員殺した。ラパイヨーネの伝を使って軍隊も手に入れた。秘密警察もいずれ僕の手の内になる。僕は名実共にこの国のトップとなった。
長かった。ここまで来るのに約9年。だが状況は芳しく無い。
列強であるオルストリカ、アルビオン、神聖帝国、ルーシーそしてローマニア。奴らはオーレン公の旗下に軍を結集させ、対革命大同盟を結成した。
これらは早急に解決しなければならない。全ては、身分制度の徹底的な破壊のために。そして、ラソレイユから処刑人という職を無くす為に。
「今から途轍もなく怖いことをする、でしょ?」
元ルガリア宮ことラソレイユ首相官邸、その執務室に机に赤い町娘風の服を着たニコラは座った。
「そうだ、指令33号を実施する。つまり、大粛清だ。政治家は勿論死ぬし、軍人も死ぬ、その過程で、彼らの罪を作るために軍事計画B号、リルー市とリョーン市を抹消する。要は十万人程が死ぬんだ。しかもこれにハンコを押すのは僕じゃなくルナだ。彼女の名前は今後500年、教科書に悪者として載せられる事になる」
自分の声が震えているのがわかる。結局僕は臆病者だ。自分を正当化するのに精一杯で無理な言い訳は沢山してきた。思考停止も沢山した。でも最後までそうなんだろう、僕は本能に負けてしまう。だから、自分がこれからやることを嫌悪してるし恐怖している。
「だから、最後に善行をするってことで私を身請けしたんだね」
「あぁ、そうだ。勿論口外はしないで欲しい。僕の遺産を3割くらいあげるからさ」
「情けないね」
「仕方ないだろ、黙って受け取ってくれ」
彼女は僕の首筋を撫で、頬を触った。
「貴方、隠してるよね。だって貴方のような人がルナさんにこんな罪を押し付ける事を良しとするはずがない。だから、貴方はその罪を忘れさせるような途轍もない事をしようとしている」
「そうだ、僕は…」
「当ててあげるよ。ユーロ各地に散らばる星遺物の強奪と拝領でしょ?」
「当たりだ。星遺物には意思があると考えられている。真偽はともかく、それが一般的な認識だ。だから星遺物の強奪に成功すれば、それは星遺物の意思に従い強奪された事になる。全ての星遺物を僕が拝領すれば、それは星遺物の意思に従い…」
「長々と説明するのはそれをするのは結論があまりにも常識外れな証拠でしょ」
「そうさ、わかってる。結論はこうだ、僕は…」
「自分を神格化する、でしょ。貴方が神様なら、貴方によって起こされる全部の死が正当化されるからね」
神は全てを許す、神は全てを許す権利を持っている。つまり神になれば全てが許される。僕のこの傲慢なロジック。それを僕の中だけでなく、世界に適応する。その為の星遺物の強奪だ。
「よく予想できたな、僕の思考を」
「だって貴方は自分が思ってる程頭良くないからね、要するに子供だから。だから貴方は一番過激な代わりに一番利益がある選択しかしない」
「シャルロにも言われたな、それ」
彼女は突然、僕を抱き寄せて僕の頭を自分の胸に埋めた。
「ねぇ、あたしそのシャルロって人知らないけどさ、その人も子供だよね。だから貴方を愛しているのに貴方を無理やり止めることはしない。それが貴方のためになるってわかってても」
優しく撫でる手が心地いい。だけど、君じゃない。
「あたしにしとけばよかったんじゃない?」
「僕は君の好きを信じれる程、純情じゃない」
彼女はあくまで高級娼婦。僕は傷ついた心を舐めてもらう代わりに金を払っている客。彼女の好きなんて信用ならない。
「残念、遺産もっと貰えないかなって思ったんだけどね」
抱擁を解き、彼女は机を降りる。
「でも、貴方のこと結構好きなのは本当だよ。身請けしてもらった分と遺産の分、貴方に何かを還元しようかなって思えるくらいにはね」
「そうか、そう思っているなら一つ頼まれてくれ。本を書いて欲しいんだ」
「どう言う内容で?」
「それは…」
星遺物は聖遺物と同じようなもんだと認識してくれて構いません。
せっかくなのでこっからは革命暦でいきます。なんだかなって思ったら太陽暦に戻します
雨月16日は2月の中旬くらいかな?




