理解者
サン=ベルナール・ロベスピエール視点
コルデーが辞任した。彼は生きる意味を見失った。なぜなら妹を学校に通わせるために、せめて良い家に拾われるためにと、不自由せぬためにと金を稼いだり世直しをしていたのに、肝心の妹が処刑されたからである。
もしだ。僕がコルデーの立場で、その妹がシャルロだったら?少なくとも、三年前の、ルナを抱いてしまう前だったら僕も世捨て人になっていただろう。今そうされたら、これは分からない。でも多分世捨て人になりつつ世直しをしていたと思う。
だからコルデーに関して、僕は憐憫と思う。
「それで、シャルロットを利用して、コルデーを…」
彼女と晩酌を交わす。と言っても酒を飲んでいるのは彼女だけだ。僕は水を飲んでいる。
「どう?これでコルデーは消えたでしょう?」
「だからってシャルロットを殺して、それで何で君は…」
シャルロット、抱いてしまったのにも関わらず、僕は彼女について、彼女の年齢と僕を好いていること、それと彼女が人一倍公正さを求めていることしか知らない。
だが、だとしても死んでしまったら心が痛む。
「でもコルデーは消えたし、ポールの情報網は貴方のものになった。ガロンヌを潰すという点においても、将来指令33号を実行するって箇所でも、それは役立つんじゃないの」
「違う僕は理論ではなく倫理の話をしているんだ。だって君の行いは…」
「正しくない?貴方の役に、この革命を終わらせる役に立つのに?」
確かに、この革命を早急に終わらせて人命の損失を最小にするという点においてこの判断は正しい。なら、仕方ないんじゃないのか?
「…そうかもな。いや、そうだ。よくやってくれた、ルナ」
彼女は少し首を傾け、酒を一口飲んでからこう言った。
「なんか意外かも。先生もっと言うと思ってた」
「そうか?」
「うん。だからってシャルロットを殺していい理由にはならないだろうって言うかなって」
「そうだな、一瞬考えたけど辞めた。だって君に説き伏せられるのは見えてるし」
仮に僕がそう言ったら君はこう答えただろう。
つまり先生、貴方はシャルロットちゃんの命が農民10人の命よりも重いと思ってるんだ。それは烏滸がましいことじゃない?命に対して値踏みするなんて神様の真似事じゃないの。
僕は多分これに反論できない。僕は神様の真似事をする事について、なんら躊躇いもないし僕にはその権利があると考えている。でも同時に僕はそれを正しくないと感じる心を持ってしまってるのだから。
「なにより正しいならそれは許される。いや、僕は許さなくてならない。だからシャルロットを殺してコトデーを失脚させたことについて、僕は君を咎めることはできない」
「私はもっと話てもよかったんだけど」
「それは君が、僕は君を許してしまうと分かってるからだ。つまり、なんだ。君のしたことは正しいけれど、まったく君は悪い女だ」
彼女は酒を含み、そのまま僕に深い口付けをした。あの不愉快で下品なアルコールの味が口の中に広がる。
「酒嫌いなの、知ってるだろうが」
「でも悪い女は好き、でしょ?」
「シャルロは悪い女じゃない」
「私のこと悪い女って言ったよね?」
つまり、君は僕が君を好いていると言いたい訳か?それは間違いだ。
確かに僕は生きる意味として君を求めたが、これは君のような人間が身分制度に苦しまない世界の為にと言う意味だ。これは君をシャルロと変えても通じてしまうし、あるいは君をその辺の浮浪者に変えても通じてしまう。
だからこれは僕が君を好いているという証左にはならない。
「つまりだ、君はこう言いたいんだな。僕は君の事を愛すべきだと」
正しさという面でならば、いますぐルナという悪女は処分するべきだ。なぜなら彼女は制御できない女だからだ。今回はたまたま正義に働く暴走をしたが、次回は分からないだろう。
でも僕は彼女を処分しない。なぜなら彼女を少なくともその辺の人間以上に特別に見ているから。
ここに問題はない。僕には人の命を値踏みする権利があるから。だが権利を行使すれば義務が生じる。この義務こそが問題だ。
「僕が君を愛することは義務だからとね」
「そういうこと」
「確かに、僕には君を愛する義務と責任がある。ならば僕はそうしよう。君を愛してやる。
だから、愛する君にはこれを伝えなくてはならない。紙とペンを持ってこい、指令第33号の詳細を伝える。これを君が実行するんだ」
指令第33号、その実行者は歴史の闇となり、永遠に人々に蔑まれる事になる。ルナには僕の愛を代償にそれを背負ってもらう。
「僕の愛は高いぞ。地獄の果てまで付き合ってもらうからな」
「いいよ、シャルロさんは地獄には来れないだろうしね」




