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アンソレイユ

 シャルロ・アンリ・アンサング視点


 私は死刑執行人だ。だからどんな人間が来たとして、それがたとえ極悪な犯罪者だとしても貴族であったとしても、王であったとしても正義の柱の刃を下ろすつもりだ。

 でも、これはないだろう、これは。


 「貴方が、シャルロット・ダルモン・バルバトスさん?」


 独房の藁のベットに寝転がる少女。所作や顔つきからして多分15、16歳くらい。私よりも三つ四つも歳下だ。こんな少女を斬首するのか?


 「はい、貴方は…シャルロ・アンリ・アンサングさんですよね?」


 「うん、そうだよ。貴方の死刑を担当させてもらうね」


 「そうですか。死神なんて皆言うから、怖い人なのかなって思ってました」


 藁のベットに座り、彼女の顔をまじまじと見る。本当に幼い顔だ。何も苦労もしたことないような、可愛いく幼い顔立ちをしている。


 「綺麗な人、すごい肌白いですね」


 「死体みたいって、よく言われたっけ」


 「そんなことないですよ、雪みたいでとっても綺麗です」


 「昔、同じ事言われたっけな」


 「恋人ですか?」


 「そんな所かな」


 「素敵ですね。私もそんな事言われてみたいです」


 あれ、この娘を私に殺されるのに、私はこの娘を殺すのに、なのに平気でお話してる。もしかして、分かってないんだろうか、この後自分が死ぬってことを。


 「シャルロットさんは強いね」


 「強い?私がですか?」


 「だって、貴方は…何でもない」


 「これから、死ぬ?ですか?」


 「そうだよ、貴方はこれから死ななくてはならない。革命裁判でそう決められてしまったから」


 彼女の目はただまっすぐ私を見ていたし、身体も何も震えていない。でも力が入っていた訳ではなかった。むしろリラックスして、脱力しているような感じである。


 「そうですか。正直、ですね、いざってなると実感ないですよ。全くと言っていいほど」


 「それで、割り切れるものじゃないでしょ」


 「貴方も私の立場になってみれば分かりますよ。案外、自分が死ぬって自覚してても死んだら死んだで別にって感じですし」


 「死ぬのは嫌なことでしょう?」


 「確かに嫌なんですけど、死にたくない理由を並べた時に死にたくないしか思いつかなくて」


 その死にたくないと言う気持ちは死にたくない理由に十分なんじゃないのか?だって敬虔な信徒であったとしても、天国に至れない"もしもの場合"について恐れを抱くものだ。死はとても冷たくて恐ろしいものなんじゃないかって。


 「その感覚が私にはわからないよ。だって死ぬってさ、苦しいことなんじゃいの?ずっと一人でさ」


 「どうなんでしょう。それこそ死んでみないと分かりませんし。

 でも、私が思うにです。この世界を観ているのはこの目ですし、痛いと感じるのはこの身体です。生まれつき目がない人が世界の色を知れないように、白痴の人間が世界の複雑さを論じれないように、死んで全てがなくなったら、全てを感じれなくなるんじゃないんですか?」


 「でも霊魂は不滅だよ。そこに在るだけになるのはさ、寂しいんじゃないかな」


 「寂しいと感じるのは心ですし、心を理解するには脳味噌が必要です。ですからその、寂しさを感じる器官が欠落していたならば、寂しさはないんじゃないんですかね。そこに在るだけだけど、そこに無いっていうか、あーだからその、私が死んだ時、私を私として象るもの、知識とか心とかが離散してしまうから、死について感覚として知れないんじゃないかって。だからその、でも、あぁ、正直よく分かりませんね、やっぱ」


 「そう、だね。でもそれは救いになるのかもしれない。私にも分からないけれど」


 時間はまだまだあるが、これ以上この話はしたくない。彼女にはこの考えのまま死んでもらう方が楽だろうから。


 「…シャルロットさん最後に何かして欲しいこととかある?私にできることなら何でもするからさ」


 「そうですね、じゃあ私の絵を描いてください。一度やってもらいたかったんです」


 「任せて、手先は器用なんだ」


 処刑助役に筆と画材を用意させ、彼女の姿を描く。得意とはいえど画家ではないので、特に言う事のない絵が完成した。


 「八割くらい完成かな」


 「本当上手いですね。私もこういうの描けたらいいな」


 「…そろそろ時間だね。書き込みはきちんとやっとくから、安心してね」


 「完成を見届けられないのは残念ですが、ありがとう御座います。私嬉しいです」


 「ごめん、手を縛るね」


 「構いません。あぁ、でも手袋をしてもいいですか?さっき強く縛られたせいで手が痛くて」


 「大丈夫、私は手を痛めずに優しく縛ることができるの」


 貴族の娘程ではないが白くて細い手だ。剣のせいで男の人みたいな手になってしまった私はその手をとても羨ましく思う。


 「本当だ、全然痛くないです」


 「じゃあ、行こうか」


 彼女を荷馬車の椅子に座らせる。屋根のない馬車は彼女の顔や肉体を民衆に晒した。


 「あまり、耳を貸しすぎないでね」


 「大丈夫ですよ、いくら謂れのない言葉を言われても」


 死刑台まで向かう途中、民衆は彼女に対して売女だとか魔女だとか畜生だとかの悪口を浴びせる。だが彼女はその言葉をまるで無いように空を見ていた。いや、もしかしたら自分が言われた言葉だと思っていないのかもしれない。

 やがて馬車は処刑台辿り着き、彼女を降ろす時になった。


 「気を付けてね。転んだら危ないから」


 「はい、エスコート感謝します」


 死刑台の上に立つ非情と立つ正義の柱を見上げる。彼女の表情はただ子供が織り機を見るようなものであり、結構大きいんですねと小さく零す。


 「階段気を付けてね」


 彼女はいつものように、街の階段を上がるようにして上がる。そして一言。


 「高いんですね、まるでお祭りの舞台に上がった気分です」


 「そうだね、ちょうどお祭りくらい騒がしいしね」


 「じゃあ、そこに寝転がって。大丈夫、痛みなんて感じないから」


 「わかりました」


板を下ろして彼女の首を固定する。あとは刃を吊り上げている麻縄を斧で断てば彼女の首は飛ぶ。


 「アンサングの名において!殺人犯シャルロット・ダルモン・バルバトスを処刑する」


 罪人が珍しく女だからにのか、民衆はいきり立っている。これは早々に終わらせないとまずい。


 「アンサング!さっさとそのクソアマを吊るせ!!」


 斧を持ち、縄を断つ。刃が落ち、彼女の首は箱の中の藁に落ちる。

 あまりに軽い頭を持ち上げるとき、彼女は私に微笑んだ。


 「シャルロットさん…」


 「シャルロット・ダルモン・バルバトスの処刑はアンサングの名において執行された!!」


 鼓膜を破るような歓声。はっきり言って狂っている。この少女は貴方方に何をしたのだろうか、何もしていないだろう。


 「テルール、貴方は正しいの?」


 こんな女の子まで殺していたら、いつか貴方自身が…

解剖した後、妊娠の初期状態にあったとか描いてやろうかなって思ったんですけど、さすがに過剰かなって思ってやめました

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