アンラソレイユ
ルイ・イトワール・ルナ=ジャスティカ視点
コトデーを崩す。先生はそれをとても難しそうに考えていたけど、実はかなり簡単な事なんだ。というか、王やオーレン公を崩した時よりもずっと簡単。
でも先生はそれに気付けない。先生自身人間性のせいで。
先生は外様には厳しいし興味を持たないし利用するけどその反面、身内には優しいし何が何でも守ろうとする。
だからコトデーを簡単に失脚させる手を思い付けない。
「ルナさん今日の服可愛いですね!」
シャルロットちゃんを使う。それがコトデーを一瞬で失脚させられる唯一の方法だ。
「ねぇ、シャルロットちゃん。先生が困ってたら助けてあげたいよね」
「はい!勿論。だってロベスピエールさんはいつだって正しい事をしてくれますから」
「じゃあ私の言う通りにして欲しいんだ。大丈夫、二人で先生迫った時みたいに絶対にうまく行くからさ」
「わかりました!任せてください!」
私には嫌いな物がある。それはこの服を見て可愛いと言ってしまう人間だ。その点でみれば私はシャルロットちゃんが嫌いなんだろう。
「じゃあ、ちょっとついてきてよ」
彼女を連れあるアパートに向かう。目的地までは結構距離があるので、途中で昼飯にすることにした。
「いいよ、好きなの食いなよ。私が奢るからさ」
もう1年前ほどだろうか。昔ステーク・アッシュを食べていた所だ。
「いいんですか?」
革命のせいで値段は2倍くらいに跳ね上がっているし、量も少ない。だから売れなくて売れなくてで椅子も机も変えれないからグラグラしている。だがその反面、味の方は昔より美味くなっている。貴族仕えの宮廷料理人が食い扶持の為に下界に降りてきたのだ。
「これグランデパフェ、めっちゃ人気ですよね。私これにします」
「いいね、ご飯はどうするのさ」
「このチーズステークにしますね」
なんと言えばいいだろうか。この子は浅いのだ。じゃあ何で浅いのか、それは彼女が流行とかの新しい権威に対して考えなしに傾倒するからだろう。
例えばそう、先生だってそうだ。彼女が先生を好きなのは持ち前の正義感と新しい権威への傾倒が混じり合った結果だ。冷静に考えてみれば、先生に正義は無いし、寄りかかるにはあまりにも脆い人だ。彼女はそれを知らずして、貼り出された正義だけと強さを見ている。裸になってそれなのだから、私から言わせれば究極的に当事者意識が欠如しているんだと思う。
「食べないんですか?」
「ごめんごめん」
ステーク・アッシュ。先生が好きな料理。柔らかくて子供向けの料理。私はあまり好きではない。ベチャベチャしててまるで病院食だ。でも先生がこういうお子様料理が好きなのを知っているのは私とあと、シャルロさんくらい。
「美味しいですねこれやっぱ。ルナさんも食べでみてくださいよ」
差し出されたスプーンを口に入れる。正直言ってあまり美味しくはない。イチゴ農家がご破産状態だからホイップ増量して量誤魔化してるだけじゃん。それを美味しいと言うのは無理があるんじゃないかな。
「美味しいね」
これからの事で色々考えていたせいであんまりご飯は味わえなかった。
「そろそろ行こうか、払うよ」
「ありがとう御座います!」
店を出てしばらく大通りを歩く。通行人は俯くか、あるいは槍先に刺さる貴族の頭を眺めている。いや、正確には貴族ではない。20の槍のうちその11は貴族の頭だが、残り9は徴税請負人や宮廷画家などの所謂富裕層や中流の中の上の方の人々だ。その証拠に一番奥のあの顔、コメディ・ソレイユズの俳優だ。
「きちんと下向いてね。襲われかねないから」
強姦とか殺人とか、金持ちが行えば一発死刑だけど、貧民が行えば黙殺される。いちいち構ってられないと言う理由で。だから私達女性は、特に若くて麗しい彼女のような女性は大通りを歩いてはならない。特に人が多くなり叫ぶ昼食後と人が居なくなる夜は。
「ここってポールさんの住んでた所ですよね?」
「うん。今日は彼に用があるんだ」
アパートに入り、彼の部屋の前で立ち止まり、彼女に耳打ちをする。
「…このナイフで彼を殺して欲しいんだ」
「え…?」
「ポールを殺さないと先生が困る。ポールは先生を騙して先生を死刑台に送ろうとしている。今殺さないと」
嘘である。むしろポールはよくやってる。だからこそ、彼の情報網をそのまま先生に引き継げたら便利だなって思う。
「お願い先生の為なの。出来るよね」
「…わかりました」
究極的な当事者意識の欠如、こういう所だ。彼女は自分の人生にすら当事者意識が無い。だからこの後どうなるのか曖昧にしか想像できず、どこか楽観的で刹那主義的な生き方をする。つまり、浅いんだ。あらゆる観点において。
「ポール、先生から指令」
「ルイ・イトワールとシャルロットか。今新聞を作っているから、少し待っててくれよ。そこのソファに腰掛けてくれ」
ソファに腰掛け、アイサインで殺せと指示を送る。
彼女は震えるナイフを両の手で押さえて、活版印刷機を弄くっているポールの後ろに立った。
「待っててくれ、あと少しで終わるから」
ナイフはポールの背中に刺さり、床を赤く染めた。
「ルイ、ルイ!?シャルロット!?な、なんで?」
「ごめんね、ポール。必要なことなんだ」
「シャルロット!助けてくれ!」
ハイになった彼女は、床に倒れるポールに跨り、二撃目三撃目とナイフを刺していく。返り血で新聞の一部が赤く染まり、部屋はまさに地獄絵図だ。
「パリス市警だ!」
六回滅多刺しにした時、警察が部屋に入ってくる。実は彼らも事前に仕込んだ協力者だ。
「拘束して」
三人がかりで少女を抑え、部屋の外に連れて行く。
「大丈夫だよ、シャルロットちゃん。なるようになる、でしょ?」
その声を聞いた彼女はもう話さなかった。多分、本当にこの後自分がどうなるかを想像できてないんだろうな。
さて、部屋には死体と私だけ。コトデーの件はこれで何とかなっただろう。さすがのコトデーとて、妹を死刑台に送られたら政治なんてできないだろう。あんな可愛い子じゃ尚更ね。
暗殺の天使ことシャルロット・コルデーが元ネタです。でも人間性は全然元ネタにしてません




