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限界


 サン=ベルナール・ロベスピエール視点


 「クソが!!」


 ゲオルグ・ダールトンからの提供された情報を聞いて開口一番に僕が叫んだ言葉だ。


 「馬車は用意してあるんだろうな、今すぐバレンラに行くぞ。王を逮捕する」


 馬車に乗り込み、揺れのなかで僕は思考の世界に入る。


 「クソが…」


 さて、まずダールトンからの情報はこうだ。

 王はオルストリカに逃亡するが、御者が間者であるので、バレンラで降ろされる。

 そしてこの企てはオーレン公のものだ。

 つまりオーレン公は僕に王を捕まえて処刑しろと言った。王よりずっと足早に逃げた男がだ。

 では、なぜオーレン公が僕に王を逮捕して殺せと言ったのか。

 それは王位継承権を持つオーレン公を列強各国がラソレイユ王国亡命政府の旗頭とするためだ。

 で、それによって何が起きるか。

 ラソレイユ革命政府対ユーロ各国という大戦争である。

 で、ここでオーレン公の言葉が効いてくる訳だ。


 "私の最終到達点は戦争の無いユーロ、あるいは戦争の無いラソレイユなのさ。その為にはユーロ全域で、あるいはラソレイユ内で遍く国々の人とモノ、金と情報が生き来する必要がある"


 そう、もしもこの大戦争でラソレイユが勝利すればラソレイユはユーロ全域を経済圏とすることになり、数多の国の人とモノと金と情報がこのユーロ州を生き来する事になる。

 またもしも、ラソレイユが負けた場合は敗戦国の王であるオーレン公が広く経済を開き、ラソレイユを数多の列強の経済的植民地とすることでラソレイユという土地での戦争を不利益なものとすることで、ラソレイユから戦争を消失させる。


 つまり、だ。オーレン公はずっとこの構図を描く為に動いていた。だからオーレン公は勝ちもしないし負けもしなかったのだ。


 "一人ではないよ。私は運がいいからね、産まれた時代が味方なんだ"


 こう言うカラクリだったのか、こう言うカラクリを最初から作ってたのかよ。

 だがなんだ、悔しがってんのか?意味がねぇだろうが。

 確かに全てはオーレン公の掌の上だった。だがそれは偶然だ。よく考えてみろ、この使命感は誰のものだ?僕のだろ。民衆に奉仕する事を正しいと思っている感情は?僕のだろ。

 はっきりと言ってやる。オーレン公は僕のやるべき事を増やしただけだ。

 オーレン公、これからもあんたの掌の上で踊ってやる。だが、その代償に僕はユーロ全ての国を滅ぼすし、あんたの命も捧げて貰うぞ。


 「ゲホッ!」


 また血を吐いたか。肺結核は着々と進行している。

 そうか、ならばむしろオーレン公に感謝するべきだ。奴がこの流れを作ってくれたおかげで大戦争も革命も早まったんだ。それでギリギリ僕の命に間に合うようになった。

 だからオーレン公の事は許そう。

 なにより今許せないのはむしろ国王の方だ。奴は責任を放棄して国を捨てた。僕はこれを許せない。


 「急げ、早く国王を連れ戻すんだよ!」


 御者を急かし、1日半馬車に揺られてバレンラに着いた。

 バレンラ、本当に田舎だ。その証拠に革命が起きているというのに住人は平時とほぼ変わらない生活をしている。

 ただ一つ特別な物があるとすれば、マリア・アントワールがオルストリカから嫁いでくる際に停泊小屋として建てられた屋敷だけだ。そして用があるのはこの屋敷である。


 「国王陛下、いやオーギュストはどこにいる?」


 近衛兵の格好だが、オーレン公の手のものだろう。そいつに話しかけ、罪人の居場所を聞く。


 「2階でございます、ロベスピエール様」


 2階に上がる途中、広間にいるマリア・アントワールに睨まれた。アクセルとして何度か話したことが故、気まずくて何か言い返すことは出来なかった。


 「この前の、ヴァルサイエーズ以来ですか?国王陛下、いえ、オーギュスト・カペー」


 オーギュスト・カペー、王権の停止の手続きが終わった後に奴に与えられる名前だ。


 「サン=ベルナール・ロベスピエール、貴様が来たということはとうとう詰んだのだろうな」


 奴は立ち上がり、突然崩れるように床に倒れ、その頭を床に擦り付ける。

 土下座と言う奴だ。罪人が神父を前に行う行為、神に許しを請う行為である。


 「頼む、私を利用してもいい、私を殺してもいい。だからマリアとシャルルの命を救ってくれ」


 「私に何の、いやもう敬う必要はないな。オーギュスト・カペー、それで僕の何のメリットがあるっていうんだ?」


 「メリットだと?お前とて、分かっているはずだ。オーレン公の企てを。だから大戦争を止めるんだ。私を立憲君主として立てればオーレン公の企ては破綻する」


 「…温室育ちの白痴野郎にはわからんみたいだな」


 「オーギュスト・カペー、あんたは二つ間違えている」


 僕はこの男の、王でありながら王たろうとしなかった無能者、責任から逃れた卑怯者の頭を掴み、床に擦り付けた。


 「いいか?土下座と言うのはな、謝罪から入るんだ。たとえ自分に非がなくとも、人に頼むならまず、自分一人で解決できないと己の不甲斐なさを主張して、それに反省をしてからお願いしますと頼むんだ。

 そしてもう一つ、僕は大戦争を止めようなんて思っていない。むしろオーレン公の望む過程は僕の目的達成の為の過程と一致している。大戦争も広く開かれた経済も、その全ては身分制度の解体の過程の一つなんだよ」


 僕には嫌いなものと許せないものがある。僕の嫌いなものは下品なもの、醜いものだ。そして許せないものは与えられた責務や責任から逃れる奴だ。

 だってこのような害虫を許してしまったら、僕が責務や責任から逃れず、文字通り血反吐を吐いて頑張って苦しんでいるのが馬鹿らしくなってしまうし、それが許せるのなら僕だって今すぐシャルロを連れてこの国を去る。でもそれは許されざることだし、決してあってはならない。

 だからこのような、責任からの逃亡者を僕は許せない。


 「…今わかった、ロベスピエール。お前はゴミクズだ」


 奴は立ち上がり、僕を殴った。鼻から血が出るほどの力で殴ったのだ。


 「サン=ベルナール・ロベスピエール、お前を殴ってはならん理由は思い付くが、それはそれとしてお前を殴る理由は沢山、あるんだよな」


 「それはお前もだろうが!オーギュスト・カペー!」


 頬に埃をつけた男に殴りかるも、簡単に躱されて反撃のアッパーを食らう。

 脳が揺れて、まともに思考できない。


 「はっ!ノッポのくせにフィジカルは貧弱だな。まるで病人を殴っているようだぞ」


 「穀潰しが!今すぐそのドテッ腹かドタマにケツアナ増やしてやろうか」


 銃を引き抜き、銃口で奴の額に突き付ける。


 「清廉潔白の腐らぬ男が聞いて呆れるな。蓋を空けてみれば、拳の喧嘩もできない臆病者で卑怯者で畜生以下のカスじゃないか」


 「黙れ、お前は負けたんだ。この僕に負けたんだよお前は。なんでそうやって余裕綽々と喋っている。敗者ならば敗者らしく許しを請え、自分は間違って居ましたと神に告解しろ」


 「…お前、ちょっとおかしいよ」


 「おかしい?僕がか?どこがおかしい、言ってみろよ、負け犬が」


 「お前、本当はこんな事やりたくないんじゃないか?」


 「何を言っているかわからない」


 やりたくないだと?これは僕の望んだことだ!こんなにも苦しい道もこの短い運命も僕が望んだことだ!シャルロを助けるのも、民衆の希望になるのも選んだのは僕だ。だってそれが正しい事だから。


 「要はお前に本当に必要なのは革命でも政治でもなく医者ってことだ」


 「意味が分からない。僕は医師だぞ。僕のことは僕が一番分かってるんだ。お前の話は意味が分からない」


 「そうか。でもこれだけは聞いてくれ、お前はこのままいったら壊れるぞ。いや、もう壊れているか、ともかく、お前はこのまま進むべきじゃない。だから私と共に平和的な道を…」


 これ以上この男の声を聞いていたら頭がおかしくなってしまう。

 床に銃口を向け、引き金を引く。

 空気を引き裂き、床の石材を傷つける音で奴の会話を掻き消した。


 「あんたとの話はこれで終わりだ、オーギュスト・カペー。あんたはパリスに連れ戻されて、革命裁判を受ける。勿論マリア・アントワールもだ。次会うときはそこになるだろうな」


 「後悔するぞ、ロベスピエール」


 「正しい事の先に、後悔は無い」


 奴にそう言い残し、屋敷を去る。

 マリア・アントワールの僕を見る目は、到底人に向けるような目ではなかったと思う。

 

病気になっても生きる意味なくなっても、いままで責任とかそういうものから一切逃げなかったテルール君にとっては結構地雷になるかなって思って描いたんですけど、口調的に違和感あるかも?でもテルールの眼の前で責任から逃れた人間はオーギュストしか居なかったから妥当ではあるのか?とか色々思いながら描きました


追記


「お前を殴ってもいい理由、三選」

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