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ラ・ファルトレス要塞襲撃


 「市民シュトワイアン諸君!ファルトレス要塞を見よ!あの大砲は誰に向けられている!」


 「俺達だ!!」


 「国王は我ら国民に剣を向けた!武をもってして我らの権利を黙殺すると!神が与えたもう普遍的な権利を黙殺すると!」


 「このような蛮行を許してはならない!国民よ!市民シュトワイアンよ!このサン=ベルナール・ロベスピエールと共にラ・ファルトレス要塞へ!!」


 政治も戦争もその本質は変わらない。ただ、小さな個人が幾重も重なり合って一つの巨人となっているにすぎない。

 ただ、違うとすれば個人の自我の違いだろう。政治をやるものは僕を含め、何処か主人公気質だ。でも戦争は、軍隊は違う。徹底的に個人を排して巨人の一部足らんとするから、個人の性格が見えない。だから各個人と利益調整をして、あるいは個人を貶めたり対立させたりして崩していくって事ができない。

 つまり、何が言いたいか。僕には軍の才能が一切無いってわけだ。だから僕はこの革命の初動、こちらの士気を高めて武力を効率良く運用する為の装置に徹する。


 「ラパイヨーネ、攻略の道筋は立ったか?」


 「暴徒を突撃させて跳ね橋を落としましょう」


 女と見紛う程小柄な男、僕の協力者砲兵連隊長ラパイヨーネ・ブオナパルテ。少なくとも僕よりは軍略の才があるだろうから、この革命における軍事行動は彼に一任する。 


 「民衆を突撃させるのか?」


 「無意味でしょう。この要塞はとにかく"出にくい"ように作られていますから」


 「民衆を突撃させたとして、高台から打ち下ろされて散り散りになるだけです。ですから跳ね橋落としの最大の目的は民衆の突撃に意識を向けさせておくという点にあります。そうすればこちらが薄くなりますから」


 「わかった。それでこの戦いの損害は何人になる?」


 「死者30、負傷者40くらいでしょうか」


 それでは少なすぎる構図として弱いんだ。このラ・ファルトレス要塞襲撃は華麗なる美談で終わってはならない。血なまぐさい勝利でなければならないんだ。


 「少なすぎる。この事件はこの革命の象徴にならなくてはならない。つまり苛烈で壮烈な戦いじゃなくちゃいけないんだ」


 「どうぞご勝手に。政は貴方の領分ですから」


 門の方に行き、攻めあぐねる暴徒達の下へ。高台に立ち、肺に空気を入れる。


 「あの高台の兵の顔をとくと見よ!あの我らと変わる顔を見よ!あの顔の男に君らの妻や娘は凌辱されて死ぬのだ!あの男の撃った鉄砲で君のとなりにいる者は死ぬのだ!だから躊躇するな!」


 あの兵の顔、正門の指揮官の顔は青褪める。当然だ、この怒れる数百人に顔を睨まれて平気な人間はここを任されないだろう。


 「諸君!跳ね橋を落とすのだ!!」


 跳ね橋に向かって突撃する暴徒達。壁上の兵はそれを撃ち下ろし、それを殺す。


 「罪なき彼らは殺された!王の名の下にある国軍に殺されたのだ!つまり王の名の下にあれば罪なき殺人すら許される!王の名の下であれば全てが許されるのだ!そして次は君と、そして君の家族だ!王に奪わせるな!!」


 大仰な仕草と言い回しをしているが、要は僕の為に死ねって事だ。そんな事を平然と口に出して言えるし命令できるし、それがこれからは必須だ。

 だからやめよう、行為の善悪だとかを考えるのは。もうシャルロにアデューといったし、もういいんだ。僕は正しいからこいつらは僕の為に死んで当然。そう考えてしまおう。そしたら全てが楽なんだからな。


 「跳ね橋を落とせ!!」


 暴徒は僕の死ねという声に応えて跳ね橋に突撃する。この過程においての死者は22人。だがその甲斐あって跳ね橋は落ちる。


 「跳ね橋は落ちた!!進め人々よ!!陥落まで目前である!!」


 約百人が雪崩込み、激しい乱闘になる。突撃の初動、この三分で15人。さっきと合計して37人か。望んでいる構図までは60人程足りない。

 ならば、頃合いか。ラパイヨーネはここであれを導入してくる。


 「ロベスピエール!持ってきてやったぞ!」


 初老の男、ラヴァージェ博士である。


 「来たか!ラヴァージェ」


 そしてその後ろには何人もの科学者が並んでおり、彼らは特殊な鉄砲を持っていた。そして要塞にその銃口を向ける。


 「八八式はバッチリだ。その使い手もな」


 八八式マジックマスケット。"賢者の魔法は砲撃一発の威力と同等である"幼き日の本から着想を得て、ラパイヨーネとラヴァージェ博士の協力の下に作られた世界を踏み潰しうる可能性だ。


 「ラパイヨーネの方にも回してあるのか?」


 分かりやすく言ってやる。騎馬と同じ速度の砲兵隊だ。


 「えぇもちろん」


 「ならば勝ちだ。科学者よ!引き金を引け!!」


 正門側23門、裏門17門、計40門の砲撃が要塞に降り注ぐ。

 幾重にもなる鈍い音と暴風、黒煙の中から崩れる音と悲鳴が聞こえる。


 「ラ・ファルトレス要塞よ!10分の猶予を与える!降伏せよ!繰り返す!ラ・ファルトレス要塞よ、10分の猶予を与える!降伏せよ!!」


 この10分は再装填に必要な時間だ。まだまだ改善の余地ありって具合だな。


 「こちらにはさらなる砲撃の用意がある!援軍なき籠城戦に勝ち目は無いぞ!!」


 黒煙の明けた先、そこには白旗が翻っていた。


 ラ・ファルトレス要塞襲撃。死者98名負傷者96名。

 ラソレイユ革命の象徴的な出来事は民衆の勝利に終わった。


 「国民よ!武器を調達せよ!!次なる目的はヴァルサイエーズである!!」

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