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【第三部完】三部会、我ガ代表堂々ト退場ス!


 さて第一身分の投票までの待ち時間、作戦会議、というよりこの後の予定について確認しよう。

 なにせオーレン公のせいで三部会の空中分解が現実味を帯びてきたのだから。


 「ルナ、ラパイヨーネに連絡はできてるんだろうな」


 「うん。ちゃんと言ったよ、貴方が退場したら軍事計画第A号を発令するようにって」


 「ポール、新聞の方は?」


 「三部会失敗パターンと成功パターンどっちも用意してあります」


 「守備は上場か。あとは三部会の行く末を見守るだけだ。幸い、オーレン公のおかげで投票時間は暇じゃないしな」


 第一身分の投票は終わり、次は問題の第二身分だ。


 「先生、結局オーレン公ってどっちに投票するの」


 「僕が思うには…正直わからないんだよな」


 僕の仮説として、オーレン公自身は一人一票制で投票するだろう、左手で。

 まったく、オーレン公は人の心がない。王の命令には従いつつ、嘲る為に皆を扇動して一身分一票制への流れを作ろうとしている。

 まぁ、これも全部仮説だ。オーレン公の真意なんてわからないし、それも読み切れてるならそいつは神様だ。

 さて、そうこうしている間にオーレン公の投票だ。

 議会全員が彼の手に注目する。そして彼は左手で入れた。また続く議員も左手だ。

 よし、趨勢はほぼ確定したな。


 「せっかくだ、奴に乗ってやろうか」


 第三身分の投票となり、投票用紙を持ち投票箱の前まで向かう。ちょうどその箱の正面には王が座っており、彼の顔は青褪めていた。


 「残念です、国王陛下」


 彼によく見えるように、僕は左手で票を入れる。もはやこの左手投票は三部会における投票方法の開示を超えて、国王への敵対を意味するようになった。


 「…神よ、どうかラソレイユを救い給え」


 可哀想なオーギュスト、王であるのに自らと自らの家族を守ろうとした哀れな男。

 残念ながら、お前の嫁とお前の子供が死んでも太陽は登るんだな。お前の明日が来なくとも、ラソレイユの市民には明日が来るんだ。

 だからお前が僕の目的の害となるなら、お前を廃する事も仕方ないんだ。

 やがて第三身分の投票は終わり、開票となる。


 「一人一票制、472名。一身分一票制、543名」


 72名差か。ちょうどオーレン公の派閥の議員と同じ数だな。


 「投票の結果により、この三部会における投票方法は一身分一票制を採用します」


 第三身分の席ではもう火は起こってる。あとは僕がこの火を盗んで、目的の方向に向かわせるだけだ。

 だが、そうだな、少しだけ身体が重い。だってこの火を起こしたらもう後戻りはできない。この目の前にいる貴族のほとんどが死ぬ事になる。

 最後によく見ておこうか、自分が原因で死ぬことになる人の顔を。

 あの太っちょ、脂汗をハンカチで拭いてる。あっちの爺さんは長年の経験からこの後の事態を予想しているのか?ならあっちの青年貴族は?

 まぁ、肝心なのははここでの所作ではない。彼らにも愛する家族や恋人がいるという点だろう。国王と同じように。

 そしてそれを僕が殺さなくてはならない。貴族の矜持を持ってして首を差し出す男も、嫌と泣きわめく妻も、何も知らない子供も等しく殺さなくてはならない。

 と言っても、僕は命じるだけだ。殺すのはシャルロ。だからそれが嫌なんだ。

 僕はシャルロや多くの人々の為に革命を完遂しなければならない訳だが、その過程に於いてシャルロと多くの人々を不幸にしなければならない。

 それはたまらなく不条理な事だし、僕本人としても許せることじゃない。だとしてもそれをやらない理由にはならないし、誰かに背負わせるくらいなら肺結核で先の短い僕がやるべきだ。


 「…ごめんなさい」


 火をつけるのだ。三部会に、この国そのものに。


 「聞け!国民よ!悪しき者共は我々の要求を受け入れなかった!奴らは公正さをかなぐり捨てて!強欲にも自己の利益と保身に走ったのだ!」


 燃え盛る炎はこの会場の熱を急上昇させる。

 大狂乱だ。200年分の憤怒が第三身分の席を、あるいはこのヴァルサイエーズを包んでいる。


 「よって!私は球技場の宣誓に従い、あらゆる場所で議論を起こす!

 だから私はここにて宣言する!第三身分の、国民の三部会離脱と国民の議会、国民公会の設立を!」


 第三身分の大熱狂とは真逆に、貴族の席は戦々恐々としていた。そしてその中でも一際目立っていたのは国王の顔である。彼はこれから起こる全てを理解し、今にも崩れ落ちそうだった。

 しかし、オーレン公の顔はいつもと同じ微笑みズラだったのは気になる。


 「さぁ!立ち上がれ国民よ!ヴァルサイエーズから退場し、国民公会に参加するのだ!」


 第三身分は、国民は立ち上がり、司会の制止も聞かず足早に退場する。


 「ポール、新聞屋の方に馬車を走らせろ。今回の見出しがファルトレス要塞襲撃の合図になっている」


 「我が代表堂々と退場す、でしたね」


 「まったく、来るところまで来てしまったな」


 三部会の吉報を期待していた民衆の顔色は不安に満ちている。どうやらここにも火が必要らしい。


 「皆様!サン=ベルナール・ロベスピエールで御座います!私は貴族の実態を知りました!彼らは200年前と何も変わらなかった!!彼らは私達の最後の慈悲を!差し伸べた手を引っ叩いて拒絶したのです!!

 もう皆様も理解したでしょう!愚かな彼らの為に貴方の家族が!夫が!妻が!子が!飢える必要はないのです!!

 ですから皆様!市民シュトワイアンの皆様!我々の手で家族を守るのです!!悪しき者共から!我々の手で!!」


 不安の表情は一気に憤怒となり、祈る為に重ねた手は二つの握り拳となる。


 「農夫よ!鍬を取りなさい!炭鉱夫よ!ピッケルを掲げなさい!主婦よ!包丁を持ちなさい!我々から食を命を奪う者を許してはないない!立ち上がれ、市民シュトワイアンよ!!」


 数千の怒りが、雄叫びがヴァルサイエーズを包む。やがてそれはセーヌ流域の全域を包み込み、ラソレイユ全域に波及する。


 1788年5月5日、三部会の失敗を持ってして、ラソレイユ革命が始まった。

約18万文字かけてタイトルの革命部分を回収ってどうなのさって感じるのはあります。

詳細にやりたかったってのもありますけどね

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