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球技場の宣誓


 サン=ベルナール・ロベスピエール視点


 パリスの市民シュトワイアンであれば、ジュ・ド・ポームという球技を知っているはずだ。

 一度はやったことがあるだろう。コートを仕切り、ラケットを使ってボールを相手のコートに入れる。

 元々は貴族の遊戯だったが、球技場が建てられるにつれて一般に普及し、我ら市民であっても知らぬものはいない競技となった。


 「王様はなんだって?先生」


 暗いサングラスはいい。醜いものをみないで済む。

 例えば、鏡に映るこの男。黒いコートにサングラスをした男のような物を。


 「僕の意見を全面的に飲んだ。本当に優しい人だよ。死ぬ気なんて毛頭ないのにな」


 現段階において、死ぬ気など毛頭ない。少し考えれば分かることだろう。僕が死んで革命騒ぎを起こして、何年間もラソレイユを混沌とさせるよりかは、僕が生きて国王を脅し続けることによって急進的な政策を打ち出させるか、あるいは革命の主導者として革命を終了させる舵取りをする方が徳である。


 「ルナ、少し抱き締めてくれ。緊張している」


 市民の議員と言ってもその主義思想は様々だ。例えば僕のように共和制を敷くべきだと考える者、コトデーのように立憲君主制を敷くべきだとする者、その他様々で混沌としている。

 こんな具合では三部会で団結できそうにないので、一先ず僕を市民議員の首領として、憲法が制定されるまで解散しないと宣誓することにした。


 「もしかしたら今日は教科書に載る日になるかもしれない」


 そんな直感を胸に抱えながら、馬車は僕を七区の球技場まで連れて行った。

 広さは15×25mくらいの屋内コート。つまりだ、明確に数字で定義できるほどの広さしかない。

 だからこそ、人がたくさん入っただけで熱が生じる。それもここにいる人は全員、ラソレイユに未来を憂いている訳であるから個人の持つ熱は十分なもので、もはや演説なくして火が付く寸前であった。


 「王は廃されるべきだ。なぜなら…」


 「いやいや、王を象徴として立憲君主制を…」


 「資本家はその存在そのものが盗賊であり…」


 まばらに議論を続ける彼の主張は様々でまさしく混沌だ。

 おそらくだが、これはラスアジィンニコフのせいだろう。奴の著書はもっと進んだ違う世界から思想を持ってきている。だからこうして、思想の早産が起こっているのだ。


 「皆さん!お集まりいただきまことに感謝申し上げます!」


 球技場の監督席に立ち、大仰に手を広げて眼下の人たちに叫んだ。


 「私がサン=ベルナール・ロベスピエールでございます!」


 喋っただけで火が起こるか。嫌な場所だ。


 「私は皆さんに問いたいのです!皆さんだけでなく、このラソレイユ全ての人々に対して問いたい!第三身分とは何か!」


 「国民だ!」


 熱に浮かされ叫ぶ人々。それに対して叫んで薪をくべる。


 「そうです!第三身分とは全て!つまり国民でございます!ですから我らも、貴族も、乞食も王も、等しく!等しく第三身分なのです!」


 「ですから私たちは宣言しなくてはならない!全ての第三身分のために!」


 右手を天に掲げ、宣言する。


 「よって!憲法が制定され、強固な基盤の上に確立されるまでは私達は決して解散せず!状況に応じていかなる場所でも会議を開く事を!!ここにて宣言します!!」


 「全ては全ての第三身分の為に!!全ては全ての人々の為に!!」



 1788年1月3日


 三部会を前に、パリス七区の辺鄙な球技場で行われたそれは、後の世に於いてこう呼ばれている。


 テニスコートの宣誓。


エアプフランス革命なので、日にちに関してはだいぶずらしてます。

球技場の誓い、本来は1789年6月20日です

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