ひとまず、勝ちなのかな?
オーギュスト・ブルボン=ラソレイユ視点
前回の反省を踏まえて今回はこちらも礼儀を気にせず、予定の時間よりだいぶ早く貴賓室に入り上席に座った。
しばらくして、貴賓室に入ってくるのは長身痩身の男、ロベスピエールだった。
「お待ちさせてしまいましたか、申し訳御座いません、国王陛下」
「別に待ってはいないさ、ロベスピエール」
彼は二つ用意された下席のうち、部屋の奥の方にあたる席に座った。
「むしろ、私が予定を間違えたという方が正しいだろう」
「そうですか。私はてっきり、オーレン公に上席を取られたくないから早めに来て上席に座ったのだと思いました」
「だとしたら、貴様はどう思った?」
「別に。ただ、無駄だなと」
「無駄?」
「はい。あくまで私の予想ですが、オーレン公は開始時刻の10分後にこの部屋に来ます。待つ、待たせるの関係でも上下はつけれるので」
つまり私の意固地はまんまと読まれていたのか。
「まぁ正直、くだらぬと思います。わかっていれば流されませんからね」
「そうか、そうだよな…なぁ、ロベスピエール。不躾なんだがな、なぜ私には貴様らの底が見えない」
彼は出された茶菓子を食い、コーヒーを啜る。どうやらお気に召したようでよく味わいながら食った。そして美味いなと小さく零す。
「そういうものでしょう。私とて、貴方やオーレン公の思惑を読み違えたことは何度もあります。次それに対する企てを行って、またそれに対する…
要は折衷案なんですよ、貴方が言っていたように」
「折衷案か。ではこの三部会の開催も折衷案だというのか?私としては一切こんな物を望んでいなかったんだが」
「私も望んでいませんでしたよ、おそらくオーレン公も。三部会なぞではなく、早急な身分制度の解体を望んでいました。しかしですね、貴方やヴァルサイエーズはそれを恐れた。当然でしょう、己の利益は可愛いですし、なにより急激な政変は望む所ではないですから」
「なるほど、その結果が三部会と言う訳だな。だが折衷というにはあまりにも、あまりにも私が不利すぎるな」
「それは貴方が何も支払わなかったからです。人間的な感情すら、払わなかったからですから」
「私が何も支払わなかっただと?私が一体、どんな覚悟で三部会の宣言を…」
続きを言おうとした時、彼は私を強く睨んだ。私はそれに気圧されて、口をつぐんでしまった。
「覚悟?覚悟ですと?貴方は失わぬ覚悟だとか言おうとしていたんでしょうが、それは間違いだ。あんたは全てを持っている。全てを失わぬ覚悟など、素寒貧のような奴にしかできない。全てを持ちながら失わないなど、できるわけがない。わかりますか?傲慢なんですよ」
「やけに饒舌じゃないか、ロベスピエール。私は君の逆鱗に触れることを言ってしまったか?いや、それとも君は常に焦燥しているからか?」
「焦燥している?私が?冗談でしょう。私は常に冷静です」
冷静な人間がそんな歯切れの悪い回答をするかよ。ロベスピエール、お前は私の存在そのものが煩わしいと思っているんだろう。全てを変える力を持っているのに、何もしない私の存在自体を。
「そろそろ話を切り上げましょうか、国王陛下。私の想定が正しければ、オーレン公がそろそろ到着します」
彼の想定通り、開始時刻の10分後に扉が開いた。
オーレン公は遅刻したにも関わらず、いつものように仏のような微笑みを浮かべている。1ミリたりとも申し訳ないとは思ってないのだ。
「申し訳御座いませんね、国王陛下。馬車の通り道がデモ活動で塞がれてしまったもので
「そうか、御苦労であったな、オーレン公」
「えぇ、最近の民衆は血気盛んでいけませんね全く。おっと、これはこれは、サン=ベルナール君も、申し訳ないね」
「僕は気にしませんよ、オーレン公。むしろありがたいのです、茶菓子を殆ど独り占めできましたから」
ロベスピエールの言葉を聞き、机を眺めると既に茶菓子の八割が消えていた。殆ど私は口にしていないにも関わらずだ。
怪物のくせに意外と可愛い所もあるんだな、そう思ったが、これもパフォーマンスの一種なのかもしれないと思うと、彼についてもう何も信じることができない。
「さて、全員集まった所で本題に入ろうか」
「君達は三部会において私の指示に従ってもらう。いや、従わざるを得ない。そうでなければ、三部会が成功しないからな」
この二人の支持母体は民衆と反王権の議員だ。だからこそ私に従わねばならない。なぜなら三部会の成功=王権の弱体化であるからだ。
「サン=ベルナール君は私と同じ事を考えているでしょうね」
「というと、どういう意味だ?ロベスピエール」
「お答えしましょう、国王陛下」
彼は最後の茶菓子の食い、コーヒーを啜る。平民代表と言いながらまこと優雅な所作である。
「目的達成の為ならば、命なぞどうでもいい、としましょう。すると貴方に従う一切の理由がなくなります。なぜなら三部会を潰して革命を起こし、その先に身分制度の解体があるのならば、そこに私がいなくともどうでもいい訳ですからね。であれば、私は効率的だからと、一身分一票制に投票して三部会を喜んで潰します」
ならば私は奴に何を与えればいいのか?あるいはこれは"無から利益を作り出す為のブラフ"と受け取るべきなのか?
私の苦悶の表情を眺め、彼は出されたばかりの新しい茶菓子を食い、コーヒーを啜る。
「ここのブリオッシュは本当に味がいいですね。レシピを教えて欲しいものです」
「…何故そうもそのような事を簡単に思いつける?」
オーレン公は私を咎めるような口調で語りだした。
「自分の命を失う覚悟ができていれば、当然思い付くことでしょう、国王陛下。
失望しましたよ、私は。だって貴方が戴冠式でおっしゃった言葉が嘘であると、でまかせであると、貴方はただのかしましいばかりの大ホラ吹きでしかなかったのですからね」
「つまり、何が言いたい、オーレン公。私が何処で嘘をついたというのだ?」
私はれっきとした覚悟と毅然とした態度を持ってして戴冠式に臨んだ。あの重いばかりの王冠をどうして、どうして被ったと思っている?
「自己犠牲をする気もないのに、貴方は一粒の麦の種と言った。あの言葉は自己犠牲を持ってして、大いなる愛と益を示す言葉であるのに。つまり貴方は無知のまま言葉を使っている。王であるにも関わらず、ですよ。
貴方は王に相応しくないのです。昔の貴方も、今の貴方も。貴方は優しすぎる、自分にも、他人にもです」
崩れぬ男の微笑み、何も無かったかのように茶菓子を味わい続ける男。
二人にとって未だに私は取るに足らない存在なのだろうか?
あぁ、だからなんだよ。私は家族を守らなくてはならないのだ。
考えろ、交渉の材料を…
「ならばロベスピエール、貴様は何を望んでいる?何を見返りに与えれば、貴様は三部会において私に従ってくれる?」
「民衆達の怒りの矛先は王、貴方自身でございますが、それとは別に貴族の免税特権に対してでもあります。ですから…」
免税特権の廃止だと?そんな事をすれば今度は貴族が私の敵となる。民衆と貴族を敵に回して大立ち回りする自信は私にはないぞ。
だから、奴が言い切る前に代替案をぶつけなくては…
「領民税を廃止し、身分一律税として統合する。これを2回目の三部会の議題にしてやる。これで十分か?」
茶菓子が奴の手の前で止まる。
十分痛いが、ここが譲歩の限界だ。これが断られたら、もはや貢げる物はない。なにせこれ以上譲歩すれば、今度は三部会で貴族の支持を得られなくなる。
「いいでしょう。三部会の間、私は貴方の指揮下にはいることを約束致します」
よし、一先ずロベスピエールはこちらについてくれた。では次はお前だ、オーレン公。
「オーレン公。貴様には拒否権はないだろう。お前は玉座に座る為に生きなくてはならない。だからロベスピエールと違って、自滅覚悟の三部会閉会はできない。指揮下に入れ」
「バレていましたか、仕方ありませんね。しかし、私だけ何も貰えないというのは、悲しいですね。ですからこのブリオッシュを作った料理人をしばらくパリス・ロイヤルに置いてください」
そんなことで良いのか?いや、そんなことだからだ。その証拠にロベスピエールも茶菓子を食わず、その回答について顎に手を当てて訝しんでいる。
だが、私には何も思い付けない。快諾するしかないだろう。
「いいだろう。1週間後に送ってやるから、受け入れの準備をしたまえ」
「ありがたに幸せ。私も三部会の間、貴方の指揮下に入ると約束しましょう」
やはりこいつらは化物だ。仲間に引き入れだというのに、一切信用ならない。
だが、だとしてもひとまず、私は有利に立っているはずだ。それはとても、大きい事であるように思える。
だから私は今宵、眠る間際、マリアの髪を少し撫でて、天蓋の下にて小さなガッツポーズをした。
伝わるように伝わるようにって意識するとやっぱり会話が伸びますね。
その参考にしている小説が会話文めちゃくちゃ長いみたいな小説なので、あんま地の文と会話文の比率とか気にしないんですけど、それはそれとして会話文の比率が高すぎる気がします。だってこれは必要だから冗長にしてる、というよりも圧縮しきれてないんじゃないかと感じますからね。
会話文での解説をもうちょっと地の文で行えばいいんでしょうけど、そうするとテンポ感がなくなるし、視点のオーギュスト君がそこまで賢くないしで、かと言って三人称視点で進めると今度は感情が乗りにくくなって解説っぽくなっちゃう気がします。
まじで難しいですね。技術力の不足を感じます。




