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国王の火




 ソレイユ宮殿はこの国の国会議事堂としての役割を持っているが、その実体は王と大臣によって組まれた政策を現実的に調整する為の機関である。

 つまり国会議事堂としての名前を持っていながら、ここにいる貴族たちは議員というより官僚と言う訳だ。


 「オーギュスト15世陛下の一周忌ですが、国庫から5割、オーレン公から2割、残り3割を臨時税として徴税することで決定致します」


 この厳格なる政治の場を私的利用と考えている者が二人いる。

 一人は国王への財政報告書を議会で公開しようと考えているオーレン公。

 そしてもう一人はその報告書のインパクトをかき消す為に三部会開催を宣言する私である。


 「議長!その結論!申し訳ないが廃案とさせていただく!」


 オーレン公は立ち上がりズケズケと議長席の前にまで歩く。


 「私の蔵から2割を捻出!それはいい!なんなら3割でも4割でも出してやろう!しかしだ!国民から3割を臨時税として徴税だと!?」


 剣幕迫る大演説。タイミングが完璧なら議会は揺れていただろう。だが先日、著マリア・アントワールとオーレン公についてのせいでその大演説すらも疑惑の目で見られる。

 "オーレン公、貴公とて野心の為に250万ソレイユを使ったではないかと"


 「諸君よ!なにも私は人気取りの為に臨時税に対して意を唱えているのではない!私は王室の無為徒食さについて意を唱えているのだ!」


 「そうか、諸君は知らぬだろう!なぜなら財政に関する詳細報告はこれまで国王が隠蔽してきたのだからな!

 だからこそ!私はここにおいて、隠蔽されていた国王への財政報告書を議会と、そして後に国民に公開しよう!私は諸君の賢明な判断に期待をする!」


 オーレン公の付きの者が議員に対して紙を配る。その紙を見た議員の反応は一様にしてこうだった。

 "信じられない"


 「これを見ても尚!諸君は国民から徴税しようというのか?

 諸君とて知っているはずだ。先日、高等法院が下したアナリースの死刑判決を民衆が力を持ってして覆した事を!

 それを知っていて尚民衆から取り立てようというのか?

 理解しただろう!私は道徳の話をしているのではない!

 このまま圧政を続ければ我々は王の巻き添えになると言っているのだ!」


 喝采はないが、大きな拍手がオーレン公を包む。

 オーレン公、正直流石だとしか言い様がない。疑惑と疑念によって冷えた議会に熱を持たせて火を起こした。並大抵の技ではない。

 だからこそこの火を、私は利用させてもらう。


 「よくぞ言った!オーレン公!」


 立ち上がり、議会を一瞥する。やはりだ。困惑はあれど、オーレン公の起こした熱に浮かれて疑惑の念は殆ど無い。

 さぁ、オーギュスト。状況は完璧、気分は上々。問題があるとすれば、私が演説慣れしていないことくらいだ。

 だから、果たせよ、オーギュスト。マリアとシャルルを守るんだ。


 「そうとも!先王オーギュスト15世は議会にこれらの詳細報告を公開しなかった!それは偏に先王オーギュスト15世が有能であり、自身こそがこのラソレイユを冠たるに相応しいと考えていたからだ!

 そして私とてそうだ!私は自身をラソレイユ冠たるに相応しい善良なる王であると考えている!私は民を慮り、全ての人々の幸福を望んでいるのだから!」


 熱はまだ上げられる。火はまだ最高潮ではない。その証拠に議員の眼には未だに少なからず困惑が残っている。


 「しかし!時代はそれを許さない!アルビオンは産業革命を成し遂げ経済を大拡大し、新大陸では新たな大国が今か今かと産声を上げようとしている!東では神聖帝国の諸方であるブランデンブルク公国が武力によって大国足らんとしている!加えてルーシーでは女帝エリーナ二世による大改革が行われているのだ!

 このような複雑混迷極まる情勢において、私と言う一人の王では力不足だ!だから私は諸君らに力を借りたい!

 いや、諸君だけではない!民衆からも力を借りる!

 そうとも!そこで小声で噂している男よ!貴様は聡い!私はそれを宣言しようといのだ!」


 一度口を塞ぎ、議会を眺める。もはや疑念は無い。なぜなら彼らのなかには明確に答えが浮かんでいるのだから。

 最高潮は、すぐそこである。


 「三部会を再び開催する!王と貴族と民衆、ラソレイユ全ての人々の力をもってして!この国の諸問題を解決するのだ!」


 「だからこそ!私はあえて諸君に命じさせていただく!」


 「我が声を聞いた人々よ!我が声に賛同する者どもよ!」


 もはや困惑も疑惑もない。議会の皆は三部会開催について、そうあるべきであるし、そうするしかないと捉えている。

 つまり、火は最高潮だ。

 だから最後に結論を与えて、彼らの思考を固定化させる。


 「全力を持ってして、私、国王オーギュスト・ブルボン=ラソレイユに力を貸してくれ!!」


 今更になって気づく喉の痛み、髪から滴る汗。

 だがこの汗はただ単に大声を出して疲れたからではない。緊張していたからでもない。

 この議会が熱を持って物理的に熱くなっていたからである。


 「国王陛下万歳ヴィヴ・ル・ロワ!!」


 忍ばせたサクラが力いっぱいに叫ぶ。それにつられて、議会の皆も叫んだ!


 「国王陛下万歳ヴィヴ・ル・ロワ!!国王陛下万歳ヴィヴ・ル・ロワ!!」


 拍手喝采の嵐の中、私はふとオーレン公の方を見てみた。

 気になったのだ、私に無能だと言い放った男の顔が。

 だが奴の顔はいつもと変わらず、貼り付けられたような微笑みを浮かべていた。

存在しないも同義のプロット君によれば、テルール君が暗くてぶち壊れながらも主人公って設定なんですけど、この辺はまじでオーギュストが主人公になっちゃってますね。元々もこういうシーンは入れる予定ではありましたけど、こんな感じになるとは思ってませんでした

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