天上VS天上
オーギュスト・ブルボン=ラソレイユ視点
秘密警察にサン=ベルナール・ロベスピエールの逮捕を命令した。しかし奴は未だに捕まらず、なんならのうのうと市内で医者と音読屋を営んでいる。
ではなぜ奴が捕まらないのか。答えは明白だ。
サン=ベルナール・ロベスピエールは秘密警察の飼い主であるオーレン公と繋がっている。
だから今日、ヴァルサイエーズにオーレン公を呼び出して交渉を行う訳だ。
護衛をつけて長い廊下を歩く。冷や汗は止まらないし心臓の音もうるさい。手の震えは護衛にバレているだろう。
「待たせたな、オーレン公」
私は演説は嫌いではない。だって事前に文章を覚えていればいいだけだから。書類仕事はむしろ好きな部類だ。だって特に考える必要はないんだから。だが交渉事は大嫌いだ。人の悪意だとか意思だとか、色々考えなくてはならないし、なにより私の言葉一つで人が死ぬのだ。私にはそんな覚悟はないのに。
「お待ちしておりました、オーギュスト国王陛下」
貴賓室の扉を開けた時、その光景に度肝を抜かれた。不遜にもオーレン公は上席に座っていたのだ。
そうか、この段階で既に始まっている。オーレン公は上席、要は格上が座る席に自ら座り、自分の方が貴方より上の存在ですよとアピールした。
つまり自分は玉座に座ることを目的としていますと、この私に対して堂々と宣言したのだ。
「オーレン公、席を間違えていないか?」
「おっと、これは失礼。自分としたことが…」
立つ気配はなし。さて、どけと言うんだ、オーギュスト。このまま気圧されたままでは、交渉にはなりやしないだろう。
だがどけと言ったらどうなる?私は明確に貴方を敵対視しますというメッセージに取られかねない。そしたら後戻りはできないだろう。オーレン公も私も。
だがだからと言って、このまま下席に座ったならば、私の権威が削がれるし、オーレン公から所詮血だけのボンボンと取られかねない。舐められた状態でまともな交渉ができるのか?
しかし、私にオーレン公を明確な敵と認め、オーレン公を打ち倒す自信は無い。
「よい、そのままで。私が下席に座ろう。だが、今後は注意して貰おうか。私以外の王であったら即刻外交問題に発展するだろう」
父上だったら、間違いなくこう言っていた。
今すぐどかないと処刑台に送るぞ。
だが私にはそれを言う勇気はなかった。
「今のお言葉、まるで私が王たらんとしているように聞こえますね」
「事実だろ。お前は自分こそが王にふさわしいと思っている。上席に座ったのも、権謀術数を巡らせているのも、サン=ベルナール・ロベスピエールと組んでいるのも、全てはその為だ」
「何おっしゃっているのか。王はまた、おかしなことを。サン=ベルナール・ロベスピエールなどあの下町の、取るに足らない男と、私が手を組む?あり得ますまい」
何が取るに足らない男だ。あの男は省庁を説き伏せて王権を囲い込んだ男だ。そしてそれに協力したのもお前だ。
「取るに足らないか。ならば、その取るに足らない男に利用やれるお前や私は世紀の無能なのだろうな」
「えぇ、そうかもしれまんね。少なくとも貴方は」
「貴方はだと?どの口が言っている。所詮貴様とて、奴に利用されているというのに」
「何のことやら」
しらばっくれやがって、舐めた態度を…いや、奴の態度などさほど問題ではないのだ。最もたる問題は、奴がこんな態度をとっても許されてしまう現状の王権の権威のさが問題なのだ。
「もういい。本題に入ろう。私が貴様に問いたいのはこうだ。何故に貴様は王たらんとするのだ。私とて国を憂いている、貴様が真にエガリテたらんとするならば、あの破滅思考の男に付き合う義理はないはずだ」
「えぇ、そうですね。貴方が国を憂い、国に全てを捧げられる王であればの話ですが」
「戴冠式での言葉は忘れたのか?私は一粒の麦の種として死ぬと宣言したはずだ」
すぐさま彼は答えた。
「ならば今すぐ、麦の種として死んでください。あるいはマリア・アントワールを勘定してください」
「は?オーレン公なにを…」
「そして軍事改革を成し、ニーダーランデ、神聖帝国とオルストリカを踏み潰しましょう。金準備を略奪して借金の返済に当てるのです。次にアルペンを越えて、ローマニアを破壊、最後にルーシーとターキーを占領。広大な経済市場と肥沃な大地を支配し、自給自足国家を実現します。その結果、国境と言うものは取り外され、人とモノと金と情報が自由に生き来することになり、ユーロから全ての争いが消失します」
「冗談ではないぞ!貴様は…人が死ぬ事が分かっているのか?ラソレイユだけでない。ニーダーランデやオルストリカの人々だって死ぬのだ!それを分かって言っているのか?」
「そこです。だから貴方はあの老人に坊やと言われる。貴方は全てを捧げるといいながら、最後の最後で罪悪感や愛といった、根源的感情を捨てきれていない。だから私は貴方の手が取れぬのです。だから貴方は国を救えぬのです。
確かに、貴方がやるように重農主義の自由経済で財政の立て直しを図る。これも分かります。しかし現実としてそれでラソレイユは偉大なる国家となれますか?この財政を本当に健全化できるのですか?
結局はそこなのです。この国は全てを焼き尽くすか、あるいは全てを焼き尽くされないと自らの問題の解決もできない国家なのです。
分かりやすく言いましょう。借金の自重で溺死するくらいなら、いっそ借金ごと世界を焼き尽くしてリセットするのです。さすれば、偉大なるラソレイユどころか、戦争のないユーロを築くことができるのですから」
「借金を返済する為に借金取りを殺して身包みを剥がす、そんな野蛮なやり方で平和を築けると本気で思っているのか?」
「現に貴方のご先祖様であらせられる尊厳王は諸方を武力によって踏み潰してラソレイユを統一したではありませんか。時のシャルル七世もそうです。100年にわたるアルビオンとの熾烈な戦いを終わらせてラソレイユに安寧を齎したのです。
その過程で死人がでなかったとでも?そうです、貴方の家はそうなのです。血で濡れた家なのですよ。貴方の家の歴史は、妻子を愛する夫に死んでこいと命じて築かれた家なのです。夫帰りを待つ妻と子を陵辱して築かれた家なのです。それを知らなかったとは言わせません」
「だからだ!オーレン公!私は王の血をこの呪われた青い血を持ってして産まれた!だからこそ、私には責務がある!争いなくしてこの国を救わねばならないのだ。それをわかるんだよ!オーレン・エガリテ!」
「何をおっしゃいますか、国王陛下。貴方にはそれができないと言っているのですよ私は。だから私は貴方を玉座から引き摺り降ろす。この紙切れを使ってです」
「国王への国家財政報告書?これをどうやって…まさか!」
「もうお気づきでしょう。これを議会と、そして国民に晒します。貴方が如何に無能で怠惰で痴呆で無為徒食の徒なのかを、彼らの知ら示す。
えぇ、国王陛下、貴方も知っているはずでしょう、民衆の力を。現に高等法院で下された死刑判決でさえ、それが不正義とあらば覆す力を持っているのです。貴方は民衆の力によってその玉座から引き摺り降ろされるのです」
「革命騒ぎになるぞ…」
「構いません。私には見えていますから、自らが玉座に座る未来も、その過程での人死にの数字も」
「クソ!お前もそうか!サン=ベルナール・ロベスピエールと同じだ!破壊することしか考えていない!」
「そうですとも!もはや問題は破壊なしに解決できる具合を超えたのです!」
「出ていけ!人の死をどうでもいいなんて言える人間を私は好かん!お前の手を取って世界を踏み潰すくらいならば、私の首が落ちたほうがマシだ!」
奴は上席から立ち上がり、一礼をする。そしてドアノブに手をかけて振り向いた。
「貴方は人間として正しい。しかし貴方の妻とその腹の子の首をも落として、自らの選択は正しかったと誇れるのですか?」
私にそう言い残し、彼は出ていった。
私はまた、何もできなかった。
鍵括弧の中、改行していいんですかね。結構楽だから今後これでいきたいと考えています




