表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/76

久闊=社会契約論 対立 王権神授 


 父による読書会が行われようとしている


 僕は紛れもなくこの人たちの子だ。これは心からそう思っているわけではなく、身体が心を引っ張った結果だ。

 だから辞めてくれよ、こんなこと。

 月明かり一つも入れちゃいけないなんて言わないでくれ。

 その古そうな本を捨てろ。今すぐ蝋燭の火で燃やしてくれ。


 危ないこと、しないで欲しいんだよ。


 「机の引き出し、三段底になっててね。僕の日記の下に隠してたんだ。」


 「見つけられなかっただろう。君にもできないことがあるんだって安心したよ。」


 辞めろ僕はできないことだらけなんだ。だからこの世界では頑張ってできることを増やした。その結果がこれなのか?


 「おいで、テルールお母さんの隣に座ってちょうだい。」


 お母さん、あんた論文読めるほど賢くないだろ。洗濯して料理をして、たまにお針子仕事を手伝って、とてもこの世界の仕組みがおかしいだとか言うような人ではないんだ。


 「さて、まずJ.J.氏について話おこうか。」


 J.J.、その名もジャン=ジャック。

 性別は男、年齢は不詳。政治哲学者にして作曲家。

 とある危険思想によってラソレイユ王国、神聖帝国全諸方、ルーシー帝国から指名手配されている思想犯。


 「さ、本編に入ろうか。J.J.著、久闊、その一巻の」


 「元来人は自然状態において平等であり…」


 父は静かに、されど力強く、まるで演説をするように語った。


 「…そして人々は個々の利益の衝突から財を守る為に自らの権利を政府、王に移譲する」


 その語り、僕は現代人であるから、あるいはこの人の子供だからなのか、全てが正しいように聞こえてしまう。


 「…またこれらの組織が共同体全体の共通善や公共の利益を求める意思を一般意志と呼び…」


 あぁくそう!完全に同意だ!だってこれは人間不平等起源論と社会契約論と法の精神の内容じゃないか。

 つまり公民、高校を卒業していたら知っているはずの当たり前の知識だ。中学生でも知ってる知識なんだ。

 だからバリバリ王権神授説を否定しているこの思想を間違ってるなんて思えないんだ。

 それはきっと、生きる上では間違ってると言うのに。


 「どうだいテルール。率直に述べてくれよ。」


 「当たり前の内容ですよ。面白くも何ともない。」


 とんでもない!!国家と国民に対する反逆ですよ!と言ってもよかったし、僕も両親には死んでほしくないと思っているからむしろそう言うべきなのかもしれない。


 でもこの身体はこの父とこの母によって作られた身体、心が本能に引っ張られて無意識的に父と母が喜ぶ回答をしてしまう。


 「やはり僕の子だ。君は世界に対しておかしいと思う心を持っている。」

 

 「テルール、私の所に産まれて来てくれて嬉しいわ。」


 その日はあまり眠れなかった。

 父と母に褒められたのは嬉しかったんだ、でもこんなのは望んでいない。



 翌日、僕は逃げるようにして朝霧の中に消えてムラオカに逃げた。

 未だ霜の残る草の上に寝転んだのだ。


 「燃えよ(feu)」


 使う度に魔法は強力になる。もはやその火は半径20センチの火球だ。


 「燃えよ(feu)」


 でも僕に魔法の才能があった訳では無い。ただ知識があっただけなのだ。

 そんなんでもこんな火が出せるんだから、この知識を人に共有して革命でも起こせばラソレイユを取れるのかも知れない。


 「燃えよ(feu)」


 でもそれは僕のやりたいことか?

 一旦寝よう、そうして考えよう。


 「や、テルール。ここにいると思ってた。」


 「シャルロ、昨日振りだね。」


 彼女は寝っ転がった僕の隣に座った。


 「顔色悪いね、どうしたの?」


 …もしかしたら彼女であれば、あるいはわかってくれるかもしれない。

 情けないな、こんな少女に縋ろうとしているのか、僕は。


 「恥ずかしい家だと知った。」


 「父さんは世界を、身分制度を憎んでいた。それで自分だけじゃ無理だからって子供になすりつけようとしたんだ。」


 「我が父ながら本当にみみっちぃよ。」


 座っていた彼女は隣で寝っ転がる。もう朝露は消えているらしい。


 「貴方はお父さんの恨み、継ぎたいと思う?」


 「継いでもいいとは考えてもいる。多分、正しいことだから。」


 「でもそれをする理由が僕にはない。」


 彼女の手が僕の頬に触れる。やはり冷たい。親指が鼻筋をなぞる。漆黒の瞳に僕は吸い込まれた。


 「私は処刑人になりたくはないし、私の子供を処刑人にしたくない。」


 吐息が聞こえる。あぁ、君は死神じゃなのかもしれないけど間違いなく魔女ではあるよ。


 「私を理由にしてよ。」


 だけど僕はうんとは言わないよ。勇気がないからね。僕には正しさの為に世界に反逆する勇気も、自分を危険に晒す勇気もないんだ。


 「13歳まで僕が覚えていたらそうしてやるよ。」


 「意地悪だね、貴方も。」


 だが後にこの約束は現実となる。そうせざる終えない程に過酷な現実が迫ってしまったのだから。

 


 

 

 

ルソーの社会契約論と人間不平等起源論、モンテスキューの法の精神のキメラです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ