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あとにしてくれ!


 テルール視点


 「あと、国王陛下からの伝言。星教とラソレイユは現時点における最善の折衷案だってさ」


 死刑における残酷刑の禁止、及び伝言。シャルロの口から語られるそれは僕の思考や計画を吹き飛ばし、心すらも抉った。


 「それは、本当か?」


 「うん。確かに国王陛下はそう仰ってた」


 「じゃあ、国王陛下は言っていたか?アンサング以外の処刑人を解雇してアンサングを正義の柱の管理人にするって」


 「言ってたね。だから私としてもそれについて反対の意を唱えるけど」


 「でも、ホッとしてるんだ。だってどんなに悪い人でも死ぬときくらい楽に死んで欲しいし」


 このタイミングにおいて国王の打った一手、それは僕にとって致命的で決定的な一撃だった。全ての前提が崩れ去り、これまでの謀略、そして人生の意味すらも無に返してしまう一撃だったのだ。


 「少し、外に出るよ」


 僕は逃げた。振り返らず、走って屋敷から逃げた。ムラオカまで逃げ去った。気付いたときには服が泥だらけになっていた。


 「温室育ちの痴呆野郎が舐めた真似しやがって!!」


 草と土を蹴飛ばし、地面を這う蟻共を殴って潰した。


 「俺に挑戦状を叩きつけていい気になってりゃ…」


 死刑における残酷刑の禁止。それは僕や父の願いであり、それが王によって布告されるとなれば喜ばしい事である。

 だが今回は違う。


 「無配慮にも配慮したつもりかあの白痴が!!」


 奴は、国王は僕に死刑判決を叩きつけた。だってこれを議会で通してしまったら黒幕は僕ですよと宣言してしまう事になる。つまりこれまでの陰謀、省庁を利用した王権の囲い込みから首飾り事件に至るまで、それは全て僕が仕組んだ事ですと王に自白する事になる。

 そうしたら高等法院もオーレン公は大義名分を手に入れて僕を消しにかかる。この連立を支配するために。

 そして何より、今の僕には彼らに対して切れるカードが一枚もないんだ。


 「だいたいなんだ!今になって!恩着せがましいんだよ!!」


 「くそ、くそう、くそ!」


 「ノーガード戦法のツケが…待てよ、考えろテルール」


 …僕の目的は何だ?シャルロを死刑執行人という運命から救うことだろうが。その為の僕の全てだ。それに僕だって何時まで生きれるかわからない。肺結核は不治の病なんだぞ。

 だから、ここで一番正しい選択は…


 「俺が、死ぬべきなのか?」


 僕の死を代償として、処刑における残虐刑が禁止されれば、その流れはそのまま死刑廃止にまで流れるだろう。

 そうすればシャルロは晴れて自由の身だ。

 問題があるとすればそうだ。オーレン公か。でも仕掛けが発動すればオーレン公は失脚する。

 なら最後に残った問題はオーギュスト・ブルボン=ラソレイユという国王が王としてどれ程の人間かという点か。

 でもこんな鬼畜の所業をやってのける人間が王として劣っている訳はないだろうな。


 あぁくそう、どう考えても今回の件は乗るべきだ。だって僕の命を代償として、僕の目的はほぼ確実に果たされる。


 「…死んじまえよ、死ねよ」


 僕の右手は血と蟻酸と土が混じって最悪の感触をしている。何匹殺しただろうか。軽く30匹は殺した気がする。


 「助けてくれよ…」


 雨上がりの地面は柔らかく、この重い肉体を受け止めてくれる。

 土と草の匂いの混じる泥。口に入ったそれには味が無かった。


 「テルール!」


 何故か彼女は泣き腫らした顔をしていた。

 今泣きたいのは僕なのに、なんで君が泣いているんだ。


 「父様が…亡くなった」


 「それは、どういう?」


 バチストが死んだ?あのバチスト・ジョン・アンサングが?なんで死んだんだ?だってバチスト様は僕を救ってくれた人だ。そんな善き人が死んだのか?


 「だから、死んだんだよ…父様」


 「なんで死んだったって聞いてるんだ」


 「心不全だよわかってるでしょ」


 違う違う違う。僕はそんな事をして聞いてるんじゃない。なんでバチスト様が死ななくてはならなかったと聞いてるんだ。


 「だからなんで!!」


 気付いた頃にはシャルロを押し倒していた。

 なんて顔をしてるんだ。やめてくれ、泣かないでくれ、何のために僕は…


 「死んでいい人じゃなかったんだ、死んでいい人じゃ!」


 彼女の頬が濡れている。でもこの涙はまるで上から降ってきたような。

 泣いているのか?俺が…


 「知らないよ!父様のことなんだと思ってるのさ!人間なんだよ、死ぬんだよ…」


 「人間…死ぬ、そうか、そうだよな。でも、今じゃないだろ、今じゃ…」


 「テルール?うそでしょ?」


 彼女の胸元に鮮紅色が垂れている。まさかと思い、口元拭いた時、手は赤く染まった。


 「この色、喀血、テルール貴方まさか…」


 「ご、ごめん。汚しちゃって…」


 「違うでしょ、違うでしょ、バカ、バカ…なんで言ってくれなかったの」


 「言えるわけ、ないだろ…だって僕には何もなかったから…だから…」


 僕はもう、疲れた。


 「本当にばかだよ、私も、貴方も」


 柔らかい胸、冷たい手。なんでこんなにも眠くなるんだろうか。

 

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