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【第二部完】アジャラカモクレンテケレッツモパー


 残暑の残る宵のパリスはちょうどいいくらいの気温であり、外套を羽織らずしても鳥肌一つ立つことなし。ただあの田舎とは異なり、朝と違って皆糞尿を捨て始める為、パリスは耐え難い臭いに包まれる。

 数時間放置した洗濯物、あるいは数日放置した牛乳、それか油が焼けるような、もしくは酷く汗を嗅いた日のシャツだったり、はたまた人の腹を割いた時に大腸あたりからただよう、卵の腐ったような臭い。

 それ全ての悪臭が混ざり合い、この巨大な街を包むのだ。

 だから私達は急いで馭者を捕まえ、辻馬車に乗り込む。それに乗り込んで逃げるようにしてヴァルサイエーズの方角に向かった。


 「そりゃ、みんな病気やるよね、こんな臭い街じゃさ」


 夜な夜な街に出て無償の医療をと、ア=ステラ様の真似事をする彼を私は軽蔑する。でもそれはそれとして立派なことだとは思ってるし、誇れる事だとも思っている。何より私はこんな臭い中で集中できる気がしない。


 「だから僕はロベスピエールになったんだ」


 サン=ベルナール・ロベスピエール。サン=ベルナールのような厳しい峠であっても、樫の木のように岩に根を張って決して折れずという意味らしい。

 ぱっと思いついた父様はまさしく天才だ。私が望もうと望まないとしても、彼はきっとそう育つ。根が強い人だからね。


 「でもそれが屋敷の人たちとか、私を蔑ろにする理由にはならないと思うし、何より私はテルールが心配だよ」


 「疲れて病気になって倒れたら目も当てられないよ」


 「まさか、僕がそんなへまするわけないよ」


 朧月の僅かな明かりの空はいと美しく、セーヌ川の水面に反射して映る天の川は今日見たもののなかで一番美しいと思えた。オフィーリアの役者さんには悪いけどね。


 「信じられるか?あの星明かりは何年も、いや何億年も前の光なんだぜ。神が光あれなんて言うずっと前に産まれた光なんだ」


 たまに彼はこうして不思議な事を言ってくる。そして決まってその根拠は古い記憶かなって答えるんだ。


 「そんな訳ないじゃん。主が世界を造られたのは六千年くらい前だよ」


 「六千年前に何億年前の光を作ったんだよ」


 自信満々に妄言を語るから少々信じたくなってしまうが、根拠が根拠じゃね。


 「時系列がおかしくない?」


 「別に良いだろ、その方が綺麗なんだからさ」


 主は果たしてそれを願うだろうか。いや、願うのかもしれない。罪深く穢れた私達に花向けを与えてくれる、あり得ない話ではないんだろうな。

 そう私が主について、神について考えている時、風を切る音が響いた。


 「おっ、始まったな」


 空に銃声が響いて、空に花が咲いた。

 赤と緑と青、火と熱の花が空を覆って星明かりを隠している。


 「ここでいい、止めてくれ」


 ヴァルサイエーズを正面に捉えた時、彼は馭者に声をかけて馬車を止まらせた。


 「少し外に出て、また利用させてもらうからここで待っててください」


 「さ、シャルロ。外に出ようか」


 差し出された手を取り、外に出る。パリスの街とは違って、変な匂いはしないし、その目の前に捉えたヴァルサイエーズの美しさはまるで天国を前にしているようだった。


 「あそこのベンチに座ろうか」


 花火の明かりはここら一体を照らして、宵入り前と見紛うほどである。

 私達はそのベンチに腰掛け、花畑となった空を見る。


 「誕生日プレゼント、とするにはかっこ悪いかもしれないな」


 「いいよ、こういうので私は満足だから」


 「なぁ、約束憶えてるか?」


 「うん、勿論」


 「僕は僕自身を許せるようになってしまった。だから僕は君なしでも生きていける」


 「でも今度は、自分罰しない代わりに、自分が正しくられるのか分からなくなった」


 「だから僕が正しくある為に君にいて欲しい」


 「あと何より、純粋に君が好きだ」


 「それを最初に言いなよ、馬鹿」


 彼は私を抱きしめて、花畑の下で見つめ合う。

 彼の黒曜のような瞳の中に花が咲いたのがわかった時、私は目を瞑った。

 一瞬、唇に暖かくて柔らかい感覚があった。


 「全てが終わったら結婚して、レイユのあたりに引っ越そう」


 「うん、約束ね」


 ふとヴァルサイエーズの方に目をやると、あの国王陛下オーギュスト15世のお姿があった。夜の散歩なんだろう、何人も兵を引き連れていた。

 一番大きな花火が夜に咲いて、この空間の誰もがそれを見上げていた。

 その時だろう、黒いフードを深く被った男が、叫びながら国王陛下に走っていった。

 花火の赤がその男の手元で輝いている。


 「血を晒せーェッ!!!!」


 獣の声が響き、王の喉元が赤く光る。




 1784年8月26日夜21時


 大逆者フランソワ・ダミアンの手により、この地上において最も尊き御体が弑逆された。







 太陽は決して、さようなら(アデュー)とは言わない。


 偉大なる太陽の詩より引用 アルベーヌ・キュアノス

史実だと軽傷で済んでます。



第二部完結です!!ここで一区切りですね!ここからは革命の話メインになります!感想と評価をください!

あと一話から推敲するのでちょっと投稿あくかも!

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