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テルール=テルミドールの静かなる発狂

 高等法院の近場、歩いて5分程の場所には小さな教会がある。


 あぁ、本当に小さな教会さ。石造りの教会。多分建設年は何年も前だろうな。僕はその小さな教会の扉を叩き、中に入る。内装はよくあるゴシック建築の質素荘厳な内装だ。最奥に大きな十字架があって、長椅子が何席も並んでいる。

 僕は手前から5番目の長椅子の一番角に座り、目を瞑った。


 別に神に祈っている訳では無い。僕は神に祈っても意味が無いと知っているからだ。なにせあれは救済というよりも摂理だ。


 だがそんなことはどうでもいい。

 僕は静かな場所に行きたかったんだ。じゃあそれは何のために?マリア・アントワールを嵌めた事に対して罪悪感を覚えているからだろう。

 だから僕は内省の為にこの静かな教会に於いて暗黒に浸っているんだろう。

 いや、違うな。僕は内省なんかの為に来たんじゃない。だって僕はオーレン公に言い放ったはずだ、後悔なぞしていないと言い放ったじゃないか。だから内省なんてするのは矛盾だろう。

 なら何のために僕はこの場において目を瞑る?


 そうか、僕は自分を罰しにきたんだ。いつもシャルロが僕にやってくれているように僕を罰しにきたんだ。

 時に悪辣に、時に優しい彼女の言葉を僕が愛していたから。

 それを僕は自分にやってやろうとしてこの椅子に座っている。

 でも実際問題としてどうして自分で自分を罰せられるのか。

 テルールお前はクズでカスで人でなしのゴミクズだと言ってやろうか。テルールお前は驕り高ぶる愚か者だと言ってやろうか。


 でもそう言ったとして、僕の中の僕が僕を正当化するだけじゃないか。

 テルール、必要なことだったじゃないか。テルール、お前はお前の大好きな女の為によくやってる。愛する一人を救う為に誰かを犠牲にすることの何が悪いんだ?むしろ非凡な才能を持つお前はたとえ人を殺したとしても許されるんじゃないか?だって対策できない浅ましい奴が悪いんだから。


 結局僕は自分に対してどこまでも甘い。なにせ僕は女性すら恐れている。いや正確には女性と接することで自らの男としての醜さを自覚し、自らを嫌悪することを恐れている。


 あぁそうか!だから神が必要なのか。自らに対して心底甘い人間という生き物が、自らを罰して律する為の基準として神が必要なのか。まるで人工的な本能だな。

 聖審問会で語られたことであったが、まさかこんなところで再確認させられるとは思わなかった。


 あぁ、でも僕は言ってしまったな。王は神になるべきでしたと。

 だから僕が神に道徳を頼ってしまうことは矛盾となる。


 ならどうすればいいのか。この教会の司祭でも呼んで懺悔をしようか。


 あぁ!僕はとんでもないことをしでかしてしまいました!一人の愛する女性を救う為にこの国の最も聖なる方を穢してしまたったのです!この国の未来の女王となられる御方を、あろうことか卑劣な女とレッテルを貼って貶めたのです!神父様!どうかこの卑しき僕をお許しください!


 言える訳ないだろ、そんなこと。だってそれは責任の放棄だ。たとえ神父が許しても、あるいは預言者ア=ステラが許しても、もしくはシャルロが許しても、僕はそれを許せない。

 だって僕は聖審問会に於いて責任を放棄した王を糾弾した。その癖して自分だけ責任から逃れようだと?

 僕の神、僕の道徳は僕を許さない。


 思えば、僕の道徳は徹底的に矛盾というものを嫌悪しているな。

 そうか、なるほど、だから僕の手はあの時彼女の唇を拒んだのか。

 だって性的な本能を嫌悪する僕が性的な本能に頼るのは矛盾だからな。

 だからそれを感じ取った僕の手は彼女の唇を避けたのだ。


 待て、ならば僕の決意は矛盾ではないのか?だって彼女を愛するというのは論理的なものではなく本能的なものだ。男としての純粋な本能。番になりたいという生物的な本能によるものではないか。

 それは矛盾ではないのか?

 なら彼女を愛することは道徳的な間違いだ。

 だから、シャルロを捨てよう。


 できるわけ無いだろ。何のために僕の道徳があると思ってるんだ?全ては彼女を死刑執行人という呪われた運命から解き放つ為のものだろう。

 だからここにおいての捨てるべきは僕の性に対する忌避感の方じゃないか。

 なら僕はどうすればいいんだ?


 道徳を捨ててしまうか。

 できるのか、僕に。だって道徳を捨てたら僕は平気で矛盾できる人間になってしまう。それではまるでオーレン公のようではないか。

 それは嫌だ。


 やはり駄目だな、僕は。シャルロがいないと答えすら出せない。永久に迷ってしまう。

 シャルロならなんて言ったんだろうな。

 矛盾なんて誰でもするでしょとか言うのかな。でも僕ってシャルロのことを何も知らない。

 僕の中のシャルロはシャルロじゃないんだ。


 僕はこの問題を一人で片付けなくてはならない。答えを出さなくては。

 でも手がかりはどこにある?だってこれはサン・レミの時とは違う。物体がないんだ。証拠もない。ニコラを探したときみたいに目星もつけれない。

 どうしたらいい?

 考えろ、テルール。何かあるはずだ。お前の中に眠る何かがあるはずだ。


 この暗闇の中、僕は僅かな形を見た。僕はそれを触り、そしてなぞった。輪郭を理解して、舐めて味を理解する。殴って硬さを理解して、そして初めてそれが見えた。


 神は全てを許される。


 つまり、神は全ての罪を許す権利を持っている。


 ならば、


 神となれば全てが許される。


 そうか、最初から僕の中に答えはあったんだ。傲慢な答えが。

 神となれば、つまり己自身が道徳となれば僕の矛盾が許される。

 そうして始めて僕は彼女に接吻することが許される。


 そうだ、僕の中に道徳があるんじゃない。僕が道徳なのだ。

 


 

テルールはあんま頭良くないし浅ましいくせに、自分のことを非凡だと思っている節があって、その上で精神的に強者だけどオーレン公みたいな極地に達していないので、理路整然と筋書き垂れて、極端なこと言ってるせいで一見一種の正しさがあるような結論を見出してから発狂します。


要するに面倒くさいやつです

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