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窮鼠猫を噛む


 「静粛にしなさい!」


 裁判長はガベルを叩き場を沈める。


 「ニコラ氏、ニコラ・ニコラ=アントニアル=ケレネール=ロレーヌ氏でお間違いないですね?」


 「間違いありません」


 裁判長はその娼婦の背丈や顔立ちを絵画を鑑賞するが如くまじまじと観察する。自分も初めて彼女を見た時、そのような顔をしていたのだなと思うと少し面白い。


 「…同一性を確認しました。ゲオルグ・ダールトン氏、検察官立証の続きをお願い致します」


 「はい、では証人ニコラ氏に質問させてもらいます」


 「マリア・アントワールを騙りサン・レミに協力したというのは真実にありますか?」


 「はい。ですがあたしはただマリア・アントワールの物真似をして一言も喋るなと、5000ソレイユで依頼されただけです」


 「なるほど、それは真実ですか、サン・レミ被告人」


 「真実にございます」


 「了解しました。では立証が終了致しましたので、検察官立証を終了させていただきます」


 ダールトンは手筈通り検察官立証を終わらせる。


 「ありがとございます、ゲオルグ・ダールトン氏。では次に被告人立証に入らせていただきます。サン・レミ氏、お願い致します」


 「はい。私はこの件、嵌められたのです。他ならぬあの方によって!」


 サン・レミは傍聴席に座るマリア・アントワールを指差して叫んだ。

 それを合図にサクラ達は再び囁く。

 

 マリア・アントワールは首飾り欲しさにサン・レミを忍ばせて嵌めたのではないか?


 「あの者など私は知りません!衛兵!今すぐあの不遜者を拘束なさい!」


 マリア・アントワールは叫ぶが、残念ながらここはヴァルサイエーズではない。


 「傍聴人、静粛になさい!」


 ここは高等法院。マリア・アントワールはここにおいては法の下の個人である。だから彼女の命令は誰も聞けないのだ。


 「弁護人ルナ=ジャスティカ氏、それにつきましての証拠となる物品はありますか?」


 「資料の3枚目をご覧ください。これは被告人サン・レミの日記になります」


 その日記にはマリア・アントワールが"寝所にて"首飾りを購入したいと、その為には貴方の力が必要なのと語っていたとある。


 「尚、これを裏付ける証拠となる資料はある方によって抹消されてしまいましたので」


 人は信じたいものを真実にする、と言うが正確には利益が出そうな方を真実にするという方が正しい。


 「嘘をおっしゃい!私はあの女と一度たりとも会ったことはありません!ましてや寝たなどと!」


 だからマリア・アントワールのこの言葉を信じるものは誰もいなかった。


 「静粛に!ここは法の場にございます!!」


 「弁護人ルナ=ジャスティカ、定かでない憶測を想起させる言動は慎みなさい!」


 「申し訳御座いません。ですが事実ですので、裁判長」


 「あぁもう!検察官論告及び求刑手続きに入らせていただきます!静粛に!」


 「承りました、ゲオルグ・ダールトンです」


 「これまでの過程において被告人の有罪性が証明されました」 


 「よってここにサン・レミ氏に断指刑及び35年の懲役を要求します」


 検察官側は最大限の罪を主張する。


 「では次に弁護人弁論をお願いします、ルナ=ジャスティカ氏」


 「はい、承りました。ルナ=ジャスティカです」


 「サン・レミ氏は有罪です。ですが悪質な教唆犯によってそうならざる終えなかった」


 「慎めと言ったであろう!」


 裁判長は根拠の無い讒言に対して声を荒らげて諭すが、それももはや意味も無し。傍聴席においては今回の黒幕はマリア・アントワールというのが主流となっていた。


 「よって私はサン・レミ氏への刑罰は焼印刑及び禁固5年が妥当であると考えます!」


 「是非とも"公平"な判決をお願い致します!」


 裁判長は傍聴席を見渡す。唯一買収されなかった法の番人なる彼でも、この傍聴席の具合では天秤を傾けなくてはならない。

 なぜなら法よりも大事なものを守る義務があるからだ。


 「…判決に入らせていただきます」


 「被告人を焼印刑及び懲役8年に処す」


 傍聴席のざわざわを消し飛ばす女の声。


 「その女は私に不敬を働いた女でしょう!2級の不敬罪レスマジェスタの罪刑を考慮しなかったのです!」


 「静粛に!」


 「被害総額こそ250万ソレイユと大金です」


 「しかしその本質は単なる騙り詐欺にすぎません」


 「また不敬罪レスマジェスタにつきましては被告人の証言の真偽に問わず、証拠不十分として加味しないと判断致しました」

 

 まこと英断である。信念によって家族や大事な人を危険に晒すなんて間抜けのやることだからな。

 それをしなかったイワン・アレクセイという男は立派な男なのだろう。


 「な、なんて判決!この裁判は仕組まれているに違いありません!」


 「静粛に!判決は以上です!ここは高等法院、政治はヴァルサイエーズでやでていただきたい!」


 裁判長は無理やり裁判を終わらせて立ち去った。

 裁判の終わりに残されたのは嵌められたマリア・アントワールと王室に対する疑念のみである。

 

この辺の噂話に関しては史実でも言われてたり言われてなかったり

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