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人面獣心



 キャビンの窓に反射して映る僕の顔はとても酷い顔をしている。この顔が省庁大連立包囲だとか冷酷な手だとか言っていた顔だとはとても信じられない。


 「随分と酷い顔をしているな」


 あのオーレン公にすら心配されるとは僕も落ちたものだな。


 「彼女は僕に歩み寄ろうとしてくれたのに、僕は彼女に歩み寄ろうとしなかったんだなって」


 「当然だろうな」


 「君は人ではなく立場と利益を見ている。一見美徳と言えるが、ただ人に対して怠惰なだけだ」


 「なぜそう言い切れるんですか」


 「私も一度妻にぶたれているからね」


 あぁ、そういうことか。なぜこの顔に酷い顔と感想を抱いたのかやっと分かった。

 僕はオーレン公と同じ目をしているからだ。オーレン公と同じ顔をしているからだ。父と同じ顔をしているんだ。


 「そう、ですか」


 やがて馬車は高等法院に辿り着く。

 今日の高等法院は以前来た時とは打って変わり多数の近衛兵が防衛についていた。なぜなら金のアヤメの旗が高等法院に靡いているからだ。


 「今の君がどんなに後悔していても、責任から逃れる事は許されない」


 「後悔はしていませんよ、ただ悲しいだけで」


 僕らが馬車から降りる時、隣に豪華な馬車が止まる。王室専用の馬車である。


 「ここが高等法院ですのね、随分と陰気臭い所ね」


 法廷だと言うのに被害者マリア・アントワールはいつものように華麗豪奢を身に纏っていた。


 「あれはエレメールのドレスか。マリア・アントワール、その名誉が地に落とされると露知らず」


 「落とされる、いや落とすか正確には。なぁ、テルール」


 「えぇ、そうですね」

 

 僕らは高等法院に入場し傍聴席に座る。また傍聴席はとても広くさながら小さなコロッセオのようだ。


 「凄まじいな、衰えたといえど王室の権威は未だに」


 裁判の傍聴、と言うには傍聴人が豪華すぎる。左から大蔵省一団、経済省一団、法務省一団。なんなら一番右の数人に関しては国王軍最高司令部に属する名だたる猛将達だ。

 250万ソレイユ。それほど大金が動いてしまった故にこの裁判は裁判ではなくなり、政となってしまったのだ。


 「此の度の判事を務めさせていただきます。イワン・アレクセイです」


 最高裁判官イワン・アレクセイは壇上の前にてお辞儀をして裁判長の席に座る。

 次に大扉が開けられ、此の度の被告サン・レミとその弁護士が入場し、次に検察ゲオルグ・ダールトン及び数人が入場する。


 「ではまず、人定質問から入らせていただきます」


 「貴方は被告人、サン・レミ・ヴァロワ・ラモット氏でお間違いありませんね?」


 「はい。間違いありません」


 サン・レミは気丈である。それはこの裁判が誰の手によって仕組まれ、どのように運ばれるか知っているからだ。他ならぬ僕の手によって。


 「では被告人の同一性が確認できましたので、起訴状の朗読に入らせていただきます。検察官ダールトン氏、お願い致します」


 「検察官、ゲオルグ・ダールトンでございます。以下、起訴状の朗読とさせていただきます」


 「6月27日、サン・レミ氏はローレン・ストラブール枢機卿に対し、王室からの請願と偽り首飾りの代理購入を持ち掛けた」


 「以上起訴状の朗読を終わります」


 「ありがとう御座ました、ダールトン氏。では次に権利告知に入らせていただきます」


 裁判官はこの裁判において行使される権利の説明に入る。

 具体的には被告人の陳述は被告人の有利不利に関わらず証拠として取り扱う事、次に弁護側、被告側双方は"事前に証拠になり得ると判断され許可された物品"を証拠として扱う事ができる旨である。


 「では起訴状に関する事実確認に入らせていただきますが、サン・レミ氏…弁護人は?」


 そう、弁護人はまだ登場していない。正確にはしていないではなくしないのだ。

 だから今、大扉が開く。


 「申し訳御座いません。只今参上致しました。弁護人、ルイ・イトワール・ルナ=ジャスティカでございます」


 ルナは今回弁護人の騙りをやらせている。もはやこの仕組まれた裁判においては弁護人や検察官は誰でもよかったのである。

 然るべき結果は既に僕が用意してしまったのだから。


 「先程の起訴状に関してですが間違いありません」


 「確認致しました、ありがとうございます。弁護人、ルナ=ジャスティカ氏。」


 「では次に冒頭陳述に入らせていただきます。ゲオルグ・ダールトン氏、お願い致します」


 「冒頭陳述に入らせていただきます。被告人サン・レミ・ヴァロワ・ラモット氏は今回の手口を実行するにあたり、マリア・アントワール王太子妃殿下様の筆跡を偽装しローベル・ストラブール枢機卿に代理購入をお願いする旨の手紙を送りました」


 「またローレン・ストラブール枢機卿の信用を得る為、高級娼婦を利用も致しました。こちらの高級娼婦につきましては後程」


 「以上で御座います。裁判長」


 「ありがとう御座ました、次に検察官立証とさせていただきます。ゲオルグ・ダールトン氏、お願い致します」


 「はい、検察官立証をさせていただきます」


 「まずお配りした資料の一枚目をご覧ください。こちらはサン・レミ氏の個人的なサイン及び書簡の書写になります。そして次に資料の2枚目はマリア・アントワール王太子妃殿下様の筆跡を偽装しローレル・ストラブール枢機卿に宛てた書簡の書写で御座います」


 「この2枚目におきましては原本の鑑定結果より、同一性が認められています」


 「よって、サン・レミ氏が筆跡偽装を行いマリア・アントワールを騙っていた事実が立証されます」


 「尚、筆跡鑑定及び資料の書写におきましては高等法院下部機関において行われたものであります」


 「では次にニコラ氏をお呼びください」


 大扉が開かれ、そしてあのマリア・アントワールそっくりの娼婦が入場する。それに合わせて会場にはざわざわとした声達に包まれる。


 「貴方はニコラ…ニコラ氏でお間違いないですか?」


 裁判長は動揺していた。ニコラの養子がマリア・アントワールに似ているせいか、あるいはニコラの性が記されて居なかったいなかったからなのか。


 「はい。あたしがニコラ=アントニアル=ケレネール=ロレーヌです」


 彼女の虚言を合図にサクラ達は語り始める。

 ケレネール=ロレーヌだと?それって確かオルストリカ王家の断絶した分家ではなかったか?

 最近になってやっとヴァルサイエーズに入ったサン・レミがあの分家の存在を知るはずが無いだろう、では誰が教えた?

 サクラが疑問を呼び、やがて傍聴席は噂に包まれる。誰かがこの事件を仕組んだのではないかと。



 


 

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