11歳の誕生日おめでとう!!!(2)
シャルロ視点
「国家と国民に対する反逆者、ロベス=テルミドール・マクシミリアム、マリア・マリー・マクシミリアム両名をムッシュ・ド・ソレイユの名において斬首刑に処す。」
民衆は父と罪人の姿をみてこう叫んだ、裏切り者を殺せと。その中には貧しい人々の弁護士ロベス・マクシミリアムを知っている人もいただろう。
彼はどんな心情でこの光景を見ているのか。罪を犯したのだから当然と白眼視しているのか、あるいは金がなければ品性もないと人々を嘲笑しているのか、それともこの醜い世界に絶望しているのか。
「告解の時間だ、ロベス。気張れよ。」
告解の時間、それは全ての終わる前に民衆に罪を告白し神に許しを請う時間である。
処刑の見物人の多くはこの告解の時間目当てに見物しにきている。
多くの人々にとって知らない他人が無様に許しを請う様子は悦であるのだ。
醜いものだ、本当に。
「わ、私は夫に騙されていただけなんです!!だから私は、私は悪くない!!」
人々は彼女を罵った。パン屋の店主はクソアマが遅いぞと罵り、鉱山労働者は神は間抜けを許さないぞと嘲った。
このように公開処刑とは合法的に他人を酷く罵れるイベントであり、しばしば彼らの中で誰が一番ウイットに飛んだ罵倒を言えるか、という競技でさえ存在した。
「テルール。」
ふと彼に目をやると、彼の手は震えていた。
いくら彼が僕はやれるんだと心の中で唱えて、顔を取り繕っても、細部には弱さが滲み出る。
私はその震える手を握った。
「メルシー…」
彼はただ小さく、私にだけしか聞こえぬ声で呟いた。
「私のほうが少しだけお姉さんなんだから。」
その時、彼の父が口を開いた。
「聞け!人々よ!!私は命をもってしてこの場に真実を伝えよう!!」
その叫びきに人々は静まった。
「王とは罪人である!人々の主権の簒奪者!!それが王である!!」
その演説はまさしく王の演説や議員の演説にも並ぶような気迫であり、人々を一瞬体制の正義から惑わせた。
だが気迫だけだ。彼の父の演説は一般の人々を一切考慮していなかったのである。つまり彼らからすれば、よく分からないインテリぶっている奴がなんかよくわからないことをいってらって程度でしかないのだ。
「アンサングさっさとそいつの首を落とせ!」
一人の女の声に熱せられ、人々は叫んだ。
"首を落とせ!首を落とせ!首を落とせ!!"
まさしく熱狂である。
「ロベス、よくやったよお前は。」
父は背中に背負う処刑人の剣を抜いた。黒い剣が、38もの運命を終わらせた葬送の剣が顕になった。
「いや!いやよ。私は死にたくない!」
ある者はその剣に恐怖し、ある者はその剣の前に全てを投げ出す。
「マリア、見苦しい。終わりなんだよよ、もう。」
父はその剣を構え、視線の先を罪人ロベスのアトラスの足に定めた。
「我が剣の前に全てを差し出せ、さすれば我が剣は苦しみなくその生命を終わらせる。」
「アーメン。」
父はいつものように口上を読み上げ、その剣でアトラスの足に向かって切り払う。
剣はまこと美しく首に入り、一切留まることなく首を裂いた。まるで最初から首というものが取れる前提で造られているかのようにも思えた。
胴体は首を切られたことを気付いていないように膝をついて座ったまま静止している。
父は落とされた首の髪を持ちてとしてその首を民衆に晒した。
「国王陛下万歳、国王陛下万歳!!」
テルールの母の悲鳴は民衆の叫び声の中に消えた。
「御婦人、私にすべてを…」
その時父は力を失ったように倒れた。この場にいた全ての人々が困惑する。
それは父本人も私もテルールも例外ではない。
「バチスト様!」
彼は父の元に走った。処刑場に立てるのは処刑人だけであると知りながらズケズケとその神聖な舞台にあがる。そこに彼の父父の遺体があると知りながら、罪人である母がいると知りながら走ったのだ。
私も繋いだ手を離さないために走った。
「や、やめろテルール。私は、立てる、立て、立てるんだ!」
父は自らを鼓舞し足に力を入れようとするが立てない。
神経迷走?そんな訳が無い、貧血の線も薄い…一過性脳虚血症それか脳梗塞か脳出血の初期症状?
でもなんで、今じゃないでしょう!
「言ってる場合じゃなないでしょ!父様以外の処刑人は…」
いない。
まずい、このままだと最悪死ぬ。
怒れる民衆に処刑人が嬲り殺しにあった事件だってあるのだ。
どうすれば…
「助けて!助けてちょうだいテルール…私は貴方のお母さんよ!」
彼女の命乞いに民衆は叫んだ
「さっさとアマを殺せ!!」
このままでは彼らが柵を越えて私刑を始める!そうなれば私たちもその対象になるかも知れない。
その時、溢れる汗がロベスの血と混った。
「バチスト様、僕がやります。」
彼は父から処刑人の剣を奪い取った。
「やめろテルール!」
そんな震えた手と息遣いで斬首なんてできっこない!第一頚椎下部(アトラスの足)だって見えてない癖に!
「馬鹿!テルール、私がやる。」
彼から剣を奪い取る。どうして私の初めての斬首刑が親友の母親なんだ。
私も私でバカだな、さっきテルールに言ったことは私にも言えるではないか。
こんな震えた手と息遣いで人を殺せる訳が無い。
「や、やめてシャルロさん私は…!」
でもテルールに母親殺しなんてさせたくない。処刑人になんてなって欲しくない。
「ッタアアアーーッ!!!」
私は剣を振り被った。だがその剣は処刑台の床に刺さるだけである。
無理だ、殺せない。助けてよ、父様…
「ごめんなさい、母さん。」
彼は自らの母親の頭を鷲掴みにして床に擦り付けた。
「テルール!やめなさい!テルール!!」
彼女は手足を縛られ、芋虫のようにたじろぎながら抵抗をする。だが11歳を迎えた息子に力では勝てなかった。
「シャルロ!俺がついてる!やってくれ!」
彼は涙を滲ませながら私に叫んだ。
あぁ、ごめんねテルール。私はやっぱり弱いまんまだ。
でも、アトラスは見えている。
「いやぁ!いやぁ!」
彼女は叫びも今はもう聞こえない。ただ、アトラスを目掛けてその剣を振るうんだ。
「アーメン!」
剣は首に入り、そしてアトラスの足を挫いて床に刺さる。そして胴と頭が分離する。
首を掲げなきゃ、速く処刑を終わらせないと人の波に飲まれて溺れてしまう。
突然、足の力が抜けた。
斬首中の集中状態が切れたからなのか、腰が抜けて立てない。
「シャルロ、掲げろ!急げ!」
彼は私の顔を一度見たあと、立ち上がって自らの母親の首を民衆の前に晒した。
「て、テルール・マクシミリアムの名において…」
彼が民衆の前に力強く叫び、刑の完了を宣言しようしたとき、父様は彼よりも大きな声で、彼の声を掻き消すように叫んだ。
「バチスト・ジョン・アンサングの名において今時の処刑の実行完了をここに宣言する!!」
民衆はその声に合わせて雄叫びを上げ、再び叫んだ。
「国王陛下万歳、国王陛下万歳!!」
「国王陛下万歳、国王陛下万歳!!」
刑は正しく執行され民衆が処刑場に突入することはなかった。
私は極度の緊張が解け、そのまま気絶した。
その直前、彼が多くの人々の前で嘔吐する光景が見えた。
だがもはや小さな人間の悲劇もこの熱の中においては、湖にワインを放り込むものである。




