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世界は弱さを許さない

106 世界は弱さを許さない


 今日、国会議事堂においてサン=ベルナール・ロベスピエールは倒れた。その後彼は議員向けに軽い持病によるものと説明したが、誰の目から見てもそれが肺結核等の病であることは明らかであった。


 「どうするのだ!!私達は!!」


 議長を務めていたジョシュア・ラモーヌは晩食に関係の近い議員を招いた。それは自身の主として従ってきた、正確には従わざるを得なかった男がああも死にかけの人間と知ったからである。


 「私だって知りませんよ!」


 彼と同期の金髪の男がそう言った。


 「くそう!私は、私は奴から便宜を引き出してこの地位まで上り詰めたんだ!奴のおかげで通せた法案もある!でも奴が死んだら、私は、私は!」


 彼は主に媚を売って自身の地位を築いた。勿論その過程で汚いこともたくさんしてきた。とても為政者として優れた人物とは言えないような男である。

だからと言って、彼に正義がないという訳ではなかった。むしろ彼は自分に投票してくれた全ての人の利益になるようにと行動しているし、自分が富もうなどと一度たりとも考えたことはなかった。

 だからこそ彼はサン=ベルナール・ロベスピエールという男に忠誠を誓うしかなかったのである。何故ならあの男を使うことは自分に投票してくれた全ての人の利益の為には近道になると思っていたし、何より自分が殺されれば自分に投票された1票が無駄になると考えていたからだ。


 「男が喚くな!」


 ドラクロワ・ド・タレイラーは自身の師であるジョシュア向かってそう言った。言われた本人を含めて7名全員がその若手議員を見ていた。


 「はぁ!?お前!お前、状況わかってるのか!?あの男が倒れて、その上先が短いんだぞ!?あの男が死んだら議会が機能不全になる、恐怖とは言え奴は議会を纏めていたんだ、だからあの男がいずして誰が議会をまとめるだ!?しかもその上で奴は国民人気も持っているから、奴の次なんて誰もやりたがらない!」


 「なら貴方がやればいい!!」


 その一言に空気が固まった。だってそれは誰もが理解していて、誰もが言えなかった言葉だった。何故ならその言葉の意味がこうだからだ。

 貴方は全てを失うか全てを得るかの賭けをするべきだ。


 「私は天才ではないんだぞ、サン=ベルナール・ロベスピエールやオーレン公、コトデーやラパイヨーネだってそうだ。彼らは天才だからこそ己の力で他人を完全に支配できた!でも私は違う、私は凡人だ。サン=ベルナール・ロベスピエールのように革命を主導して星遺物を集めて偉大な人になることはできないし、ラパイヨーネのように軍事的偉業を果たせる訳でもない!私にできるのはただ、強者に擦り寄って僅かな要求を叶えるだけなんだよ!」


 「だからこそだ!ジョシュア・ラモーヌ!あんたは確かに凡人だ。でもあんたは自分の果たそうとしたことを、通そうとした法案や政策を着実に通してる。強者に擦りよったり、誰かに裏金を渡したり接待をして、とても政治家として褒められたような人間ではないが、その反面あんたは多くの議員と関係を持っている、その汚さは置いておいてな。だからあんたならできる。あんたの築いてきたコネを使って纏めて見せてくださいよ、ジョシュア・ラモーヌ先生」


 「貴方達だってそうでしょう!?今まで近くでラモーヌ先生の手腕を見てきた貴方達も私と同感のはずだ」


 静かに聞いていた5名も頷き、そのうちの一人が口を開きこう言った。


 「タレイラーの言う通りですよ、先生。先生は確かに政治家として褒められた人間ではありません。でも私は先生を尊敬しています。だって貴方はサン=ベルナール・ロベスピエールと違って裏金と接待で上り詰めた。それは粛清とかの過激な手を使わずにその地位まで上り詰めた証拠ではありませんか」


 「だが現実として私はどうすればいいんだ?仮に私が第二代大統領になるとして、あの男が簡単に地位を譲ってくれるとは思えない」


 そしてまた一人、口を開いた。


 「わ、私に提案があります。それは…」


 その男はサン=ベルナール・ロベスピエールを失脚させる手を語った。その手はとても簡単であったが、彼に対する恐怖と星遺物の意思という観点から誰も取れなかった手だった。しかし、今、肝心のサン=ベルナール・ロベスピエールが己の弱さを見せてしまった今だからこそ取れる手であり、何より彼にとって致命的な手だった。


 「確かに、それならば可能かしれない。あの男に勝てるかもしれない。しかし失敗すれば、死…」


 ジョシュア・ラモーヌは頭の中に天秤をつくった。

 右の秤にはこのままサン=ベルナール・ロベスピエールに従った場合に通せる法案と政策の数。

 左の秤にはサン=ベルナールを裏切った場合のリスクと自分が大統領となった結果、通せるようになる法案と政策の数。

 どちらが自分に票を投じてくれた有権者の為になるのか。

 天秤は左に傾いた。


 「…やろう。それでいつやればいいんだ?」


 「熱月(テルミドール)の9日です」


 タレイラーが日にちを指定する。何故ならサン=ベルナール・ロベスピエールを失脚させる手、それを提案したあの議員だが、これを思いついたのは他でもないタレイラーだったからだ。では何故タレイラーは自分からそれを提案しなかったのか。何故ならタレイラーはサン=ベルナール・ロベスピエールに並ぶ天才だったからである。

 彼はこう考えていた。サン=ベルナール・ロベスピエールが失脚し、その後この男が失脚し、ラパイヨーネの時代となる。でもラパイヨーネもラパイヨーネで超長期的な政権は築けないだろう。なら私はどう行動するべきなのか。

 そして彼はこのような解を得る。

 この男の時代、ラパイヨーネの時代、いずれにしても自分は中心よりも少し近い場所、本人が失脚してもギリギリ影響力がない場所かつ自分が最大限の利益を出せる場所に居るべきだ。

 そしてその解こそが彼のこの場での彼の態度に表れだったのである。


 「熱月(テルミドール)の12日、肝心のあの男は凱旋門完成後の演説とその後の動きについて色々考えているでしょう。だからその直前は議員へのあの男と法務大臣の監視が緩くなる。だからその直前、熱月(テルミドール)の9日に一気にこっちに流れを持っていくのです」


 ジョシュア・ラモーヌはその言葉に青ざめた。議員への監視、一気に流れを持っていく、その言葉の意味はこうだ。

 熱月(テルミドール)の9日に全てを賭けます。つまり議員への根回しはできません。その場で味方を作るのです。


 「ま、待て!危険すぎる!」


 「だからなんだというんですか。貴方はもうやるしかない。だってこれは国王の時代から数々の議員と表裏を問わずの関係を築き続けた先生にしかできないではありませんか」


 タレイラーの言葉に全員が頷いた。何故ならもうここまで進めてしまったら、この男以外に大統領になろうなんて思わないからであるし、何より全員わかっていたのである。このまま不在だとラソレイユという国は沈む。それは自分に投票してくれた有権者を裏切ることではないかと。


 「ぐっ、わかった!男ジョシュア・ラモーヌ。やるぞ!やるぞ!」


 この夜、ジョシュア・ラモーヌは一睡もできなかった。

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