綻び
議会にはすでに数百の議員たちが着席しており、僕らも自分の席に向かう。その途中彼らと目があるが、決まって彼らは僕と目が合った瞬間に逸らした。議会が僕の手を離れる前に僕が恐怖を与えなくてはならないのだ。
最上段である議長席の左側にある大臣席に各大臣と僕が着席する。もちろんそこには法務大臣であるルナや国防大臣であるラパイヨーネも着席していた。
「諸君、第24回国会は本日集会されました。議会を開式いたします」
議長が会式の口上を語り、会議前特有のざわつきを収めた。
「では第一位、議席の指定を行います。国民公会規則第14条より、諸君らの議席は議長において指定させていただきます。またその際、新たに議席に就かれました議員を紹介致します」
「第98番、プロヴィア=アルペン=マルサイエーズ選挙区選出議員、ドラクロワ・ド・タレイラー氏」
拍手喝采の中、あの気持ちのいい青年は立ち上がった。堂々としていて本当にいい顔をしている。しかしドラクロワ・ド・タレイラーか。憶えておこう、でもすぐに無意味なるか。
「ルナ、あの男だ。今はまだ個人的な理由で放置しておきたいが、いつかは脅威になるかもしれない」
「私もそう思ってるよ。なんか昔の先生に雰囲気だけは似てるからね」
「雰囲気だけ?」
「うん。確かに口ぶりとかは先生っぽいけど、多分あの人本質的にはお金好きの人、いや、お金儲けが好きな人だよ。それにほら、よく見たら先生の方がかっこいいし身長も高いし」
お金儲けが好きな人か。しかしそうなると怖いな。だって彼女の推察が真だとして、つまりタレイラーが金儲け好きの商人気質だと仮定すると、奴は商人的視点に基づき僕につくよりもこれから生まれる新勢力についた方が利益があると判断した訳だ。それは純粋に大義とか正義とかの、使命感による判断よりもよっぽど怖い。
「なら侮れないな」
しかし金儲け好きなら、やりようはある。だって僕につくより相手につく方が利益があるから相手についた、と言うことは相手方よりも高い金を積んでやればこちらにつくと言う事じゃないか。
「では第二位、議決に入らせていただきます。題材は千年後を見越した三位一体のユーロ改造論についてです。議決前演説、サン=ベルナール・ロベスピエール氏、お願いします」
僕は立ち上がってから一礼をし、いつものように演説を始めた。
「まずは皆さま感謝申し上げます。皆様のご尽力がなければ我が国は他国に踏み潰され、その革命の意味すらも水泡に帰していたでしょう」
最初に場を沈めて話に入り易くする。
「では本題に入る前に、皆様はいくつかの前提を認識しなければなりません。まずは一つ目、ラソレイユ革命は完全に終了しました。国内外問わず、革命の敵は完全に討ち滅ぼされたのです。そして二つ目、私達はここに到達するまでに多大なる犠牲を払いました。それはラソレイユを最も偉大なる国にしたとして、贖い切れるものではない」
大仰に手を振りる。肺に空気を送り声を出す。少しだけ喉が痛いが今は我慢だ。
「ですから私達は星教的倫理に従い、身分という檻を我が国だけでなく他国からも取り壊さなければなりません。それがこの国内外の関税の廃止と緩和になります。ではこれについての詳細を説明致します」
「まず資料にもある通り、国内関税を廃止する事で国内での格差を是正します。そして国外関税、つまりラソレイユ支配域であるローマニアと神聖帝国、オルストリカ、イベリア北部において緩和致します。これにより…」
くそ、こんな時に耳鳴りか。でも今は…
「ラソレイユ支配域で巨大な市場を作ることになり、各国は我が国に依存することになります。ですがそれではただ…あぁ、ゲホッ…」
服を血で濡らす。衆目の前で血を吐いたのだ。だから彼らは口を小さく開けて唖然としている。あぁなんでだ。この姿だけは彼らに見せたくなかったんだ、見せてはいけなかったんだ。僕は、強くなくてはいけないのに。
「失礼致しました。では続けさせて、いただきます。これではただの、あぁ、ただの略奪にしかなりません」
思考にモヤがかかる。強いモヤだ。だって僕の今の状態は冴えてるか冴えてないかすらわからない状態だった。でも今は違う、モヤが濃すぎて、明確に今の自分が思考を回していないことがわかるんだ。
「ですから、ですから我が国は他国に対して、代償として、あるいは贖罪として、与えなくてはなりません、平和でかつ身分の隔たりなきユーロを」
違う、言いたい内容はあっているかもしれないが、こんな喋りをしたい訳じゃないんだ。これでは分かりにくじゃないか。
「ですから私はここにて宣言致します、ユーロの巨大市場、ユーロの国家による固い連帯を。それがユーロ連合であります」
この文脈は違う、順番がおかしいんだ。だってまだユーロ連合の必要性を話していないじゃないか、一番盛り上がるところは最後に来るべきなんだ。あぁくそ、これ以上失言をする前に終わらせよう、こんな予定じゃなかったのに…
「以上が千年後を見越した(ミレニアム)三位一体のユーロ改造論で御座います。皆様、皆様…ご清聴ありがとう御座います」
その時、左足の力が抜け、床に倒れる。数人の議員が僕に駆け寄る。あぁ嫌だ、本当にこんなはずじゃなかったのに。
「…では、あぁ、ではラパイヨーネ、ラパイヨーネ国防大臣、ユーロ連合発足に伴う、各国の軍事力の段階的な統合に関する、説明をお願い…お願い申し上げます…」
倒れたまま声を出す。瞼が重くなり、僕は瞼に力をそれが閉じないようにする。でも身体は僕の意思とは裏腹にその命令を無視して眠りについた。
ただまばらな拍手が、作られた拍手のざわついた声だけが聞こえて、そして消えてゆく。
議会にはすでに数百の議員たちが着席しており、僕らも自分の席に向かう。その途中彼らと目があるが、決まって彼らは僕と目が合った瞬間に逸らした。議会が僕の手を離れる前に僕が恐怖を与えなくてはならないのだ。
最上段である議長席の左側にある大臣席に各大臣と僕が着席する。もちろんそこには法務大臣であるルナや国防大臣であるラパイヨーネも着席していた。
「諸君、第24回国会は本日集会されました。議会を開式いたします」
議長が会式の口上を語り、会議前特有のざわつきを収めた。
「では第一位、議席の指定を行います。国民公会規則第14条より、諸君らの議席は議長において指定させていただきます。またその際、新たに議席に就かれました議員を紹介致します」
「第98番、プロヴィア=アルペン=マルサイエーズ選挙区選出議員、ドラクロワ・ド・タレイラー氏」
拍手喝采の中、あの気持ちのいい青年は立ち上がった。堂々としていて本当にいい顔をしている。しかしドラクロワ・ド・タレイラーか。憶えておこう、でもすぐに無意味なるか。
「ルナ、あの男だ。今はまだ個人的な理由で放置しておきたいが、いつかは脅威になるかもしれない」
「私もそう思ってるよ。なんか昔の先生に雰囲気だけは似てるからね」
「雰囲気だけ?」
「うん。確かに口ぶりとかは先生っぽいけど、多分あの人本質的にはお金好きの人、いや、お金儲けが好きな人だよ。それにほら、よく見たら先生の方がかっこいいし身長も高いし」
お金儲けが好きな人か。しかしそうなると怖いな。だって彼女の推察が真だとして、つまりタレイラーが金儲け好きの商人気質だと仮定すると、奴は商人的視点に基づき僕につくよりもこれから生まれる新勢力についた方が利益があると判断した訳だ。それは純粋に大義とか正義とかの、使命感による判断よりもよっぽど怖い。
「なら侮れないな」
しかし金儲け好きなら、やりようはある。だって僕につくより相手につく方が利益があるから相手についた、と言うことは相手方よりも高い金を積んでやればこちらにつくと言う事じゃないか。
「では第二位、議決に入らせていただきます。題材は千年後を見越した三位一体のユーロ改造論についてです。議決前演説、サン=ベルナール・ロベスピエール氏、お願いします」
僕は立ち上がってから一礼をし、いつものように演説を始めた。
「まずは皆さま感謝申し上げます。皆様のご尽力がなければ我が国は他国に踏み潰され、その革命の意味すらも水泡に帰していたでしょう」
最初に場を沈めて話に入り易くする。
「では本題に入る前に、皆様はいくつかの前提を認識しなければなりません。まずは一つ目、ラソレイユ革命は完全に終了しました。国内外問わず、革命の敵は完全に討ち滅ぼされたのです。そして二つ目、私達はここに到達するまでに多大なる犠牲を払いました。それはラソレイユを最も偉大なる国にしたとして、贖い切れるものではない」
大仰に手を振りる。肺に空気を送り声を出す。少しだけ喉が痛いが今は我慢だ。
「ですから私達は星教的倫理に従い、身分という檻を我が国だけでなく他国からも取り壊さなければなりません。それがこの国内外の関税の廃止と緩和になります。ではこれについての詳細を説明致します」
「まず資料にもある通り、国内関税を廃止する事で国内での格差を是正します。そして国外関税、つまりラソレイユ支配域であるローマニアと神聖帝国、オルストリカ、イベリア北部において緩和致します。これにより…」
くそ、こんな時に耳鳴りか。でも今は…
「ラソレイユ支配域で巨大な市場を作ることになり、各国は我が国に依存することになります。ですがそれではただ…あぁ、ゲホッ…」
服を血で濡らす。衆目の前で血を吐いたのだ。だから彼らは口を小さく開けて唖然としている。あぁなんでだ。この姿だけは彼らに見せたくなかったんだ、見せてはいけなかったんだ。僕は、強くなくてはいけないのに。
「失礼致しました。では続けさせて、いただきます。これではただの、あぁ、ただの略奪にしかなりません」
思考にモヤがかかる。強いモヤだ。だって僕の今の状態は冴えてるか冴えてないかすらわからない状態だった。でも今は違う、モヤが濃すぎて、明確に今の自分が思考を回していないことがわかるんだ。
「ですから、ですから我が国は他国に対して、代償として、あるいは贖罪として、与えなくてはなりません、平和でかつ身分の隔たりなきユーロを」
違う、言いたい内容はあっているかもしれないが、こんな喋りをしたい訳じゃないんだ。これでは分かりにくじゃないか。
「ですから私はここにて宣言致します、ユーロの巨大市場、ユーロの国家による固い連帯を。それがユーロ連合であります」
この文脈は違う、順番がおかしいんだ。だってまだユーロ連合の必要性を話していないじゃないか、一番盛り上がるところは最後に来るべきなんだ。あぁくそ、これ以上失言をする前に終わらせよう、こんな予定じゃなかったのに…
「以上が千年後を見越した(ミレニアム)三位一体のユーロ改造論で御座います。皆様、皆様…ご清聴ありがとう御座います」
その時、左足の力が抜け、床に倒れる。数人の議員が僕に駆け寄る。あぁ嫌だ、本当にこんなはずじゃなかったのに。
「…では、あぁ、ではラパイヨーネ、ラパイヨーネ国防大臣、ユーロ連合発足に伴う、各国の軍事力の段階的な統合に関する、説明をお願い…お願い申し上げます…」
倒れたまま声を出す。瞼が重くなり、僕は瞼に力をそれが閉じないようにする。でも身体は僕の意思とは裏腹にその命令を無視して眠りについた。
ただまばらな拍手が、作られた拍手のざわついた声だけが聞こえて、そして消えてゆく。




