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解釈違いです

 ラパイヨーネ視点


 「今何と言った?」


 「ですから、ルーシーの遠征は延期との指示です」


 「それは何故だ?」


 アルペンを越えて2日、かつての戦場アウステルリッツに辿り着いた時、最も恐れていたいたことが起きた。


 「アルビオンと秘密協定を結ぶみたいで、ルーシーの遠征もアルビオンと足並み揃えて行うから延期との指示です」


 「あの男…すまない。少し一人にさせてくれ」


 騎兵の連中に馬を借りて、原っぱを駆け回る。


 「私を失望させてくれたな、サン=ベルナール・ロベスピエール」


 アルビオンとの秘密協定を結んで戦争を制御する。確かにこの手を取れば私は負ける。でもこの計画には熱というものがなく、冷え切っている。何より革命の意味そのものを歪めてしまう一手だ。だから奴は絶対にこの手をとらないと思っていた。

 だが奴はこの最悪の手をとった。一時目標の為に最終目標をすげ替えて、しかも革命の意味も歪めた。奴は一体どうやって自分が殺した人間に謝罪する気なんだ?


 「もう、いないんだな、本当に。あの時の貴方は…」


 馬は微風を切って走る。緑黄色の未だ垂れていない稲穂の畑を横目に彼に残った最後の情を処理する。

 あぁ、本当に今の貴方は貴方ではない。全くの解釈違いだ。今の貴方は熱もなければ美しくもない。完全に死んだんだ、成り上がろうぜと言ってくれた貴方は。しかも死んだ貴方はどうしようもなく腐臭を放っている。


 「パリスに行かなくては」


 早馬を用意させ、5日ほど使ってパリスに向かった。


 たったの半年ほどの留守でパリスの街並みはとても変貌している。古い家屋は取り壊され、新しい家屋に置き換わり、街灯の全てが灯、星の輝きは遮られている。つまりパリスは花の都に相応しい街になったのである。

 では何故パリスがこれほどまでに急成長できたのか。それはひとえに他国から略奪した資産のおかげだろう。しかし、私はこれについて悪だと思わない。略奪は歴史の常だし生存において重要な行為だ。だが、報いはうけなくてはならない。報いがなければ省みることができないからだ。

 辻馬車を使い首相官邸まで向かう。


 「通せ!大統領閣下と面会をしたい!」


 退館時間ギリギリに入館し、受付の職員を押し抜けて無理矢理入館する。


 「お、お待ちください正式な書類等が…」


 「黙れ、友人と会うのに許可が必要か!?」


 執務室の扉を勢いよく開けた時、そこにはいたのは白髪の女だけだった。あの男の個人的な秘書兼法務大臣ルイ・イトワール・ルナ=ジャスティカである。


 「ルナ=ジャスティカ法務大臣、大統領はどこだ。早急にお伝えしなくてはならないことがある」


 「大統領は体調を崩されたので今日はお引き取りください、国防大臣閣下」


 「今でなくてはならない。叩き起こせ」


 「いい加減にしてください、せめて書簡で事前連絡してくれていればこちらとしても配慮できたのに」


 私は彼女を壁際に追い詰めてから襟を掴んだ。アルビノ特有の白すぎる肌はまるで病人のようで一瞬力が抜ける。


 「そちらこそいい加減にしてもらおうか、暗殺と売春で成り上がった売女風情が。そもそも何故お前はあのような男を受け入れられる?今の奴は私が望むような男でも貴様が望むような男でもないはずだ」


 大の男に迫られているというのに、彼女は表情一つ変えず、体も脱力したままだった。


 「勝手に私の気持ちを分かった気にならないで、そんなんだから嫁さんと離婚したんでしょうに。私にとって先生はね、サン=ベルナール・ロベスピエールの仮面を被ってさえいてくれれば先生なんだよ」


 「からないのか?今の奴はその仮面に相応しくないと言いたいんだ。サン=ベルナール・ロベスピエールという男は革命家であり熱に生きる人物でなくてはならない、そうでなければ存在してはいけないんだ。にもかからず今の奴はなんだ、何がアルビオンとの秘密協定だ、こんな制御された戦争では、こんな冷たい世界では、革命の報いを人々が受けることはできない。行動の結果を省みる事ができないんだ、何故これがわからないんだ」


 「国防大臣、正直言って私には貴方の歴史観がわかりません。する必要がない苦労をどうしてする必要がある?」


 その時、扉が開いた。そしてそこにはかつての友が居た。


 「僕に用があるんだろう?ラパイヨーネ」


 女の袖を掴んだまま、死にかけの男を睨んだ。一年前と比べて白髪は増えてるし目の下の隈も酷い、それでいて肌も白くて服に血がついてる。でもその瞳の力強さだけは変わらない。その力強さは一度捨てたこの男に対する情熱をもう一度拾ってもいいかもしれないと思ってしれないほどだ。


 「随分と息が上がっているな、サン=ベルナール・ロベスピエール。走ってきたのか?」


 机の資料を叩いて床に散らす。そして彼の目の前に立って睨んだ。


 「階段を上がってきただけだ」


 彼は一度息を整え、法務大臣に退館を指示する。残ったのは私とその男だけだ。


 「殺されるとは考えなかったのですか?」


 「今の状況で君が僕を殺すとは考えられない。だって君が僕を殺したならばそれはクーデター以外の意味を持たないからね」


 クーデター、それはパリスに向かっている間に一度考えたことだ。しかしすぐに辞めた。だって国民はそれを求めていない。だから私がクーデターを行ったところで、もう一度革命となるだけだ。


 「で、君は僕に何の用があってきたんだ?」


 「しらばっくれるなよ、下衆が。何故革命を導いた貴方が革命の意味を潰すような行為をしたんです?アルビオンと手を組んで世界を固定化して、貴方だって理解しているでしょう、この革命は意味は身分制度への反抗という高尚なものではない。ただ純粋に、誰かから食を奪うこと、その行為の悪質性を世界に示すものだったじゃないですか。

 だからラソレイユは食を奪ったものに対して徹底的に反逆して、食を奪った相手に徹底的に反逆されるべきだった。そうして初めて革命に意味が生まれるんです。なのに貴方は世界の時間を止めた、アルビオンと共に。これではただ、革命によってラソレイユが富んだ、それだけで終わってしまいます。どうして貴方はこれが許せるんだ」


 私が言い終わった時、彼は机の前に移動し、コップで水を飲んだ。そして一口飲んで、そのコップを床に叩きつけた。


 「許せるわけないだろ、この僕が。でもな、考えてみろ、今の僕に革命を成就させることはできない。時間も体力も能力も何もかもが足りないんだ。だからせめて僕のできる範囲で僕の罪を償う。責任を取るんだ、そのためのアルビオンとの秘密協定だ。これをラパイヨーネ、お前に邪魔はさせない。邪魔することもできないだろうがな」


 「責任という言葉をあまり便利に使うなよ。結局は自分が誰かから許されたいだけという事が見え透いてるじゃないか。なぁ、サン=ベルナール・ロベスピエール、貴方のあの清廉さはどこに行ったんです?酒も煙草も女も賭博もあらゆる贅沢を嫌っていた貴方はどこに行ったんだ。私に成り上がろうと言ってくれたあの日の貴方はどこに行ったんですか?」


 彼は本棚の前に立ち、本を眺める。そして不意にその本棚を倒した。もう床はガラス片やら紙やら本やらでぐちゃぐちゃである。


 「あの日の僕だと?あんなもの全てアピールに過ぎない。お前だってそれは分かってるだろう。だってお前に演説のやり方を教えたのは僕なんだからな。だからお前の想像する私は現実には存在しない。現実にいるのはただの死にかけの男だぞ」


 「じゃあなんで本棚を倒したりコップを割ったりするんです?これもアピールだって言うのかよ、あんたはさぁ!」


 男の顔面を殴る。奴は鼻から血を垂れ流しながら尻餅をついた。


 「お前にだけは言わせないからな、あの時の自分が存在しなかってたって。いいか?あの日の貴方は確かに存在していた。もう完全に死んでしまっただけで。

 私は知ってるぞ、お前は本心から自分を神だと考えていたし、自分が神であるのならば他人に対して全ての権利を行使する事ができると、正しさの為ならば他人を損なってもいいと考えていた。でもそんなお前は死んだ。神たる権利に対する責任を果たせないと知って、サンクションを恐れて、考えを改めたんだ。それが今のお前、燃えカスの残りカスのお前だ」


 奴の右手が私に飛ぶ。しかしその右手は極端に遅く、軌道もぶれている。だから回避は簡単にできた。激情に駆られて振った拳がこんなものなんだから、この男は本当に死にかけなんだなと確信できる。


 「そんなことわかりきってる!そうとも、僕は残りカスだ。かつて天才で己を神だと驕った男の残りカスだ。だから僕は、カスなりに思いつく限り最善の手を打った。その結果お前は負けた。そして僕は勝ったんだ。だから負け犬のお前にこれ以上邪魔はさせない!分かったか、ラパイヨーネ」


 「違うお前は勝っていない。確かに私は負けたよ、お前にな。でもサン=ベルナール・ロベスピエール、あんたはあんた自身に負けたんだ」


 「そんな詭弁がなんだ、ラパイヨーネ。事実として残っているのはお前は負けて僕は勝った、それだけだぞ」


 もう、この男は駄目だ。ただの瓦礫に過ぎない。


 「そうか、そうなんだな。サン=ベルナール・ロベスピエール、いや大統領閣下。最後にこれだけは進言させてください。ラパイヨーネではなく、国防大臣として」


 「そうか、話してみろ」


 「確かに私は貴方に負けました。しかし、今の貴方ではこのラソレイユという巨大な国家を背負うことはできない。貴方はいずれ負ける、天才ではなくただの凡人に。ですからそうなった時は国王陛下のように麦の種として死んでいただきたい」


 「無論だ、国防大臣。しかし、僕はその前に遂げる。そして死ぬと決めている」


 もう言うことはない。私は首相官邸から去り、その日の宿を取った。そして翌日、パリスを立って実家のコルテ島に向かった。

あと数話で終わります!!

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