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比翼の朔夜  作者: 浅見カフカ


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EPISODE:76 罪と罰

朔夜が左手に太刀を持った。

俺が折ってしまったからだ。

朔夜の右腕を。

「終わりね、夜刀」

朔夜の瞳に冷たい光が宿った。

「早く刎ねぬと影が消えるぞ」

「貴方の影は永遠に消えるわ」

夜刀の煽りを朔夜が静かに打ち消した。


陽が山の稜線に掛かった。

夜刀の影と山の影が重なり始めた。

神殺しを鎮める祝詞が奏上され、夜刀の最期が近付いてきた。


「そうか、アンタは神様なんだね」

ルリ子さんは曲がった腰で、夜刀を見上げた。

「でも、朔夜さんを苦しめた悪い神様だね」

夜刀は何も答えなかった。

「ところで、だ。あの子が人の身ながらアンタを助けたことに、何も感じないのかい?」

まるで孫を叱る婆さんだった。


次の瞬間——

誰もが息を飲んだ。


ルリ子さんが拳で夜刀の額をコツンと叩いた。

朔夜の祝詞も止まった。


よわい百を越えた老女の拳に攻撃力などない。

もちろんルリ子さんだって分かっているだろう。

だが、ルリ子さんの拳は朔夜の太刀よりも夜刀に深く届いていた。


夜刀の頬を一筋の雫が流れた。


それを見たルリ子さんは、満足気に夜刀の額を撫でて「あとはアンタ次第だよ」と背を向けた。


——陽が落ちた。

寸前、山の稜線が緑色に輝く瞬間が見えた。

夜刀の影が消えてしまった。


俺たちが身構えた瞬間、夜刀はその手から槍を手放してひざまずいた。

まるで罪人が首を差し出すようだった。


朔夜がその首筋に太刀を当てた。

ピクッと夜刀の身体が小さく震えた。

「花音は助かるかな」

「"たかが"人間の力は侮れないわ」

朔夜は小さく笑った。

「そうか」

夜刀の表情は窺い知ることは出来なかったが、とて柔和な声だった。

「磯城様、夜刀のうなじの髪を持ち上げて頂けますか?」

磯城は黙って夜刀の背中に乗ると、銀色の髪を抱えて低く宙に浮いた。


風が止んだ。

虫の声も無い静寂。

朔夜が息を吸う音だけが聞こえ、それも止まった。


一閃——

空気を裂くような音と同時に、銀髪が舞った。

それは月明かりを受けて、美しく見えた。

「左じゃダメね。手元が狂ったわ」

朔夜はそう言って太刀をほうった。

鈍い音が響いた。


「赦すのか?」

俺がそう問い掛けると「赦さないわ。でも花音が命懸けで護ったのなら......」

「二千年——。磯城の魂を護って戦って来たのは、今日この日の為じゃねぇのかよ。それが花音って、朔夜。お前バカかよ!?」

俺はひとしきり煽って、笑った。

そして「最高かよ!」と親指を立てた。

それを見て朔夜も笑った。


「朔夜ちゃん」

「朔夜さん」

文乃が駆け寄り、ルリ子さんがその後ろを歩いた。

文乃が朔夜の胸に飛び込んで、わんわん泣きじゃくった。

ルリ子さんは夜刀にそうしたように、朔夜の頭を撫でた。

「あとで、あの子の見舞いに行こうかね」

朔夜はその言葉に静かに頷いた。


八咫烏が羽をざわめかせた。

「朔夜!」

磯城の緊張した声に全員が振り返った。

跪いたままの夜刀の背後に、美しい女性が立っていた。

「月読命!」

「えっ、三貴子お姉様?」

朔夜と磯城は月詠の前に出ると、頭を垂れた。

文乃は軽く混乱していた。

「アイツも神様だよ。月の女神、月読命。天照大御神あまてらすおおみかみ素戔嗚尊すさのおのみことと並ぶ最高位の一柱だ」

文乃は目を丸くして月読を見ていた。


「犬神人に救われたか」

月詠は静かにそう言うと、短く斬られた銀髪を掴んだ。

夜刀は抵抗せずに立ち上がった。

「現世の人間まで巻き込んだ今回の騒動は、流石に見過ごせぬ」

月詠の冷たく輝く瞳は、月そのものだった。

「命での償いが叶わぬなら、相応の罰を処することとする。朔夜、磯城、それで良いな」

異議を唱えることを許さない確認だった。

「はい」

ふたりはそう答えると、深く頭を下げた。


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