EPISODE:67 ルリ子
指先に触れた記憶に無い紙。
でもこれは僥倖。
「式神......さん?」
そう言うと、サコッシュの中から飛び出して、私の周りをクルクルと飛んだ。
『これは桜井さんを護る式神だよ』
学園祭の日の、彼の言葉が耳に帰って来た。
「あの日からずっと護ってくれていたの?」
私の言葉に答えるように、式神は宙返りをして見せた。
「式神さん、私を連れて行って!」
願うように叫んだ。
式神さんは 導くように空を飛び始めた。
「あ、ちょっと待って」
どう考えても追いつけないし、どこまで行くかも分からない。
私は駅前のレンタルサイクルで自転車を借りた。
電動アシストなら式神さんを追い掛けられる。
——多分。
『あの式神を追って!!』なんてタクシーで言えないもの。
自転車が私にとっての最適解だった。
もう、無理。
どこまで走ったんだろう。
脚がペダルを踏んでくれない。
式神さんは私のペースに合わせてくれている。
でももう、体力の限界。
まだ充電も残ってる。
きっとペダルは軽いのだろう。
でも、どんなに体重を乗せてもペダルは鉛のように重たかった。
それでもまだ前に進んでいるのは、また三人で遊びたいから。
頑張れ私!!
私を追い越して行った車が、ハザードランプをあげて停まった。
白い軽自動車。
運転席からおばさんが降りてきて「あなた、どこまで行くつもりなの?」と尋ねられた。
私はどう答えていいか分からなくて口ごもってしまった。
行き先は、式神さんしか知らないから。
上手く答えられなくて困っていると、助手席のドアが開いた。
それに気付いたおばさんが慌てて「おばあちゃん、大丈夫!?」と、走って戻って行った。
そこで何か話をすると、お婆さんの手を引いて再びこちらに来た。
お婆さんの反対の手には杖が握られ、腰は随分曲っていた。
「お姉ちゃんは、どうして式神を追いかけているんだい?」
お婆さんはしわがれた声で、思いもしないことを言った。
「え!?」
「式神は何処に向かっているんだい?」
戸惑う私に、お婆さんは質問を変えた。
「友達のところです」
私がそう答えると「朔夜さん」とお婆さんは小さく言った。
「どうして朔夜ちゃんのこと知ってるんですか!?」
驚いて、驚きすぎて大声を出してしまった。
「大きな声を出さなくても聞こえているよ」
お婆さんを勘違いさせてしまったようだ。
「ごめんなさい、驚いてしまって」
私がそう言うと「冗談ですよ。私も朔夜さんの友達なの。もう随分昔の話だけれどね」と、皺の刻まれた顔の皺を更に深くして笑った。
「乗って行きなさい、自転車も積めるから」
お婆さんはそう言うと、おばさんに「寄り道お願いね」と頼んで車に戻って行った。
「左よ、そこの交差点」
「次は右。陽ちゃんにも見えたらいいのに」
お婆さんはそう言うと「私の名前は来生ルリ子。朔夜さんとは女学生の頃の友人よ」と、後ろに座る私に振り向いて言った。
「私は樋口陽子です。ルリ子婆ちゃんは曾祖母なんです」
陽子さんはルームミラー越しに私を見て、小さく頭を下げた。
「そんな陽ちゃんも、先月お婆ちゃんになったのよ」
ルリ子さんはそう言って、嬉しそうに目を細めた。
「文乃、桜井文乃です。今きっと、朔夜ちゃんが——」
「戦っているのね。それも、お友達の貴女が心配するくらいの敵と」
ルリ子さんは全てを理解しているような話し方をした。
きっと彼女も朔夜ちゃんの戦いを知っているのだろう。
懐かしそうに式神を見ながら、時々指示を交えて朔夜ちゃんの昔話を聞かせてくれた。




