表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
比翼の朔夜  作者: 浅見カフカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/78

EPISODE:61 離別

「ここは...どこだ」

見回したが暗くてよく分からない。

手足を縛られた状態で転がされていた。

ゴツゴツした岩肌に水が滴り濡れている。

(洞窟だろうか)

最近は朔夜たちとツルんで楽しそうだったから、油断していた。

水滴が滴り落ちる音に混じって、足音が聞こえた。

体勢を変えて音の方に顔を向けると、小さな灯りが揺らいだ。

蝋燭だろう。

小さな灯りは球状に周囲を照らしながら、俺の方へ近付いて来た。

ああ、花音だ。

黒のベルベット生地のドレスを纏った花音が、裾が濡れるのも構わずにかがみ込んだ。


燭台を置くと「痛くない?大丈夫?」と俺の顔を覗き込んだ。

(なんだ、花音の仕業じゃないのか)

そう思ったのも束の間。

「もうすぐ朔夜様が来るはずだから、いたぶるのはそれからだから」

さらりととんでもないことを言った。


「その時までに目を醒まして」

「起きてるよ」

「ええ、起きて......」

花音は俺の頭を膝に乗せた。

ベルベットのドレスは、完全に濡れた地面の上で汚れているはずだ。

花音はそれに構わず、俺の頭を抱えるように覆いかぶさった。

柔らかい感触と甘い香り。

「どうか起きて、磯城様。朔夜様の為に...どうか」


(俺は人質じゃないのか?)

花音の懇願のような祈り。

そして今更の指揮様——

違う。

しき。

違う。

そうだ、磯城。

ああ、月読命。

畏れ多くも畏み申す。

楔は私の魂を留めました。


(少年、私の名は磯城。よくぞ正しくあった)

頭の中で声がグワングワンと鳴った。

「敷島花音よ、礼を言う」

磯城が俺の口で、俺の声で語った。

拘束はいつの間にか解けていた。

どうやら霊力のある者には解けるらしい。

様々な疑問に答えが流れて来る。

便利なウィキペディアだ。

(まずいな、意識を保っていなければ磯城に全部持っていかれる)

「磯城様、こちらに移って頂けますか」

花音が差し出した手を開くと、そこにはフェルトの人形があった。

不格好な手作りの人形。

何かの冗談かと思った。

だが次の瞬間、身体から......もっと奥の芯の方から何かが抜けていった。

懐かしいものを、生まれた時から共にあったものを失ったような気がした。


気付けば俺は泣いていた。

理由は分からない。

とめどなく溢れる涙の向こうで、フェルトが歩いてコケた。

うん、涙はそこで止まった。


「なかなかに動きにくいな」

フェルトに憑依した磯城がくにゃくにゃと立っていた。

どうやら静止が難しいらしい。

「ふふ。磯城様、飛べますわ。朔夜様の所に行ってください」

花音は両手で掬うように磯城を包むと、両腕を高くあげて開いた。

磯城はこちらを振り向きもしないで、洞窟の出口へ飛んで行った。

それを見送った花音がこちらに振り返った。

ゾッとするほど美しい微笑みで俺を見た。

「キミは......これからだよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ