EPISODE:5 畢生の一幕
鍬の一撃が脳天を割った。
「キシャァァァァァーッ」と断末魔の咆哮と紫の体液を撒き散らして化け物が倒れた。
ピクピクと足元で痙攣するそれに、カイは一瞥もくれずに再び鍬を振り回した。
影が随分と長くなった。
気が付くと周囲はオレンジ色に染まり、1日が終わろうとしていた。
耕した土を握るとカイは満足そうに頷いて鍬を肩に担いだ。
天朝様からの発布で、耕した土地を百姓でも持てるようになった。
必死に開墾した土地。
ここで収穫した物は、もう誰にも奪われない。
見回すカイの胸には希望しか無かった。
……今、この瞬間までは。
何匹いるんだ?
1匹は運良く倒せた。
この見た事もない獣たち。
いや、どう見ても異形。
化け物たちだ。
幾つもの大きな眼がイボのように付いていた。
そのどれもが焦点が合っていないように不自然に蠢いている。
赤黒い皮膚に浮き上がって血管が脈打ち、何本もの細い腕が背中から突き出るようにあった。
そして異様に太い脚。
これが厄介だった。
強烈な蹴りと跳躍、そして人の脚では逃げられない脚力。
生き抜くためには戦うしかなかった。
「2匹目!」
払った鍬が化け物の頭部を薙いだ。
刹那、鍬が柄から折れた。
万事休す。
それでも迫る1匹に折れた柄を投げつけ、目のひとつを貫いた。
だがそれでも化け物の突進は終わらなかった。
終わりを覚悟した次の瞬間——
カイは強く、しかし柔らかく突き飛ばされた。
「えっ!?」
転がりながら見た光景は、太刀の一閃に両断される化け物の群れ。
そしてその中心に立っていたのは少女だった。
白い巫女のような装束が太刀を振るう度に揺れる。
蒼白い炎を纏った刀身が揺らいだ。
カイは初めて化け物が下がる様子を見た。
断末魔を上げる様子にも怯まず襲いかかってきた化け物たちが、じりじりと下がって距離を取っていた。
「ひふみよ」
右手の太刀をだらりと下げ、左腕を真横に上げた少女が数を数える。
澄んだよく通る涼やかな声だ。
「いむなや」
天に向けた手のひらに焔火が見えた。
「ここのたり」
少女はすぅっと息を吸った。
「布留部由良由良と布留部」
焔火が幾条もの火線となって化け物たちを襲い貫き、灰に変えた。
赤く照らされた少女の顔は美しく儚げに見えた。
どこか疲れたような、どこか寂しげな。
「怪我は?」
そう言って少女が差し出す手を、カイは掴んで立ち上がった。
瞬間、少女は何故か嬉しそうな顔を見せた。
「ありがとう、命の恩人だ」
カイはそう言って、でも自分と変わらないくらいの年齢の少女に守られたという気恥しい表情で頭をかいた。
「俺はカイだ。この林の向こうに住んでる百姓だ」
「朔夜よ。あなたを守れて良かった」
朔夜——
少女はそう名乗って夕闇に去って行った。




