EPISODE:55 プラスワン
ほぼ満席のWyatt&Billy
イージーライダー由来の店名に、当時のアメリカを意識したコンセプト。
男性客が多いのは理解出来るが、今日の男女比は異様だった。
全てはあの窓辺の席が原因だ。
朔夜、文乃、花音(敬称略)が華やかに談笑していた。
マスターは呑気に「カフェテラスの営業許可でも取ろうかな」と満面の笑みだ。
たしかにあの三人がテラス席に居たらと思うと......従業員としては、忙しくてたまらないからやめて欲しい。
満員御礼の店内にまたカウベルが響いた。
既に料理の提供が間に合っていないこの状況。
(参ったな)
そう思ったのも束の間、異変に気付いた。
店内の喧騒が消えた。
水を打ったようとはこのことだろうか?
そして男性客の誰もが入口を見ていた。
芸能人?
女優さん?
窓辺の美女達を一瞬にして窓際に追い込むような、圧倒的に美しい女性が所在なさげに佇んでいた。
歳の頃は二十代半ば。
サマーカーディガンの下。
白いノースリーブから伸びた腕にはクラッチバッグが抱えられていた。
キャペリン——いや、クロッシェ帽の下からのぞく涼やかで切長の目。
長いまつ毛が大人の女性の翳を思わせた。
タイトスカートからスラリと伸びた脚が歩を進めると、ミュールの音がコツコツと響いた。
そのどれも全てが白でまとめられていた。
そして服の下からのぞく肌は、それ以上に白く透明感があった。
蜉蝣の羽——
月明かりすら遮ることのない、あの美しい羽を俺は思い浮かべていた。
あ、案内!
はっとして気付いた時には、既に女性は朔夜達の席に迎えられていた。
はい?
誰?
増えた。
クエスチョンマークだらけの俺の脇腹を、マスターが肘でつついた。
「ビリーも隅に置けないなぁ」
「いやいや、俺も初めましてですよ」
小声で返すと、お冷とメニューを持って席に向かった。
まぁこれは役得だ。
美女は空いていた花音の左隣に座っていた。
(大丈夫だろうか)
俺の心配をよそに既に楽しげに談笑していた。
「ビリー、こちら望月さん」
朔夜がそう言うと、望月さんは俺に会釈をして「望月三貴子です」と言った。
花音が隣でスマホを出して、わざわざ文字を見せてくれた。
これはどっちのコミュ力が高いのだろうか?
打ち解ける速度が尋常じゃないと思った。
戻った俺がアイスレモンティーをマスターに伝えると、少し残念そうだったのが可笑しかった。
自慢の珈琲を振る舞いたかったようだ。
きっとこの夏の猛暑は、そんな機会をマスターに与えないだろうな。
俺は、なんとなくだけどそう思った。




