EPISODE:54 来店!トリプル・美女
カウベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
このバイトに随分慣れたと思う。
反射的に声を出せるようになった。
視線をドアに向けて、グラスを磨く手が止まった
黒のゴス系——
最近は修道士の映像を見ても、心臓がキュッと締まる。
ああ、桜井さんじゃなかった。
朔夜でもない。
少しほっとしながら一歩踏み出して、数歩後ずさった。
——敷島花音!
なんだよその軍服みたいなゴスロリ衣装は。
ってか、ゴス系ってどんだけ派生デザインがあるんだろう。
いやいや、それよりどうしてここに来た?
「志木く......え、ビリー?」
名札を見て引き気味の表情を見せた。
ちょいちょい、敷島のその格好の方が引くって。
今日は35度の予報だぞ。
焦げんぞ。
「マスター、そうなんですね。ストーカーって怖いですね」
おまいう?
俺の名前の理由を聞いて、敷島はそう言った。
ってかどうして皆、カウンター席に座る?
ツッコミどころが多過ぎてどうしていいか分からなかった。
「プディングケーキと珈琲のセットにしようかな」
「豆は何にしますか?」
マスターの声が弾む。
ここのところの猛暑で、アイスコーヒーばかりが出ていた。
マスター厳選の豆の出番が圧倒的に少なかった。
「トアルコトラジャで」
「かしこまりました」
マスターはそう言うと豆をミルにかけた。
挽かれた豆からいい匂いが漂う。
甘みのある香りがする。
「それにしてもビリーの知り合いは、美人さんばかりだね」
「あ、朔夜ちゃんのことですね」
敷島はマスターの言葉に瞬時に反応した。
「そうそう。先週ね、お友達と来てくれたんだ」
「あー、文乃ちゃんかなー」
明らかに棒読みだ。
「敷島ぁ」
雰囲気が悪くなりそうで思わず声を掛けた。
ノープランだ。
何を話すかはまったく決めてない。
「何?ビリー。私のことは花音って呼んでね」
なんか距離を詰められた。
......怖いです。
「あー、花音はどうして朔夜推しなワケ?」
好きとか言うとマスターの手前、面倒は嫌だったから推しと言ってみた。
花音は俺を見上げると目を輝かせて口を開いた。
「朔夜ちゃんはいつも可愛くて尊くていい匂いがして優しくて素敵ですっごく華奢なのに強くて笑顔がキュートで冷たい雰囲気が漂う一瞬がまた良くて」
「待て待て待て待て、窒息するぞ」
超早口で捲し立てる花音を止めた。
ホントにこういう所が怖いと言うか、狂気じみている。
マスターは苦笑いしながら珈琲を淹れていた。
カウベルがまた鳴った。
入口を見た俺は額に右手を当てた。
振り向いた花音は飛び出した。
入口の朔夜に「運命!!」って叫んで抱きつくと、隣の桜井さんに犬のように唸った。
「あら、花音ちゃん。ミリゴスなの?」
桜井さんは全く気にする素振りもなく尋ねると、朔夜を見た。
「ちょっと頻繁かなと思ったけれど、ゴスロリで正解だったね」
朔夜はそう言って、花音の頭をよしよしと撫でた。
そんなカオスな状況で、三人は窓辺のテーブル席についた。
その様子にウンウンと頷いていたマスターの思惑——
カウベルがひっきりなしに鳴り出した。
次から次へと男性客ばかりやって来た。
「朔夜ちゃんたちが来るようになってお客さんが増えてね。あの位置は外からよく見えるんだ」
マスターが耳打ちした。
「花音ちゃんも常連さんになるといいな」
マスターの言葉に冷水を浴びせられた。
俺は身震いしながら、何も知らないマスターを見た。
「黒ゴス三連星......」
誰が誰を踏み台にするのか——
俺は呻くように呟いた。




