EPISODE:53 偏愛
湿り気を孕んだ夜の風が心地良い。
寝静まった街。
眼下に点在する窓の明かり。
私たちを見下ろすのは、月と月が従えた星たちだけ。
杖に腰掛けて飛ぶことにも随分慣れた。
先端に碧のクリスタルと、それを囲うような三日月をあしらった杖。
クリスタル、銀盤、木材......
一見、様々な部材から作られた杖に見える杖。
3Dプリンターで作ったABS樹脂製。
軽くてとても気に入っている。
朔夜ちゃんみたく武器を顕現させることが出来れば素敵だけれど、私には出来ないから。
真鍮の鎖に繋いだ歯車の見える懐中時計。
先端を月に取り付けて、鎖を蔦のように杖に巻き付けた。
懐中時計は、最近お気に入りのミリゴスとの親和性が高い。
黒の軍服調ロリータはウエストを絞ったワンピース。
太い革ベルトから伸びるシルバーチェーンがアクセント。
吊り下げた丸い鞄とメディスンバッグが可愛い。
革のレースアップの長靴は、こだわって本物の軍用品にしてみた。
外套も夜の空中散歩には欠かせない。
風を纏ってなびく様子を見ると、ココロがアガっちゃう。
左腕を伸ばして夜刀を見詰めた。
私はこの子が好き。
この子の孤独は私だから。
分け合えない孤独を分かち合う同志だ。
——と、勝手に思っている。
でもね、ホントは知っているの。
「ねぇ、夜刀。どうして私たちだけ愛されないのかな」
夜刀は雄弁に沈黙する。
「優しいわね。やり方が間違ってるって言わないんだ。それとも認めたくないだけ?」
「ならば何故に我と共に居る」
夜刀の声が直接頭に響いた。
「だって、夜刀がぼっちになっちゃうでしょ」
再びの沈黙は本当の沈黙だった。
「夜刀は何を間違えたのかな」
私の呟きは夜の闇に紛れていった。
五月蝿い小娘だ。
月明かりも気に障る。
手に入らねば壊せばいい。
そうすれば初めから無だ。
——万劫の余興。
人間の魂など、度重なる輪廻に耐えられるものではない。
いくら守ろうが朽ちていくのだ。
時が来れば自ら滅ぶ。
ククク。
その時は......どうなるのだろうかな、朔夜。
貴方が私を道具とも、捨て石とすら思っていないって。
私、知っているの——
依存も共存も互恵もない。
この関係はなんて言うのだろうね?
同盟?
共闘?
意外と愛——だったりして。
ふふ......
自然と笑みがこぼれた。
夜刀も私も夜の深い闇も、誰もそれに答えたりしない。
私たちは無粋に照らす月が陰るのを待って、夜の深い場所へ飛び出した。
闇の中に私たちの輪郭が溶けてしまえば、きっとひとつになれるような気がして。




