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比翼の朔夜  作者: 浅見カフカ


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EPISODE:52 Wyatt& Billy

やっぱり高校生の醍醐味は、アルバイトだと思う。

夏休みバイトのつもりで受けた、喫茶店のウェイター。

【Wyatt& Billy】

店名を見て「イージーライダーですか?」と聞いたのが良かった。

「半世紀以上前の作品だぞ。映画好きなのかい?」と驚いたマスターに「バイクが好きで、いつかはハーレーのスティード乗りです」と言ったら採用が決まった。

あとは面接そっちのけでバイク談義だった。

マスターは1956年のFLHに乗っていると言っていた。

「パンヘッドですか?」

「よく分かったね」

目を丸くしたマスターに「パンヘッド初の、スーパースポーツソロが出た年だったから」と照れ笑いで答えた。

「いやぁ、さすがは高校生だ。記憶力がいいね」

終始こんなやり取りで「任意保険に入っていれば、バイクで通って良いからね」と言ってもらった。


そして今日がバイト初日。

俺はビリーと書いた名札を貰った。

由来はイージーライダーのビリーだ。

怪訝な顔をする俺に「以前、ストーカーにあった女の子が居てね......」とマスターが話してくれた。

「本名だと調べられちゃうから、ニックネームにしたんだ。その子は結局辞めちゃったけどね」とマスターは残念そうに言った。


「そのうち珈琲の淹れ方や簡単な調理覚えて貰うけど、しばらくはオーダーと洗い物を頼むよ」

そう言われた俺は、かなり緊張しながら最初のお客さんを待った。

店内はRoute66のプレートや、イージーライダーのポスター、ハーレーの小物等々がディスプレイされてマスターの趣味が反映されていた。


カランカラン。

入口のカウベルがなった。

蝉の声と熱気が、開いたドアの隙間から無遠慮に吹き込んできた。

今日、最初のお客さんが来た。

初めのうちはマスターと一緒の接客だ。

俺はマスターの後ろをついて歩いた。

「おふたりですか。ではテーブル」

「カウンターでお願いします」

遮ったその声に(えっ!?)と思った。

まさか——とも。

マスターの後ろから顔を出すと、朔夜と桜井さんが立っていた。

ってか、どうしてゴス系のシミラールック?

朔夜は黒の厚底のニーハイブーツ。

黒いホットパンツとブーツの間はガーターベルトのような網タイツ。

丈の短いのはライダースだろうか。

赤と黒のチェック柄に背徳感を覚えた。


桜井さんは黒ベースのゴスロリ。

白いレースと膝上のスカート。

生脚に厚底のブーツ。

頭の飾り帽子が、オーソドックスながらあざとかわいい。

そしてふたりお揃いのハート型のバッグは赤と黒の色違い。

一体こういうのはどこで買うのだろう?


「えっ、ビリー!?朔夜ちゃん、ビリーだってぇ」

桜井さんが俺のネームを見て爆笑していた。

爆笑とかするんだね、この子。

その時の俺はなんだかもう、俯瞰して見ている感覚だった。

爆笑する桜井さんの隣で、朔夜は口許に手を当てていた。

「なんだ、ビリーの知り合いかい」

マスターの言葉に「同級生です。ここバイトのことは言ってないです」と、暗にストーカーの告発を俺は試みていた。


ふたりはケーキセットをオーダーした。

朔夜がアイスコーヒーとブラウニー。

桜井さんはアイスティーとフルーツタルト。

カカオの香りに、ほんのりブランデーの甘い匂いが漂う。

そしてフルーツのどこまでも甘く爽やかな香り。

お腹がなりそうだ。

俺が冷蔵庫からケーキを出していると、カウンターから「違いますよぉ」と桜井さんの声が聞こえてきた。

「朔夜ちゃんがビリーのバイクが停まってるって言うから、ひとりでこんなお洒落なカフェに来るんだねって覗いてみたんです」

(桜井さん、その時点のビリー呼びはおかしいから)

俺は桜井さんの柔軟性の高さに、内心ツッコミを入れながらカウンターに戻った。

「ねね、ビリーはいつ免許取ったの?」

興味津々に桜井さんが尋ねてきた。

「今月の誕生日に取ったよ。教習は先月から」

「そうなんだ!そ・れ・で、どうして朔夜ちゃんはビリーのバイクが分かったのかな?」

(えっ、桜井さんヤンデレっぽい)

俺を見る桜井さんが怖かった。

隣で朔夜が噎せている。

「実は転校初日にバイク通学が、朔夜にバレまして......」

人差し指で頬をかきながらカミングアウトした。

桜井さんはそこでようやく腑に落ちたように「だから朔夜ちゃんはビリーに強気だったわけね。弱みを握って」と言ってクスクス笑った。

「文乃ちゃんも、これでニギニギできたわよ」と、隣で朔夜がとんでもないことを言い出した。


本日バイト初日。

前途多難な夏休みの始まり。

窓の外の眩しさに目を細めた。




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