EPISODE:51 それぞれの夜
ヘッドボードに背中を預けて、ベッドに座った。
シャギーニットのトップスの肩紐が、片方落ちる。
それに構わず背中を丸めて、深く抱き寄せるように膝を抱えて。
カーテンの隙間から滲む青い夜が、私をそっと包んでくれる。
なんだろう。
彼に違和感を覚える。
彼が名前を呼ばれる度に、反応するのは彼じゃない。
「チョコエッグみたいね」
ふふ、中には何が入っているのかしら?
声に出してから考えてみた。
もしかしたら朔夜様が彼から離れない理由はそれ?
夜刀が狙う理由も——
沈黙するブレスレットを見遣った。
拗ねてるのかしら、可愛いわね。
唇で頭に触れた。
微かに震えたのは気のせいかしら。
意外と男の子だったなぁ。
私を安心させるような落ち着いた声。
きっと自分も怖かったクセに。
私の元から朔夜ちゃんの所に駆けて行く背中。
少しだけ妬けた。
ダンスの時、朔夜ちゃんほどドキドキしなかったけどね。
ふふ、なんか可笑しい。
サテン生地のさらりとした感触。
彼はそんな感じ。
心地よいけど留まらない。
今着ているパジャマに似ていた。
朔夜ちゃんは——
考えると頬が熱い。
カーテンを少し開けると窓に頬を当てた。
月明かりが静かに夜を照らしていた。
......貴女もこの月を見ていますか?
月を映した池。
薄桃色の着物の少女が、水面を滑るように踊る。
神楽鈴を鳴らす度に、季節外れの桜が蕾を綻ばす。
状態を大きく逸らすと、しなやかな指先を伸ばして月光を一身に浴びた。
幾度目かの神楽鈴で満開を迎えた桜が、一斉に花を散らした。
少女はその桜吹雪の中、腰帯の扇子を手にした。
花びらのひとつひとつと戯れ睦むように舞った。
白に近い薄桃色——
ひとひらが、少女の世俗の穢れを祓い纏って水面へ沈んだ。
淡雪のような景色の中、雅やかな舞が続いた。
そして扇子を閉じると同時に吹雪は止んだ。
舞い終えた少女の足元に、花弁の道が岸へと延びていた。
少女が去った後、池は静かに水を湛えていた。
美しい月を映して。
祠の洞窟に音もなく身を預けた。
岩の割れ目に雫が染みでる。
夜の闇すら届かない漆黒。
赤い瞳がふたつ潜む。
あの少女をひと呑みにするのは容易いことだ。
利用価値があるうちは、花を持たせるのもまぁいいだろう。
所詮は妖魔の力。
神に届くことなどない。
ククク。
喉が鳴った。
己が欲のまま踊るがいい。
そして穢れをその身に集め、佳き贄となるがいい。
我をヲロチと呼んだのならば、その結末も本望であろう。
夜はそれぞれに過ぎていった。
月の下に、闇の中に、それぞれの思惑を巡らせて——




