EPISODE:46 異変
クレープのキッチンカーの前で目をキラキラさせている女の子が居た。
——朔夜だ。
薄く丸く生地が焼かれて、美味しそうなフルーツやクリームが巻かれていく。
型抜きで貰ったチケットを握りしめている姿がいじらしい。
その実はいじらしさとは対極ではあるが。
ラズベリー、ブルーベリー、そしてストロベリー。
三種のベリーのクレープに決めたようだ。
魔法のような手際に、朔夜はすっかり見入っていた。
「朔夜さん!」
息を切らせながら、桜井さんが駆けて来た。
「文乃さん、どうしたの?」
「一緒に回ろうと思って、探してたの」
そう言ったあと、桜井さんは俺をチラリと見た。
えっ、俺が邪魔ってこと?
桜井さんは意外と攻撃的なのかもしれない。
「んー」
朔夜は少し考えた後、柏手を打つように手を叩いた。
そして「三人で回りましょう」と言った。
「はい」
笑顔で答えた桜井さんの、俺を見る目は"無"だった。
三歩下がって二人の後を歩く俺。
傍から見れば完全に従者だ。
これだけ見た目可愛い二人と一緒だと、羨む奴も居るかもしれない。
——言ってくれたら代わってやる。
クレープをはむはむしながら歩く朔夜と、りんご飴を舐めながら歩く桜井さん。
仲良く手を繋いでいた。
そして焼きそばを買ったがいいが、歩いているから食べられない俺。
「神様に愛されなかったのかしら、俺」
自嘲気味に笑った時だった。
『身の程も知らずに、愛されたからだよ』
耳元で声がした。
驚いて辺りを見回したけれど、誰も何処にもいなかった。
空耳?
そう思った俺だったが、異変に気付いた。
"誰も何処にもいなかった"
夕方までは一般参加も出来る、この後夜祭。
誰も居ないなんて有り得ない話だった。
「朔夜!」
「ええ、来るわ」
俺が呼んだ時には既に気付いていたようだった。
「文乃さんを」
朔夜は繋いでいた桜井さんの手を俺に渡すと太刀を構えた。
俺は言われるがままに桜井さんの手を引くと、この場から離れた。
「えっ、何?どうしたの!?」
そうだった。
桜井さんは、魔女に記憶を操作されていたんだ。
とりあえず説明は後回しにして走った。
逃げたところで安全な場所がどこかなんて、俺には分からないけれど。
「いいかい、桜井さん」
俺は走るのをやめて桜井さんに向き直った。
両肩に手を置いて俺は話し始めた。
「これから信じられないモノを見るかもしれない。怖いことに遭うかもしれない。でも、コイツが護ってくれるから安心して」
ポケットから取り出した紙札を桜井さんに見せた。
「これは桜井さんを護る式神だよ」
そう言って、手のひらに乗せて息を吹きかけた。
紙札は生命を吹き込まれたようにゆらゆらと揺れると、その形を人形に変えた。
「ひっ」
桜井さんは、明らかに怯えた表情で後ずさった。
「大丈夫、朔夜お手製だから。必ず護ってくれる」
俺は笑ってみせた。
そして桜井さんに背を向けた。
「何処に行くの?」
「朔夜を助け......になるかどうか分からないけど、行ってくる」
振り向かず、親指を立てて俺は駆け出した。




