表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
比翼の朔夜  作者: 浅見カフカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/78

EPISODE:39 合流

私は足元に倒れた女に引き倒されてしまった。

女は私に馬乗りになると「そうよ、首を刎ねてしまえばいいのよ」とポケットからカッターナイフを取り出した。

コンビニで見かけるような細いカッターナイフ。

そんなもので刎ねられるわけはないけれど、私の喉や頸動脈を掻き切るには十分だった。

「朔夜様、アリスの首を刎ねて御覧にいれますわ」

ダメだ、この子はもうダメだ。

陶酔しきった表情の隙を突いて女の右手を強く払った。

カッターナイフは壁に当たり、割と遠くまで滑っていった。

「なにすんのよ!!」

怒声の直後、左の頬に熱と痺れが走った。

頬をぶたれたと認識するのに時間は要らなかった。

次は右の頬を手の甲でぶたれた。

左よりも固く鋭い痛みを感じた。

応戦しようと左手で右手を掴んだが、利き腕にはかなわなかった。

その上、私の右肩を抑えていた左手を外すと拳で殴ってきた。

口の中に鉄の味が広がった。

切れた唇は既に腫れていた。

必死に抵抗をしたけれど、何度も殴られてしまった。

私の抵抗が弱まったのを見て、女は立ち上がった。

「カッター拾って来るから動くんじゃないよ」

そう言って私お腹を踏みつけた。

逃げようとしていた私の最後の気力まで、踏みつけられた気がした。

もう動けなかった。



早い早い!

速度の乗った台車は妖魔と距離を保つことが出来た。

引き離すことは出来なかったが、今はこれが最善だった。

ここは校舎最長の直線だった。

二階の渡り廊下の繋ぎ目、ステンレスの段差に台車が小さく跳ねた。

バランスを崩しかけたが、ギリギリで持ち直した。

ただそのせいで速度が落ち、妖魔との距離が縮んでしまった。

マズイ。

俺は慌てて地面を蹴って速度をあげた。

妖魔もスパートを掛けてきた。

距離が縮まった瞬間を好機と読んだのだろう。

俺も必死に加速しようとした。

——が、しくじった。

渡り廊下、旧校舎側の繋ぎ目で車輪がひとつ飛んだ。

少しの間、三輪で走ったがすぐにバランスを崩した。

台車の車体を木の床に擦りながら滑っていった。

咄嗟のことで、俺は台車を握った手を離せずに固まっていた。

離せば良いことに気付いた時には、下りの階段が迫っていた。

結局俺はそのまま飛んだ。

身体は投げ出されていたが、やはり台車は握りしめていた。

妖魔も俺を追って飛んだ。

俺の腹を目掛けて大きなあぎとを開けて迫っていた。

思わず庇おうと身を縮めた。

その時、握っていた台車が妖魔の口に入った。

一瞬で噛み砕かれたが、鉄の部品が口の中を裂いたようだった。

空中でもがき、そのまま階段を滑り落ちた。

俺も妖魔の上に落ちて一緒に滑り降りた。

台車と呻き声と色々な音が飽和する中、微かな旋律を伴った音が聴こえた。



カチカチ......カチ。

カッターナイフの刃を出す音がした。

遠くで大きな音が聞こえたけれど、小さなカチカチが耳に鮮明だった。

ギィィギィィ

足音が近付いて来る。

けれどももう、私には抵抗する力は無かった。

カチカチ...ふみ...カチやここカチ

何かが音に混じる。

布留部由良由良ふるべゆらやら布留部ふるべ

朔夜さんの声だ。

「いやぁぁぁ」

大きな悲鳴があがった。

上半身を何とか起こすと、女の腕と足に何かが巻き付いて拘束していた。


「文乃さん!」

えっ、と思った。

だってあれは夢の中でのお願い——

唇に人差し指を這わせた。

心臓がトクンと鳴って頬が熱くなった。

「文乃さん!」

再び名前を呼ばれて変な返事になった。

「はひ」

今度は恥ずかしさに熱くなった。

私——余程、悲惨な姿をしてたのだろう。

朔夜ちゃんは驚いた顔をしたあと、泣き出しそうな顔で私を抱きしめてくれた。

「汚れちゃう」

「いいの、遅くなってごめんなさい」

朔夜ちゃんの形の良い唇が、優しく言葉を紡いだ。

ああ、もうダメだ。

こんな時だけど、こんな想いはおかしいのかもしれないけれど言おう。

言ってしまおう!

呼吸を整えて、息をゆっくり吸って......

吸う息が震えた。胸の奥が熱くて、声を出せば全部こぼれてしまいそうで——

「あのね——」


「ぬぉわぁー」

ガラガラと音を立てながら悲鳴と唸り声が騒音となって迫って来た。

私と朔夜ちゃんの視線の先——

男子生徒と大きな獣と何かの残骸が、二階から降って来るところが見えた。

「指揮様!」

「えっ、指揮くん?」

朔夜ちゃんは獣の頭を踏んで駆け上がると、指揮くんを脇にかかえて飛び退いた。

そして指揮くんを"置く"と......首を刎ねた。

獣の首が床を転がった。

血しぶきが上がり、流れた血液が床を赤黒く染める様子を想像した。

思わず顔を背けた私だったけれど、実際には思いもしない光景だった。

目を覆った指の隙間から見た光景は、信じられないものだった。

濁った紫色の液体がドロドロと断面から溢れ、肉体は泡立ちながら溶けていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ