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比翼の朔夜  作者: 浅見カフカ


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EPISODE:37 反撃

「重たいのよ、あなた。デブのくせに朔夜様に色目使ってんじゃないわよ」

ずっと罵る声が聞こえていた。

身体の自由が効かない。

鳴っている目覚ましを止められない感覚に似ている。

唯一違うのは、私が引き摺られているという点。

どうしてこうなったんだろう。

頭が働かない。

——助けて、朔夜ちゃん。

私は山車の上での朔夜ちゃんを思い浮かべていた。

あれは本当におもちゃだったの?

ギィィ

ギィィ

木の軋む音に気味が悪くなる。

ダメ......意識が沈んでいく。

底なしの沼に引き込まれるように深く、深く。

——朔夜ちゃ.......ん。



疾い!!

もう追い付かれそうだ。

俺の必死の逃走も虚しく背後に足音が迫って来た。

あと三メートル耐えろ、俺。

俺は自身を叱咤して数歩を駆けた。

先の廊下は丁字になっている。

俺は正面の壁に向かって飛んだ。

そして壁を蹴ると左手前に飛んだ。

半身を捻って回転した脇を妖魔の爪がかすめた。

妖魔も俺に噛み付こうと、飛びかかっていたようだ。

妖魔はそのまま壁を突き破って、空き教室に飛び込んで行った。

俺はそのまま正面玄関に戻った。

——悪手だった。

開かない。

いや、透明の壁があるように近づけなかった。

「マジかクソッ」

妖魔はまだ教室でもがいている。

破った壁が身体にはまっているらしい。

俺は二階へ駆け上がった。

妖魔側の丁字の廊下には階段が無い袋小路。

先回りされる心配は無い。

今うのうちに距離を稼がなくちゃ。

もう肺が悲鳴をあげているが、それを聞き入れてあげられる余裕は本体にはなかった。



人は祈る。

古の時代から自助が叶わない時、人は神に祈る。

数多祈りが捧げられるが、それが叶うなど稀有だ。

神は奇跡を起こさない。

神が起こした奇跡は、神にとって必然だっただけだ。

そして今、私の必然は桜井さんの無事だった。


——朔夜ちゃ......ん


聞こえた。

正確には拾えた。

沈みかけた桜井さんの意識を拾い上げた。


起きて、桜井さん。

眠ってはいけないわ。


桜井さんからは何も返って来なかった。

私は目を閉じて桜井さんの意識を探った。

イメージが浮かぶ。

深い深い水底に桜井さんが沈んでいく。

危険な状態だった。

水底へのイメージは、彼女自身の潜在意識が作り出したものだ。

彼女は彼女の作り出した世界で溺れようとしていた。


私は沈む桜井さんの身体を、意識の世界で抱えた。

そして彼女の唇を私の唇で塞いだ。

呼吸のイメージさえ取り戻せばいい。

息を吹き込む。

もう一度。

——もう一度。


目が開いた。

大きく開かれた瞳は私の顔を見つめると、涙を流した。

涙は真珠のような泡となって、水面へ螺旋を描いた。

私はその螺旋を辿り、桜井さんと泳いだ。



ゴホゴホ。

せるような咳で目が覚めた。

さっき、朔夜ちゃんが助けてくれた夢を見た。

夢の中で「桜井さん」と呼ぶ朔夜ちゃんに「文乃って呼んで」と、大胆な要求をしたことを思い出した。

顔が赤くなる。

でもどうやら顔が赤いのは、照れだけでは無いようだった。

視線の先には、私の脚を両脇に抱えて引き摺る女の背中があった。

血が、頭に流れて来ている。

「何するのよ!!」

私は両脚を引き抜くと、そのまま女の背中に蹴りを入れた。

「ぐえ」と蛙のような声を上げて、女は前のめりに倒れた。


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