EPISODE:31 志木星夜
いつもの出待ち。
今日の星夜くんは六人グループで正門を出て来た。
鞄も持っていないし、帰る訳でも無さそう。
そうか、学園祭だ。
ウチは県内では最後の方だから、準備はまだ始まっていなかった。
グループの中にあの女がいた。
いつもいつも何なんだろう。
きっとああいうのをストーカーって言うんだ。
警察はちゃんと仕事しているのだろうか。
星夜くんも迷惑に違いないと思う。
その点、私はわきまえた女だ。
今日もちゃんとこうして距離を置いて同行し、邪魔にならないよう視界にも入らない。
私はいつも細心の注意で、亭主関白の予行演習をしてる。
ちょ、なんでさりげなく列から遅れて二人で歩いてるのよ。
離れなさいよ。
星夜くんとつきまとい女が、最後尾を歩き始めた。
でもカップルのような並びにも見えなかった。
もちろんカップルじゃないから当然だ。
でもあれはなんだろう?
要人警護《S P》?
思った自分を笑った。
いやいや、お父様は電車通勤。
お母様は近所のスーパーの惣菜コーナーで働いているのだからSPが付くような立場なわけがない。
でも、私にとってはV.I.Pだけど。
キャー、顔が熱いわ。
なんて照れているととんでもない光景を目にしてしまった。
——あの暴力女!!
SPがそれじゃぁ、津田三蔵じゃないの。
ものすごい速さだった。
オリンピックの柔道でも見たことがないくらい。
星夜くんに足払いを仕掛けて転ばせたの。
クラスメイト達の前で恥をかかせるなんて、とんでもない女だ。
星夜くんは何か弱味でも握られているんじゃないだろうか。
——救ってあげたい。
私がそう思った時、クラスメイトが口々に「しき」「しき様」と駆け寄る様子が見えた。
まぁ、お名前は『しき』なのね。
でも様付けで呼ばれるなんて、なんて尊い人なんだろう。
ああ字はどう書くのかしら。
これは大きな収穫だわ。
苗字かしら?
ご自宅には表札が無かったから分からないわ。
苗字なら『志木様?』
お名前なら『志希様?』
ふふ、ちょっと女の子っぽいかしら。
私なら......
「しーきクン」
思わず口にして身悶えしていたら、他のお客さんにぶつかってしまった。
まったく、邪魔しないでほしいわ。
失礼なお客さんを睨みつけた後、視線を元に戻すともうそこに志木星夜くんは居なかった。
今日から私は彼の名前を志木星夜くんに決めた。
木星を志す夜——
なかなかカッコイイと思った。
もうあとはあの暴力女をどうにかして、彼にこの名前を気に入ってもらうだけだ。
でもあの女はいつも志木星夜くんと一緒にいる。
......どうしよう。




