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比翼の朔夜  作者: 浅見カフカ


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EPISODE:22 隠れ里

背中に朔夜の体温を感じながらがら走る帰り道。

インカム越しに、朔夜が茶々丸の後日談を話し始めた。

「後日談も何も、領民と一緒に死んだんだろ」

俺がそう言うと、脇腹に拳がじんわりめり込んで来た。

「あ、なんかすっごく興味出てきたなぁ。聞きたいなぁ」


朔夜から聞いた話だ。


宗瑞の手を逃れた領民達は森の中に集落を築いた。

領民達は、集落の中で新たに役割を担い暮らした。

そんな中、若菜が産んだ茶々丸の御落胤ごらくいん梵丸そよぎまるだった。

若菜は正室だったが、茶々丸の血筋を名乗れないことから御落胤と呼ばれる事がよくあった。

もっともそれは茶々丸を偲んでのことだった。

若菜と乳母は梵丸を平民として育てたかったが、領民は強く反対した。

領民は若菜と梵丸を心の拠り所にすべく、特別な存在としていた。

物心がつく頃には木刀を与えられた。

剣術の指南を受け、見られるくらいには振れるようになった。

元服して尊義たかよしを名乗る頃には、髷を結っていないこと以外は立派な武士だった。


深根城落城以来16年余——

人目を避けた隠れ里だったこの集落が、遂に見つかる日が来た。

応仁の乱から始まった長い戦乱の世。

国土の大半が戦場となり、逃げのびた三人の落ち武者が集落を襲った。

戦える者など居ない集落で、尊義が剣を手にした。

剣とは言ってもそれは木刀だった。

落ち武者のひとりが刀を振り下ろした。

尊義の木刀がそれを正面から受けた。

刃が木刀に食い込み止まった。

刃こぼれをしていた上に、数人を斬ったあとだったのだろう。

尊義は意図せず領民に救われていた。

尊義はそのまま木刀を引き寄せ、落ち武者のみぞおちに前蹴りを入れた。

苦しさに前屈みになった所で脇差を奪い抜き、首筋に刃を滑らせた。

血飛沫が心臓の動きに合わせて飛び散った。

落ち武者が首筋を押さえたのは本能だったのだろう。

だがそれは無駄なことだった。

そのまま数歩歩くと、どうと倒れて土埃が上がった。

集落の中心で叫び声や悲鳴が上がった。

他の落ち武者を探していた尊義は、声の方へと駆けた。

中心地では若菜が刀を突きつけられていた。

女たちはその様子に悲鳴をあげ、男たちは落ち武者に罵声を浴びせた。

そんな中、若菜だけは毅然としていた。

「皆の者、落ち着きなさい」

若菜の通る声が響いた。

「あなた、私を殺せば村人全員から嬲り殺されるわよ」

若菜がそう落ち武者を諭すと「どうせ俺は死ぬ!殺される!ならその前に酒とメシと女を持ってこい」と半ば支離滅裂に叫んだ。

逆にそれゆえに危険だと、村人達が自主的に酒と食べ物を持ち寄って来た。

そして女——

尊義の乳母が落ち武者の元へ向かった。

乳母の見た目は尊義が物心ついた頃から変わらず、落ち武者も若い娘が来たと気を緩ませた。

そして刃を若菜の首筋に当てたまま、左手で盃を出して酌を促した。

ガシャリ。

重たい金属音が響いた。

刀が転がっていた。

柄をしっかり握った右手がついたまま。

落ち武者の悲鳴と鮮血を背に乳母がそこを離れると、村人が一斉に襲いかかった。


「師匠!」

尊義は乳母の元に駆け寄った。

「疾すぎて手元が見えません」

「いいから若菜様の所へ行きなさい」

尊義は叱られて渋々走って行った。


その後、落ち武者狩りの功績で尊義は取り立てられて武家の養子となった。



「じゃぁ茶々丸の足利の姓は絶えたけど、血筋は残ったってこと?」

「まぁね。でも、諸説ありってやつね」

「ふーん。でもさなんかその乳母って朔夜っぽくね?」

そう言った瞬間、脇腹に拳が一気にねじ込まれた。


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