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比翼の朔夜  作者: 浅見カフカ


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11/30

EPISODE:10 月詠

こうして天上の暮らしを迎えるのは何度目か。

私は何度も、何度も、何千年も朔夜に護られ生きてきた。

ここでの暮らしも次の転生まで。

再び全てを忘れて生きるのか……

朔夜だけを世界に残して。


「糸が鳴っておりますぞ」

不意に言われて我に返った。

竿を立てると水面の魚を糸越しに感じた。

水中で縦横無尽に暴れる魚をいなして、その体力を奪う。

やがて竿を引く力が弱ると、岸に寄せて魚篭に入れた。

「ふふ、見事なものですね」

「考えごとしていて、教えて頂かなければ逃すところでした」

拍手をして賞賛をくれた方に私は「ありがとうございます」と頭を下げた。

「大漁ですわね。朔夜殿も喜ばれるでしょう」

礼を述べて頭を上げた私は、慌てて額を地面に擦り付けるように平伏した。

月詠様だった。

世界の半分、夜を支配する月詠様に無礼はなかっただろうか?

「畏れ多くもかしこみかしこみ申し上げます」

「良い良い、磯城よ。其方そなたに会いに来たのだ」

私はその言葉に驚いてつい顔を上げてしまった。


月詠様は顔を上げた私の顎に手を添えた。

そして目の奥を覗き込むと「これは、幾重にも重ねられた呪詛よ」と言った。

「其方は夜刀の言葉の通り、幾星霜の魂の旅を繰り返すこととなるだろう」

私はその事実に改めて落胆した。

「なに、案ずるな。其方は月詠と会ったのだ」

私が月詠様の御言葉の意味が分からずに戸惑っていると「くさびは打った。あとは其方の気概次第」と耳元で囁いた。

そして月詠様は、美しさの奥に微かな愉悦を滲ませて笑んだ。

そして「刻の満ち欠けは我が意のまま」と謎掛けのような御信託を残して去って行った。

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