9:不思議な出会いは連鎖するらしい
「今日はこのぐらいにしておこうか」
楓はパソコンから手を離し大きく伸びをする。
やっと終わった。といってもそこまで時間は経っていないが。約一時間ぐらいか。
一体どこから来ているのかわからない質問、同じような悩み、どこから出てきたのかわからない問題、そんなものまで対応していた。
謎のポエムの感想を求められた時はちょっと困った。なんというか内容があまりにも抽象的だったから。
「そしたら明日はこれをやろうか」
「これってなんだよ」
「ふふーん。明日のお楽しみ。面白そうなのが来てるんだ。だから絶対来てね」
なんでそんなに自慢げなんだ。
面白そうと言われても楓の趣味嗜好はまだよくわからないから見当がつかない。
俺この活動に同意した覚え本当にないんだけどな。
明日も無理やり連れてこられるのかな?できるだけ楽そうなのだといいんだけど。
それより今日はもう一旦忘れて帰ろう。
俺はソファから立ち上がる。
「どこ行くの?」
「帰るんだよ。終わったんだろ」
「今から遊ぼうと思ってたのに?」
「俺は遠慮しとくよ。行きたいところあるから」
そこまで急ぎでもないが食材の買い足しに行きたい。
今日の分は持つだろうが明日の分に少々不安が残る。最近一気に買って持って帰るのが面倒でサボってたせいだけど。
じゃあ、明日行けよという意見もわかるが早めに越したことはない。明日休めるから。
「行きたい場所ってどこ?」
「どこだっていいだろ」
「なに、言えないところなの?まさか他の女のところに行くの⁉︎」
なんて人聞きの悪い。俺がそんな女友達か何かがあるタイプに見えるのか?
なんですぐにそういう発想になるかな。
「違う。ただ買い物に行くだけだ」
「他の女と?」
「なんでそうなる」
楓はじとっとした目でこっちを見てくる。
なんでそんな不審がられないといけないんですかね。俺そう思われるようなこと何かした?
信用があるのかないのかどっちなんだ。
「じゃあ、私もついていくよ」
なんとなく言われる気がした。
俺について来たってなんの得もないだろうに。何がそうさせるんだろう。
ほんとに退屈するだけだと思うけど。
「俺なんかについてくるより麗菜を労ってやれよ。今日の一番の功労者だろ」
質問をいくつかやってきたが一番答えを出したのは麗菜だ。
その彼女が今会話に参加できず俯いてるのは心苦しい。
「そんな、私のことなんて」
「仲間なんだろ。じゃあ無視するなんてお門違いだ」
俺は仲間になった記憶はないけど、もう知り合いにはなってるからな。これぐらいは言ってやる。
たぶん一人でいるより楓と一緒にいた方が楽しいだろう。前から先生って呼んで慕ってるみたいだし。
俺は後から来たし、そもそも何でも屋に入った記憶もないから本来後回しにされるのは俺なんだ。
「じゃあ、麗菜も一緒に行けば解決じゃない?」
それはそうかもしれないけどちょっと遠慮させて欲しいな、なんて。
そもそも一もし仮に学校外でも一緒にいるところ見られたら言い訳が苦しくなる。今日でさえめっちゃ大変だったのに。
「俺のことはいいから。二人で遊んでこい。俺はそういうところに行くつもりはないから。その方が楽しいだろ」
俺が行くのは近くのスーパーだ。女子高生が行くようなキラキラしたところじゃない。
これ以上長引かせるとまたこっちの意見無視でついて来そうだ。さっさと行こう。
「じゃあな。また明日」
俺はすぐに出口の方へ向かう。楓は少し納得がいかないような顔で「また明日」と渋々言った。
◆
九月に入ると流石に暗くなるのがだいぶ早くなってきた。夕日はもうほとんど見えない。街灯には灯りが灯り始めていた。
徒歩十分ほどのスーパーで軽く一日分だけ食材を買ってきた。これだけあれば明日は持つ。
今日はそんなに作ろうと思うものが浮かばなかったから明後日以降のはまた明日にでも買いに行こう。
ずっと歩いていくと公園が見えてきた。そこまで広くもない遊具もさほどない公園。
昔はよくここで遊んだ。そこまで遊べる人はいなかったからずっと同じ友達と遊んでいた気がする。懐かしい場所だ。
・・・・・・やっぱり中三の頃の記憶が思い出せないな。なんでなんだろう。でも、公園の記憶も曖昧だしこんなものだよな。
別にあの記憶だけが特別じゃないはずだ。
歩いて公園の横を過ぎ去っていく。
・・・・・・うん?
俺は数歩戻った。
何かが公園の地面にある。黒い人の形をしたのが。
俺は近づいて見るとやっぱりどうやら人らしい。
なんでこんなところで倒れてるんだ?結構真ん中のあたりだけど。
いつから倒れてたんだろう。ここら辺は今の時間帯人少ないから気づいてもらえてなかった可能性がある。
あれ、なんで人が倒れてるのになんか冷静なんだろう?昨日の女性は急いで駆け寄ったのに。この人も女の人に見えるけど。
昨日の方があまりにも悲惨に見えたからか?
「あの、大丈夫ですか?」
「うん?」
肩を叩いて声をかけると少女は眠たそうな声を出した。
まさかここで寝てたのか?もうちょっと端の方がいいと思うけど。
少女はおもむろに立ち上がる。そしてこっちに振り向いた。
第一印象はただただ黒かった。肌は白いが黒い髪、黒い服、そして黒い目。目はまるで光を感じさせないほど暗く、長い髪は漆黒という言葉よく似合いそうだ。
驚くほど美形だがそれ以外にも言葉で形容できない何かを感じさせる。
「大丈夫です。ただ倒れてただけだから」
驚くほど綺麗な声だ。その声で少女は少しゆっくりなペースで話す。
しかし、それは大丈夫だと言うのだろうか?わざと倒れていたと捉えても問題はないということで?
「ほんとに大丈夫ですか?」
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫。今日はもう帰りますから」
なんかちょっと話がズレてる気がするけど、きっと大丈夫なんだろう。暗くなってきてるし女の子が遅くまで一人外にいるのは心配だからな。
少女は歩いて俺の横まで来ると一度止まった。
「私達に縁はありますかね?」
少女はそれだけ告げて去っていく。
一体どういう意味だ。
縁がある?まぁ、出会ったという意味では縁はあると言えなくはないと思うけど。
なんというか不思議という言葉がよく似合う人だった。正直あんな雰囲気を持っている人は初めて見た。