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5:変化させられた朝


 気がつけばカーテンの隙間から差し込む陽射しが瞼の裏を少し明るくしていた。

 もう朝らしい。

 昨日は色々あったし疲れたからまだ寝ていたいけど時間はそれを許してはくれない。

 時刻は六時。いつも通りの時間だが全く寝てない気がする。

 昨日は何時に寝たんだっけな。結構遅かった気がするんだけど。

 頭がぼーっとする。

 よくよく思い返してみると昨日のこと全部夢なんじゃないかって思ってきた。ただの学生である俺にあんなこと起こるものだろうか。

 何にせよ学校の準備をしないといけない。いつも通り今日もあるのだから。

 目を覚ますためにまず顔を洗いに行こう。

 ベッドから降り部屋の扉を開ける。

 あれ、何か物音がする。リビングの方からだな。

 父さんは今長期の出張で家には俺一人だ。母さんは・・・・・・今は考えたくない。

 泥棒か?

 勘弁してくれよ。こっちは色々疲れてるんだからさ。ちゃんと鍵閉めたと思うんだけどな。

 通報しておくべきか。

 スマホを取りに部屋に戻ろうとすると物音が止まった。

 気づかれた?何にせよ急ぐべきだな。


「相変わらず朝早いね晴希は」


 うわっ!びっくりした。

 振り返ると楓がそこにいた。どうやら物音を立てていた者の正体は楓だったらしい。


「なんでここにいるんだ?」


「なんでって一緒に朝ごはん食べようと思って」


「その好意は良いとして、どうして勝手に入ってきたんだ。あとどうやって入ってきたんだ」


「君にはできるだけ早く食べて欲しかったし、あれぐらいの鍵ならピッキングは簡単だよ」


 楓は屈託のない笑顔で述べる。

 なるほど、勝手に鍵開けて勝手に中に入って勝手にキッチンを使っていたと。

 だいぶアウトな気がするけどこれ通報して構わないやつか?

 でも悪いことしにきたわけじゃなさようだし、勝手に入るのは悪いことかと言われると、まぁはい。


「今回は見逃すからこれからは勘弁してくれ」


「えー。いいじゃん、隣なんだし」


「それは関係ない」


「じゃあ、はい」


 楓は俺の前に手のひらを差し出してくる。まるで何かを渡せと言わんばかりに。


「これはなに?」


「何って、合鍵ちょーだい」


「なんで?」


「なんでってそしたらピッキングしなくてすむじゃん」


 俺は勝手に入らないでと言ったと思うんだが。なんでピッキングしないでになってるんだ?

 ここで合鍵を渡す流れなんて全くなかった思うが。どうしてこんなことになってるんだろう。


「俺は入ってくることを許可した覚えはないぞ」


「仕方ないなぁ。恥ずかしがり屋さんなんだから」


 なんでそっちが妥協してる感じになってるの?あと別に恥ずかしがってるわけじゃないから。それに恥ずかしがる要素どこにあったの?

 というかこの感じだとまだ勝手に入ってきそうだな。そこを引いてる感じがしない。


「これから勝手に入ってくるのは」


「それより早くご飯にしよ?冷めちゃうよ?」


 俺の言葉を割り込んで最後まで言わせなかった挙句先に勝手に行ってしまった。

 そのご飯楓が作ったやつだよな?

 女子の手料理と思うと緊張するが勝手に入ってきたやつの手料理だと思うと余計に緊張する。

 なんか変なもの入ってないよな?


「早くおいでよ?」


 楓は呼びかけるように声をかける。

 仕方ない。現状何を言っても無駄だろうしとりあえず着替えよう。

 目を覚まそうと顔を洗いにきたけどもう冷めちゃったよ。



 リビングに行くとちゃぶ台の前に楓は座っていた。ちゃぶ台の上には白ごはんに味噌汁、目玉焼きにソーセージという絵に描いたような朝ごはんが並んでいる。

 俺はご飯がそこに並んであったので楓の前に座る。


「いただきます」


「いただきます」


 楓が手を合わせて言うので俺もそれに続く。そして箸を手に持って朝食を食べ始めた。


「昨日聞けなかったこと色々聞きたいんだが、構わないか?」


「良いよ。なんでも聞いて。スリーサイズからホクロの数までなんでも答えるよ」


「そんなの聞かないから」


 なんでそんなことが出てきたのかを聞きたいぐらいだ。

 なんでそんな変態チックな質問をしなきゃならないんだ。


「昨日の件、全部事実なんだよな?」


 正直まだ受け止めきれてない。

 昨日(若干今日も)は色々あったが時間が経っても受け入れることはできなかった。むしろ時間が経ったからこそおかしいという気持ちが強くなっている。


「そうだよ。君は戦ったんだよ。そして世界を救った」


 世界を救ったなんていきなり言われて信じられる人がこの世に何人いるかって話だ。

 そりゃ、そんな憧れを抱く人はいるだろうが実際にしたかどうかはまた別の話で。

 そもそも世界が危機的状況だったなんてニュース聞いたことがない。そんなものがあれば今でも話がそこらかしこでされていてもおかしくないと思うが。

 そんな物語みたいに世界の裏での話なんだろうか。


「信じられないのは仕方ないけどね。でもちゃんと君は能力者と相対したよ」


 味噌汁を飲みながら楓は言う。

 昨日の件あれはしっかり覚えている。異形と形容するしかないあの左腕を俺は確かに見た。

 そしてあれに殴られた感覚もしっかりと残ってる。


「とりあえず、あの怪物をどうにかするのか?」


「そうだね」


「どうやって?」


「どうやっても何も、どうにかして、だよ」


 今度はご飯を口に運びながら話す。

 どうにかってあんなのに勝つ方法があるのか?

 とりあえずあいつの攻撃手段は左腕に頼っていた。攻撃以外にも足はそこまで早くはない。瞬間的に移動も可能だったようだがそれは左腕を使ってだった。

 つまり超常的な力はあの左腕に集中していると推測できる。

 それを封じることができればだろうがコンクリートすら易々砕いていたあれをどうやって。


「そういえばあの人大丈夫かな?」


 あの荒れ果てた場所で倒れていた女性。無事だと良いんだけど。

 サイレンみたいな音が鳴ってたから安心したいけど、よくなんの音かわからなかったし何故かあの音には違和感があった気がする。


「それって壊れた車の近くに倒れてた女の人?」


「そう。どうなったの?」


「その人なら救急車で運ばれたよ。それ以降は知らない。ニュースでやってるんじゃない?」


 それは確かに。あれだけ派手にやってたらニュースに取り上げられてもおかしくない。

 後で確認してみよう。


「なぁ、その救急車ってあの時来たやつだよな?」


「君が意識を失う前に聞こえたやつなら違うよ。その後に本当のが来たよ」


「あれは偽物だったってこと?」


「そう。あれは大沢さんがね」


「それって大丈夫なのか?」


 どうやってやったかもわからないけどそんな大音量で流して大丈夫なものなのか?

 まぁ、大半の人はそこら辺で流れてても聞こえるなぐらいで大して気にはしないだろう。


「それは気にしなくて良いよ。ああした方が手っ取り早くあれを追い払えたからね」


 それはそうだな。

 あいつが夜に活動していたのも逃げようとした俺たちを真っ先に追いかけてきたのもむやみに広がるのは止めたかったからだろう。


「ほんと、大沢さんには感謝しかないよ。あの人の保護までやってくれたからね」


 あの後怪物はあそこに戻らなかったのか不思議だったがそういうことだったのか。

 それは確かに感謝しかないな。

 今回のMVPと言っても過言じゃなさそうだ。


「それで、結局能力者ってなんなんだ?」


「それは私も知りたい。ある日突然不思議な力が使えるようになるの。理由も使える人の傾向も謎」


 そうか、それはわからなくても仕方ないと思うが判明していて欲しかったな。やっぱりわからないものなのか。

 ある日突然か。もしかしたら俺にも使える日が来たりするのかな。

 なんて、そんなわけないか。


「それで、どう?」


「どうって、何が?」


「そりゃ、君は今手料理を食べてるんだよ」


 つまりは感想が欲しいのか。

 特には何も考えずに食べていたな。それほど受け入れやすい味付けだった。

 何も特出した部分のない実に食べやすい料理たち。朝ごはんに最適に近いような気がする。


「普通に美味しいよ」


「それはよかった」


 楓は満足そうに笑う。


「それじゃあ、はい」


 楓はまたこっちに手を差し出してくる。

 今度は何を要求してきてるんだ?この流れで俺は一体何を渡せば良い?


「代金だよ、代金」


「え」


 勝手に作られたのに金は払わなきゃいけないのか。たしかに食べたけども。

 それなら先に言ってくれよ。悪質な商売人かなにかか。


「冗談だよ、冗談。また後でちょうだいね」


 冗談って今すぐってところがかよ。代金支払えのところじゃないの?

 楓は笑いながら席を立つ。


「片付けは任せていい?」


「ああ、それぐらいはやるよ」


 いつもやってることだし。まぁ、今日は何故か一人分多いけど。

 一人ぐらいだったら大して変わらないけど気持ちの問題だ。二人分やるなんて全く考えてなかったんだから。


「じゃあ、また後でね。今度は晴希の料理も食べさせてね?」


「ああ、じゃあ」


 楓は手を振って去っていく。

 うん?ちょっと待て。

 後でって言わなかった?つまり今日はまた会う予定があるってこと?

 なんだろう。嫌な予感がする。

 それに、流れで了承しちゃったけど人に手料理を振る舞うのなんてこれまでなかったから緊張する。

 でも、食べさせてもらったんだからそれぐらいはしないとフェアじゃないよな。勝手にされたんだけど。


「はー」


 ため息をついて立ち上がる。

 とりあえずさっさ片付けて学校の準備しよう。

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