4:知らない真実ばかり
目を開けると知らない天井があった。
天井の真ん中にあるライトが部屋全体を照らしているらしい。
「あ、起きました」
聞き覚えのある声の方を向くと麗菜がベッドの横に座っていた。俺はそのベッドの上にいるらしい。ちなみになぜか掛け布団はかけられていない。
俺は体を半分起こす。
部屋の大きさはちょうど俺が住んでるマンションの部屋のリビングと同じぐらいか。なんなら形も似てる気がする。
麗菜は静かに微笑んでいる。
「無事だったか」
「はい。晴希さんのおかげです」
「ほんとにそう思ってるのか?」
「?もちろんですよ」
そんなこと言われても皮肉にしか聞こえないんだが。俺立ち向かった割にただこっぴどくやられただけだぞ。
感謝するならあの銃持ってた人に言うべきだと思うんだけど。
「お、目が覚めたか」
部屋の入り口を見ると見知った人がそこに立っていた。
「大家さん」
俺が住んでいるマンションの大家兼管理人。ここ以外にもいくつかの物件を持っているらしく言ってしまえば結構お金持ち。
身長は俺よりも少し高いぐらいで短めの茶髪をしている。名前は確か大沢住子。
そうか見覚えがある部屋だと思ったらもしかしたらおんなじマンション内なのか。大家さんがここにいるしその可能性が高そうだ。
「おーい。目が覚めたら見たいだぞー」
大家さんはどこかに向かって声をかける。どうやら他にも人がいるみたいだ。もしかしたら助けてくれたあの人かな。
勢いよく扉が閉まる音とどたどたという足音で近づいてくるのがわかる。
何をそんなに急いでいるのかはわからない。
「目を覚ましたの⁉︎晴希!」
「いっ!」
俺は咄嗟に目を逸らした。
なんでタオル一枚だけなんだ⁉︎風呂でも入ってたのか?頼むからちゃんと服着てから来てくれ。
目を逸らした先にいた麗菜はただ静かに口を開いている。
「晴希、なんで目逸らすの?」
「お前さんなぁ、自分の格好見てから言ったらどうだ?」
「自分の格好?」
ありがとう大家さん。指摘してくれて。感謝しかないです。
流石にこれで自分の異常に気がつくだろう。なんで気がつけなかったのかはわからないけど。
「これぐらい前だったら普通だったし」
何やってんだ、前の俺は‼︎
あれが普通って一体どうなったらそんな関係性になるんですかね⁉︎
そもそもあの人俺知らないんですけど⁉︎誰なんですか?知らない人との間に前なんてないと思うんですけど⁉︎
「わかったよ。とりあえず服着てくるよ」
少女は踵を返して元の場所に戻っていったようだ。俺はゆっくりと視線を戻す。そこに少女の姿はなかった。
「はー」
大きめのため息が出た。
なんか目覚めたばかりなのにすごく疲れた気がする。なんなんだろうこの疲労感。
そしてどうして今こんな状態になってるんだろう。
早めに説明してくれると助かるんだけどな。
「あの人っていつもあんな感じなんですか?」
「あたしが知る限りは違うよ。こいつに会えてテンションでも上がってるんじゃない?」
「なんで俺と会えてテンションが上がるんですか」
大家さんはこっちを見て少し驚いたような顔をした。
そんな顔をされる心当たりはないんですけど。
だって知らない人と会ってテンションなんて上がる?少なくとも見ず知らずの人に会っても俺はテンション上がらないよ。
「あの人誰かと勘違いしてるんじゃないですか?」
「いや、あんたで合ってるよ」
即答だった。そして合ってた。
「ほんとに覚えてないんだね」
ええ、はい覚えてないですとも。なんのことだかさっぱりですね。
それに俺は知られるようなことまずなかったと思いますよ。自分休日はひたすら家にいるんで。
「そこら辺はちゃんと説明しよう」
さっきの人が戻ってきた。ちゃんと服を着て。
説明してくれるらしい。ありがたいな。この場でわかってないの俺だけみたいだったし。
「あれはそう、三年ほど前の話」
少女は遠い目をして話し始める。
四年前ってことは俺が中三の頃の話か。その頃も何もなかったような気がするけど。
「私たちは戦ったの。超常の力を持った能力者たちと。それでoperation:rvを阻止したんだよ」
うん、全く心当たりがない。
能力者はなんとなくわかるんだけどね。たぶんさっきの怪物のことでしょ。それ以外に知ってるのなんてないし。
で、なにoperation:rvって。rvはなんの略なの?revolutionとか?
「で、晴希は世界を救った代わりに記憶を失った」
そんな悔やんでるみたいな顔されても俺知らないんだけど。忘れてるらしいから当然なのか。大家さんもそんな納得したように頷かないで。
麗菜が言ってた英雄ってこともこれだったんだな。でも俺には信じられないんだけど。
「いや、俺そんなことしてないと思うんだけど」
「じゃあ、二年前あなたが中学三年生の時何してた?」
え、二年前何してたか?
えっと、うまく思い出せないな。たしか誰かとどこかに行ったような記憶とか漠然としたものはあるけどそれ以外何も思い出せない。
でも、そのどこかに行ったような記憶とかは戦ったみたいなものじゃないぞ。
それにそれは俺が単に忘れてる可能性だってある。二年前なんだ何もかも鮮明に覚えてるわけじゃない。
「たしかに思い出せないけど、俺には信じられない」
「それでも君は確かに戦ったよ」
少女は少し残念そうな顔をしながらそれでもキッパリと言う。
あんな化け物と戦っただって。無理だろ。勝てるわけがない。
俺は簡単に弾き飛ばされたし、あいつは銃弾すら掴んでた。そんなの兵器ぐらいのもの持ってこないと勝てないじゃないか。
だけど中学生にそんなものが使えるようには思えない。
「まぁ、いい。仕方のないことだ。今はそれよりも重要なことがある」
「最近の能力者の増加、だな」
大家さんが急に入ってきた。
「そう。あの計画を阻止してからというものなぜか能力者が増えてる。麗菜もその一人だね」
「え、麗菜も能力者なの?」
「はい。そうですよ」
そんなはっきり返答するんだな。
知らなかったんだけど。こんなに身近にいたの?身近になったの今日なんだけどさ。いやもう日付もう回ってるのか?
「じゃあ、麗菜もあんな姿になるのか?」
「いや、私はならないですよ」
「二人とも仲良いんだね」
なんでそんな目を細めて見てきてるんですか、まだ名前も知らない人。
そこまで仲良さそうにしてなかったと思うけど。普通に話してだけだけど。
「能力は人によって千差万別だからね。麗菜とあれは違うものだよ」
「それじゃあ麗菜のはどんなのなんだ?」
「それはデリケートな部分ですので」
能力ってデリケートっていうの?あとなんでそんな恥ずかしそうにしてるの?そしてなんであの人はまたこっちを睨みつけてくるの?
わからないことだらけだな。とりあえず能力に関しては言えないってことか。
「もしかして俺もそうだったりするのか?」
「いや、君にはないよ」
そんなにはっきり言わないでよ。こっちも男としてちょっと期待したんだから。
それで、そうなると俺は能力もなしに能力者と戦っていたっていうのか。これまた信用度が下がったな。勝てるわけないじゃんそんなの。
「それで、今更なんだけど。君は誰?」
少女は悲しそうな表情を浮かべる。
いやだってしょうがないじゃん。このままだとなんて呼べばいいのかわからないんだもの。
あの時麗菜も先生って言ってた気がするし。
・・・・・・先生って呼べばよかったのか?
「私は黒澄楓。君のもと相棒だよ。なんとでも好きに呼んで」
やっぱりこの人が麗菜の言ってた相棒なのか。全然実感湧かないけど。
「それで黒澄さん」
なんだろう、すごい睨みつけられてる。これ呼び方変えなきゃだめかな。
「楓さん・・・・・・楓たちは一体何をしてるんですか?」
「決まってるよ。能力を乱用する能力者を懲らしめていく」
懲らしめていく?
現在進行形だよな?未来形じゃないよな?
「それで、大沢さん構いませんか?」
「ああ、ここを使いな」
「ありがとうございます」
「え、ここで何するんです?」
「ここを事務所にするんだよ。私たちの何でも屋のね」
つまり何でも屋をここで開くってこと?
無理だと思うけどなぁ。だってここマンションの一室でしょ?ここで開いてもお客さん来るかなぁ?
「よし、それじゃあ今日はここら辺でお開きにしようか。大沢さんありがとうございました」
「ああ、いいよ」
「麗菜足の具合は大丈夫?」
「はい」
「それじゃ、一人でも帰れるかい?」
「はい。失礼します。晴希さんありがとうございました」
麗菜は行儀良くお辞儀して部屋を出ていく。楓は俺に近づいてきた。優しく手を差し伸べてくる。
「私たちも帰ろうか」
俺はその手を取る。
俺が怪我人なこともあって手を貸してくれてるんだろうから無碍にはできない。それぐらいなくても立つぐらいできるけど。
「気をつけて帰んなお二人さん」
ベッドから降りると大家さんが床に腰を下ろした。
「大沢さん、失礼します」
「失礼します」
そして楓に続いて部屋を出た。
◆
階段を使って上の階に上がり自分の部屋へと向かう。
周りは暗くなっていてほぼほぼ街灯だけが光を灯している。
それで俺には疑問に思っていることが一つ。
「なんでついてきてるんですか?」
楓はあの部屋を出た後からなぜか後ろに回って俺の後をついてきていた。
理由はわからない。そんなことをする必要はないと思うんだけど。
「なんでって私もこっちだからだよ?」
「え」
同じマンション内に住んでたのか。知らなかった。
これまでに会った記憶はない。同じ建物でも案外合わないものなんだな。
「君の隣の部屋」
「え⁉︎隣の部屋って空き家だったと思うんだけど」
俺が今使っている部屋は角部屋だつまり隣は一つしかない。しかしその一つは空き部屋で間違いなかったはずだ。
「今日から私ここに住むんだよ。君の隣の部屋ってことは覚えてたんだけど具体的に場所を覚えてなくって」
知らなかった。というか気づかなかった。
隣に住むってことは今日には荷物が運び込まれてたってことだろ。それは学校にいるうちにやってたんだろうけど。帰ってきた時とまた出る時に気づかなかったな。
それよりも自分の部屋の位置覚えてないってどうなんだ?なんで俺の隣の部屋ってことは覚えてるんだよ。
「ちなみになんでここに住むの?」
「それは明日になったらわかるよ」
楓はニヤリと笑顔を作る。
嫌な予感がするなぁ。これは外れてることを祈るよ。何かもわからないけど。