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3:相対するは怪物


 走って音が聞こえたところまで向かう。

 一瞬しか聞こえなかったから正しい位置がどこかはわからないがこっちであっているはずだ。それにそこまで離れてもいないはず。


「これはっ!」


 学校から伸びている道へ走るとそこには衝撃の光景が待ち受けていた。

 普段なら人気のないただの狭めの道路。しかし今回はどうやら違うらしい。

 コンクリートでできている道路には大きなヒビが。そして同じくコンクリートでできているはずの擁壁に車がめり込んでいる。

 この光景を見ると二発衝撃があったはずだが、一発しか聞こえなかった。悲惨さから見ておそらく聞こえてきたのは車の方だろう。

 車の前方部分がひしゃげて曲がっている。正しくは潰れている、か。

 どれほど大きな力を加えればこんなことになるというのだろうか。

 普通に運転していればこんなことにはなり得ないだろうし、交通法なんぞ知るかと言わんばかりのスピード違反していたとしてもこんなことになるほどのスピードを出すだろうか。

 車の中を確認すると幸いなことに人はいないようだ。

 ぶつかった衝撃からか僅かに扉は開いているが人が通れるほどの大きさでもないし脱出したわけでもなさそうだ。

 よかった。こんなことになる中にいればとんでもないことになっていただろう。

 あれ、これは?

 車の側面に不自然な凹みがある。車体は右柄を内にして斜め前から突っ込んでいる形になっているから左側の後方の扉にこんな跡はつかないと思うのだが。


「晴希さん!」


 麗菜の呼び声でようやく車から目を離す。麗菜の方を見るととある方向に指を差していた。その指の先を辿っていく。

 あれは!

 そこには一人の女性が倒れ込んでいた。暗くてよく見えないが、身動きを取っていないように見える。


「大丈夫ですか⁉︎」


 二人揃ってその女性に駆け寄る。

 女性の右腕は通常ではあり得ない方向に曲がり、口元は血で濡らしている。

 まるで右側からとてつもない力が加えられたかのような。

 何度呼びかけても返事はない。摩ってみても反応はない。呼吸は・・・・・・かろうじてある。

 しかし、このままだと長くは持たないだろう。

 救急車!早く呼ばないと!

 俺はポケットから勢いよくスマホを取り出した。そして番号を打つ。

 1、1、・・・・・・。

 その時前から足音が聞こえた。それと同時に何かを引きずるような音も。

 俺はなんとなくフードを被る。

 その足音が誰のものかわからないが顔を見られるとまずいような気がしたからだ。

 恐る恐る顔を上げる。


「あ、あれは」


 麗菜も同じタイミングで顔を上げたらしく震えながら声を出した。

 そこには一言で言えば怪物がいた。

 麗菜と同じほどの体躯、そこはいい。それよりあの左腕は。

 異常なまでに大きい、地面に接触している左腕。

 そうか、あれが片腕の怪物か。

 おいおい、ふざけるなよ。なんでそんなのがここにいるんだよ。

 それに名前詐欺だろ。片腕、なんてついてるのに普通に両腕あるじゃないか。まぁ、右腕は普通のようだけど。

 顔は暗くてよく見えない。しかし、それは相手も同じはずだ。それに俺は暗い上にフードまで被ってる。


「火事ですか?救急ですか?」


 なんとか番号は打ち終えたからスマホからは男性の声が聞こえていている。それ以外は現状静寂だ。

 通話を切り、辺りからは音がなくなる。

 位置情報を利用して誰かがここに駆けつけてくれるだろう。警察も呼んでおきたかったがそんな暇はなさそうだ。

 俺は麗菜の肩に手を乗せて小さめの声で話しかける。相手には伝わらないように。


「走れるか?」


「え?」


 麗菜は一瞬戸惑った表情を見せたが、意図を理解したらしく小さく頷いた。

 俺はゆっくりと立ち上がる。その横で麗菜も立ち上がった。

 一歩後ろへと下がる。すると怪物は一歩前に進んだ。また一歩下がるとまた一歩進む。

 また一歩下がろうとしたその時。

 俺は麗菜を押して無理やり横にずらした。


「きゃっ!」


 麗菜は突然のことでうまく力が入らなかったのか力を加えられたままに倒れる。もちろん俺も。

 あっぶねぇ!あいつコンクリート剥がして投げてきやがった。

 とんでもない速さだった。あんなの当たったら一撃だよ。

 それにしてもいきなりだったから麗菜意外と簡単にずらせたな。力はあるけど体感はそこまでなのかな?

 ってそうじゃない!今やらないといけないことは。


「走るぞ」


 麗菜に聞こえるように声をかける。

 お互いに体をすぐに起こして走る。怪物は俺達を追いかけてきた。

 助かった。あの女性を先に狙わずに済んだみたいだ。あっち狙いなら石でもぶつけようと思ったがそこまではせずに済んだらしい。

 でも、全く助かってないなこれ!


「あはは、一日で目当ての二人両方と会えるなんて、私は運がいいですね!」


 言ってる場合か!

 ていうか麗菜が探してるのもやっぱりこいつだったんだな。知らない俺がおかしかったのかあいつについては。

 それよりも早く逃げないと死ぬ!あんなの勝てるわけがない。

 近くに大きな通りがないからすぐに人混みに逃げることもできない。

 流石に見つけた人物を全員やっていくわけにはいかないだろうからそこまで行けば助かる気がするんだが。

 そもそもこの辺りなんでか家自体が少ないんだよな。

 チラッと後ろを見てみると怪物は同じような速さで追いかけてきた。

 足はそれほど早くないらしい。遅くもないけど。あんな大層な腕を持ってるのに!

 やばい!またなんか左腕が振りかぶってきてる!

 怪物が投げるタイミングに合わせて横を走っている麗菜の体を押す。

 今度は飛びついたわけではないからお互いの体が離れる形になった。

 またなんとか避けれたがそろそろやばいぞ。

 ていうかあれだけ力があって走る速さは俺と同じぐらいなんだな麗菜。腕が強かっただけなのか?

 早く立ち上がらないと追いつかれる!

 麗菜の方を見ると足首を押さえていた。

 どうやらいきなり突き飛ばされたから放ってしまったらしい。

 俺のせいとはいえこのタイミングでか。でも、そうしなきゃ死んでたんだからしょうがなくない⁉︎

 でも、この状況は少し生きながらえただけに過ぎない。


「私なら大丈夫ですから走ってください」


 立ち上がった俺を見て立ち上がれていない麗菜は告げる。

 その状態で大丈夫なわけないだろ。

 ここで見捨てて後悔してずっと生きていくのと立ち向かって後悔なく死んでく道どちらがいいか選べ俺。

 ・・・・・・どっちも嫌だなぁ。

 でも、やるしかない。麗菜は英雄だと言ってたんだ。ならその幻想を多少は壊さないように努めてやるよ。

 俺は逃げる前にこっそりポケットに忍ばせていたコンクリートの破片を取り出す。

 こんなものでも多少は武器になるだろう。

 俺は怪物へと突進をかける。

 あいつの武器は巨大な左腕。あれだけだが十分な脅威。しかし巨大が故に取り回しも悪いはずだ。

 一発避けて懐に入れば一撃ぐらい。

 一気に距離を詰めるが何も仕掛けてこない。俺が右側から攻撃をするため腕を振りかぶる。


「ぐはっ!」


 次の瞬間には俺は壁に激突していた。

 簡単にあしらわれた。服についたゴミを落とすかのように。

 どうやら俺の考えは甘かったらしい。俺は攻撃するにも値しないらしい。

 いってぇ。何本か骨折れてそうだな。

 怪物は次は麗菜の元へ向かう。

 させるかよ。もうちょっと抵抗させてもらうぜ。

 俺は最後の力を振り絞って破片を投げつける。

 怪物はそれはなんともないように左手で軽く受け止めた。そして俺の最後の抵抗をゴミのように捨てる。

 くそ、俺のは何も意味ないってことかよ。

 怪物は一歩一歩麗菜に近づいていく。

 もう立ち上がる力はない。もはや俺にはこの邪魔なフードを取る力さえもない。

 被らなきゃよかったな、これ。


「間に合ったみたいだね」


 唐突に来た道から声がした。若い女の綺麗な声。

 声がする方向を向くとそこには一人の女の子が立っている。

 長い金髪の麗菜と同じぐらいに見える少女。暗さで顔はよく見えないがその金髪は輝いて見える。

 佇まいこそ可憐だがその片手に持っているものがそれをうまいこと調和している。

 少女は銃を片手に持っている。拳銃よりも少し砲身が長めの銃。

 いやなんで?なんで銃なんて持ってるの?


「先生!」


 麗菜が少女を発見すると大きな声で言う。

 先生?もしかしてこの人が調査して来いと言った人なのか?

 怪物も気になったようで少女を見つめる。

 少女は怪物の振り向きに合わせて銃を撃った。

 違和感が二つあった。

 一つは怪物がその銃弾を受け止めたこと。得意の左腕で受け止めて勢いを完全に殺すと弾のその場に落とした。

 これはなんかもう最初っから意味わかんなかったしその流れでそこまで引っかかりはしない。いや引っかかるけど。

 それよりももう一つ。

 銃声がしなかった。その銃は静かなまま弾を発射した。

 しかし、目にも止まらぬ速さだったことからおそらく速さは本物。見たことないからわからないけど。

 でも音が一切しないなんて可能なのだろうか。


「やっぱり駄目かー。でも、時間切れだね。そろそろ人が集まってくるよ」


 パトカーの音か救急車の音か何かよくわからないものが聞こえてくる。

 いや待て。どちらにしても早すぎないか?まだ俺たちが呼んでから三分も経っただろうかってところなのに。

 しかし、音はだんだんと大きくなっているような気がする。

 怪物は地面を大きく殴って巨大な音を奏でながらどこかに飛んで行った。

 やばい、意識がだいぶ薄れてきた。安心してきたからかな。


「それじゃ、私たちも撤退しよっか」


「そうですね」


 麗菜と少女は言葉を交わして何やらお互いに納得している。

 撤退ってなんだよ。変な言い方だな。

 少女は俺に近づいてきた。ぼやける視界の中顔が不鮮明に映る。


「お疲れ様、晴希。相変わらずだね」


 少女は微笑んでいるように見える。

 なんで俺の名前を知ってるんだ?と聞きたかったが口は思うように動かない。

 俺の意識はそこで途絶えた。

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