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2:どこに行けばいいんでしょう?


 夜の学校は昼間とはまるで違う雰囲気を漂わせていた。

 ここに来るまでの道のりにも人はほとんどおらず周辺を沈黙が包んでいる。

 深夜の学校、その校門に今俺はいる。

 なぜここにいるのかというと晩ご飯を食べ終わると涼からメッセージが届いたからだ。内容はまだ来てないことへの指摘がメイン。それだけにとどまらず学校を写した写真まで添えて。

 なんだか急に不安になったからここまで来たが流石に心配のしすぎだったか。今思えばなんでそんな不安なんて感じてたんだろう。

 パッと見たところ電気がついてる場所はない。先生ももう帰っているらしい。

 写真の場所は校門だったけどここにはいないみたいだし、涼は先に入ったかもう帰ったんだろう。

 まぁ、メッセージが届くまで完全に忘れててそれから準備して来たから今は時刻が二十三時、涼がいないのも当たり前か。それに本当に急に不安になったから行くって返信もしてないしな。

 来るかどうか分からない人を一時間も待つわけがない。少なくとも涼はそういう人じゃない。涼はひたすら一人でも突っ走るタイプだ。

 俺が不安に思ったは何かの気の間違いだ。そう思うことにして帰ろう。


「ここが入口ですか。やっと着きました」


 急に後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 この声はなんだか今日聞いたばかりの声に似ているけど流石に気のせいだよな、うん。


「あれ?そこの人、何してるんですか?」


 その声の主は俺に近づいて顔を覗いてくる。声の主の顔はかろうじて見ることができた。

 やっぱり知ってる人だ。この青い髪とこの顔は今日見たことがある。


「フードを被ってて顔がよく見えません」


 どうやら少女は俺がフードを被っているせいで顔をうまく捉えることができてないらしい。

 俺は被っているフードを脱いだ。


「あれ?昼間の人じゃないですか⁉︎こんなところで何してるんですか?」


「それは俺のセリフだよ」


 少女は俺の顔を確認すると表情を明るくする。それに対して俺は呆れたようなため息をした。

 やっと着いたって言ってたけどまさか今初めてここに着いたんじゃないよな?今までずっと彷徨ってたなんて言わないよな?


「私ですか?私はこの学校に用があるって言いませんでした?」


「それって今から始めるの?」


「はい」


 少女は真顔で告げる。

 え、ほんとに今まで道に迷ってたの?俺、真っ直ぐって言ったよね?

 確かに校門くるまでにはちょっと曲がらないといけないけど、外周回ってたらすぐ着くし、それどころか突き当たりまできて右向けば見えるよ?

 どうしたらそこまで迷えるの?方向音痴って次元の話なのか?


「それで、あなたはどうしたんですか?」


 少女は不思議そうな顔で尋ねてくる。


「俺は今帰るところだから気にしなくていいよ」


「でも、学校の方をじっと見てましたよね?」


「そりゃ、たまたま通りかかったからだよ」


「でも、そんなあんなにじっと見ます?」


 俺、そんなにじっと見てたか?全然自覚ないんだけど。

 通りかかっただけでめちゃくちゃじっと見るかって言われてもそりゃ見ない気がするけどさ。そこまで見てたかな?

 ただ夜中に学校なんて見ないからちょっと珍しく思っただけなんだけど。


「それより、お前はどうするんだ?」


「え、どうって?」


 少女はキョトンとした顔を浮かべる。


「こんな夜に来てもお前が探してる人なんていないんじゃないか?」


 今学校にいるとしたら教師か警備員ぐらいなものだと思うが、もしかして探してる相手っていうのはこの中の誰かだったりするのか?


「そうですね、確かにそうかも。じゃあ、今日は調査の方だけして帰りますかね」


 そういえば目的は探し人だけじゃなくて調査もあるって言ってた気がするけど。こんな時間に何を調査するんだ?

 配管のチェックとかか?そんな感じの人には見えないが。

 調査に関して何も言えないって言ってたけど。気になるな。


「そういえば自己紹介がまだでしたね。私は蒼花麗菜(あおばなれいな)と申します。気軽に麗菜って呼んでください。あなたは?」


 少女、もとい麗菜は笑顔で名前を聞いてくる。

 自己紹介する流れなんてなかった気がするけど、名乗られたからにはこっちもしないと失礼だよな。


「俺は菅橋晴希。好きなように呼んでくれたらいいよ」


 あれ、俺が名乗ったら麗菜が突然口元を押さえて驚いた表情を見せた。


「え、も、もしかして、あの晴希さんなんですか?」


 麗菜は驚愕をあらわにしながら言葉を綴る。

 あのなんてつけられるほど大層なことした経験なんてないんだけど。何かで賞を取ったり、何かを世に発表したりしてないよ、俺。


「そうだけど、一体何?」


「そうなんですね⁉︎まさかお目当ての人物に会う、いや会ってたなんて、私ってば運がいいですね!」


 麗菜は手を掴んで上下にブンブンと動かしながら喜びの表情を浮かべる。

 深夜なのにこのテンションは場所によっては怒られそうだ。

 というか握られてる手が痛い。そんなに力入れなくてもいいと思うんだが。


「ちょっと待ってくれ。何がどういうことなんだ?」


 目的の人物っていうのは探していた人のことだろう。

 では、なぜ俺なんかを探してたんだ?誰かに頼れと言われたらしいけど俺はそんなに頼りになるやつじゃないし、そんなので世間に通ってない。

 それにこの反応はなんだ?まるで好きな芸能人に会ったような。俺はそんなすごい人じゃないんだけど。


「私はあなたに会いにここに来たんですよ。まぁ、調査もありますけど」


「なぜ、俺に会いに?」


「あなたはすごく頼りになるから調査にはぜひ力を貸してもらうといいって、言われたので」


「なぜ頼りになって、それは誰から言われたんだ?」


「それはあなたが世界を救った英雄だからですよ!それにそう言ったのはあなたの相棒だった人です」


 何を言ってるんだこの子は。

 俺が世界を救った英雄?

 ないない。俺はこの街すらまともに出たことのない人種だぞ。世界なんて股にかけられないよ。

 それに相棒だって?バカ言わないでくれよ。俺は誰かとどこかに行った記憶なんてほとんどないよ。

 誰だ、その相棒を装ってそんな嘘流し込んでるやつは。


「そうか!あなたがここに来たのも調査のためだったんですね!納得です!じゃあ早速行きましょう!」


「ちょっ!まっ!」


 麗菜は笑顔で俺の手を引っ張っていく。

 なんでこんな力強いんだ?こっちが引っ張ってもびくともしないし、おまけにさっきと同様に握られた手が痛い。

 こんな細い腕のどこからこんな力が出てるんだ。

 抵抗をしてみるものの全く効果がなく引き摺られていく。


「そういえば、まずどこに行けばいいんでしょう?」


 麗菜は唐突にその足を止める。

 そんなところで詰まられてもこっちはまるでわからないんだが。こっちはそもそもなんの調査をしているのかすら知らないんだから。


「どこ行けばいいと思います?ってなんでそんなに疲れてるんですか?」


 なんでってそりゃ、頑張って手を振り払おうとしたからですけど?

 見た目以上に馬鹿力だね。褒めてるんだよ、もちろん。


「いつまで手、握ってるんだ?」


「え?」


 麗菜は視線を落とし、自分の手に目をやると一気に顔が赤くなった。そして勢いよく手を離す。


「す、すみません!私ってばテンションが上がっちゃって」


 何に対してテンションが上がるのか意味不明だけど手を離してくれて助かったよ。握られてる手、痛かったからさ。

 その、ちょっと俺の中の麗菜に対する評価が変わったな。今まではただの方向音痴だったのに。


「そ、それで、どうしましょう?」


 麗菜はテンパリながら話す。


「それなんだが、俺は帰るよ」


「え、調査しないんですか?」


「いや、俺それが目的で来たわけじゃないし」


 そもそも何調査するのか知らないし。

 夜中に学校に来たことバレて怒られるの遠慮したいし。


「え、こんなか弱い私を置いていくんですか?」


 麗菜は上目遣いで話しかけてくる。

 か弱い?

 そうだよな、か弱いよな。力がちょっとあるだけで精神的には強くないんだよな。力があるだけで。

 こんな感じで言われるとちょっと引け目を感じるけど中に入らないんだったらしょうがないじゃないか。


「君も帰りなよ。行く当てないんでしょ」


「それは確かにですね。でも、調査しないとと怒られる」


 麗菜はちょっと怯えたような仕草を見せる。

 怒られるっていうのは俺の相棒だったらしい人物にってことか?相棒だったってことはまるで信じてないけど。

 結構スパルタなのか?こんな少女を一人で行かせるなんて。

 力に関しては、まぁはい、うん。


「調査って何を調査してるんだ?」


「えっとこの辺りに出るっていう・・・・・・なんだったかな?とりあえず、この辺りの最近の噂を確かめてこいって話でした」


 なんか聞いたことのあるような感じだけどまさか涼とお目当てが一緒となんてことはないと思う。思いたい。一緒だったところで特に何もないけど。

 もし、一緒だったとしたらこの子は何をしている人なんだろう。探偵か何かなのかな?


「なぁ、それって」


 ドカンッ‼︎


 突如として鈍いが響き渡った。まるで何かが激突したような。


「い、今の音は⁉︎」


 麗菜が驚いたような調子で声を上げる。

 音は校門に向かって右側の曲がり角の奥から聞こえた。聞こえた音はかなり大きかったから加えられた力は大きく、ぶつかったものもそれなりに大きいと考えられる。

 でも、あんな音を出すものなんてこの辺りにあるのか?

 交通事故とかか?

 でも、交通事故ならもっと騒がしくなってもいいと思うがそんなことはなかった。

 俺が気づいてないだけで轢き逃げという可能性もあるだろうけど。

 何が起こっている?涼は関係ないのだと思いたいが。

 妙な胸騒ぎがする。気になって仕様がない。


「気が変わった。俺も行くよ」


「え、いいんですか?」


「ああ」


 起きた場所は近くに誰かいるのならそこに集まるだろう。知り合いや教員なんかに会う可能性が高まるが涼と出会う可能性だって上がる。

 何が起こったのか知りたい。何もなければそれでいい。

 だけどこの胸のざわつきはなんだ?何かがある気がする。

4/4 22:30 1話と共に少し内容を変更しました。

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